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第四楽章 組織(前編)



 ウイルラントもルウスと同様の態を成していた。

 先の六月二日の攻勢でウイルラント軍はバルバット軍に国境線近くまで追い返されていた。大統領アルマートによる強行姿勢とは裏腹に、国民は友好的であったバルバットへの戦争に消極的でありバルバットもジーンズの支援を拒否し、あくまでウイルラントとの平和的解決手段を模索していた。その血に染めた手で、

ウイルラント首都シャッコ―の大統領官邸に一人の女性が呼ばれていた。

ガーオ総統御堂流子、鞠と芽依の母であり、ガーオの真のリーダーとして第三次世界大戦の裏側の戦いを指揮してきた人物であるが、ジーンズでは彼女を悪の巨魁と呼ぶ。

「流子総統、ガーオはなぜあのような戦いをなさるか。」

官邸の面会室でアルマートは前節を省いて言い放った。

「ああいう戦いとは、どのような」

「とぼけないでいただきたい。先日の攻勢を止めようともせず、あっさりと前線を明け渡したそうではありませんか。ガーオ軍は我々に本土決戦をせよとでも」

「戦術的撤退というものでありましょう。わが軍内でも考えあってのことでしょう。」

「あなたは・・・自ら指揮なさらないのか」

「ことを成す・・・・確かに戦争に関しては部下たちに一任しています。以後、気を付けるとしましょう。」

「あなたという方は・・・・・以後・・・お願いしますぞ。それで、ガーオ軍に、防衛戦での勝利の確約をいただきたいっ・・・・。」

「私が言うのもなんでしょうが、やり遂げて見せましょう。」

「たのみますぞ、」

アルマートは全神経を落ち着かせるように、流子の退出と同時に息を吐いた。

彼女が玄関前に停められた車から宮本の手招きを受けると、促されるように車へと乗り込んだ。

「宮本、この車に盗聴器はあるかしら、」

「入っていませんよ。あの男は自分の手で諜報機関を潰した男です。」

「そうね。それより、その大統領が撤退するなと横やりを入れてきたわ。工作は順調ね。」

「勿論、ただ目を欺くには受けたほうがよろしいでしょう。もし、政権転覆を進めていると知ったら」

「その時はその時、ウイルラントが血か法のどちらかで今までのツケを払うかだけよ。ただ私たちの命の保証には官邸を地に染めるのは避けたいわ。」

「あちらさんにも、なるべくとは口を入れていますが完全に信用されているわけではありませんから、アイル・デルンとの密約が果たされればよい方向に事は運びます。」

「そう、アイル・デルンという助け船がバルバット半島に吉をもたらすか、楽しみだわ。」

「いえ、もたらしてもらいます。」

「アイル・デルンの総統は安田弓だったわね。今でこそ指揮官と外交官の二つの顔を持っているけれど、塾生の時はスポーツに真面目な子だったわ。」

「ガダルカナルで再開したときはまるで別人のようでしたよ。」

「塾生とその師が歩むのは蛇の道か、まあいずれ真実を見ることになるわ。前線の状況は、」

「バルバット軍の攻勢の前に撤退したことで防御陣地は厚めになっています。」

「なら薄くして敵を手招きしなさい。そこで止めるわ。」

「後は好きにさせてもらってもよろしいのですね。」

「度を過ぎない程度にね。」

宮田明穂はガーオ軍総司令である。総司令であった今井が北海道決戦での失敗の責任を取り司令職を辞したため、序列・能力ともに優秀な彼女が抜擢された。宮田は塾生第一号として魔術を学び、その能力が認められ日本軍魔術実験師団幕僚長に迎えられる。

これは一般の魔術師としては異例の待遇であった。

防衛命令を出されたのは翌日の六月七日の午前十時三十分、やや訓令じみた命令文書が最前線司令部へと送られた。

「現地にて戦線を守れ、あとは各個の判断により戦闘を継続せよ。本官は諸君らの聡明かつ勇気ある判断を望む。」

との文章であった。

ガーオ軍将帥たちは再三の撤退戦に半ばうんざりしていたこともあり、彼らの戦術方針は、ほぼ固まっていた。「専守防衛」一色にである。

そもそも専守防衛は強固な防御態勢を確立し敵の攻撃を迎撃し、これを停止または消滅させるものである。これは防御が攻撃より強力であるとのクラウゼヴィッツの戦争論に依ったが、ガーオ軍の顔ぶれにとっての専守防衛は意味が異なる。

攻勢をかけ相手を守りの体制に引きずり込み、その間にガーオ側の防御線を厚くするもの、第三次世界大戦時に春波高地会戦で実施しジーンズ軍を完全に釘づけにした。

ここで先発的に攻撃するにあたり、強力な防御と攻撃は種を異なる行動であるため、あらかじめ双方の仕事を分け、時間的余裕を得るための二人の司令官と密な連絡網が必要となる。ガーオ軍は高い技術力と人材力を背景に数の劣勢を補っていた。

無論これはバルバット軍にも知られていたが四度の防衛線で一度も行わず、疑問視する声さえあった。





次回は二十五日です。

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