『兎を追いかけて』
更新が遅くなってすみませんm(__)m
扉の向こうは縦長の形をした広間だった。
低い天井をランプが一列に並んでいる。
壁には、右に4つ、左に4つ、合わせて8つの扉があった。
他は広間の中央にガラスでできた三本脚の机があるだけで、白兎の姿は見当たらない。
「もしかして……」
一番近くにある扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。
他の扉も同じだった。
白兎はどこに行ったのだろう。
アリスは鍵がないか辺りを見回してみた。
机の上に金色の鍵が載っている。
手に取って見てみると、小さな輪っかに大きさや形の違う鍵が13本もついていた。
端から試してみようと、鍵穴に鍵を挿し込む。
その時、どこかの扉から女の子の笑い声がした。
それだけではない。
壁、天井、床、ありとあらゆる所から視線を感じる。
「だれ?」
アリスが声をかけると笑い声は唐突に止んだ。 沈黙した広間に視線だけが残る。
気味が悪くなったアリスは、とにかくこの広間から出ようと鍵を次々に試した。
しかし、13本も鍵があるというのに、どの鍵穴にも全く合わない。
そしてとうとう最後の扉に来てしまった。
アリスは祈るような思いで鍵を回した。
鍵がくるりと一周する。
安堵のため息をついて扉を開けた。
――穴だ。
扉の中には穴があった。
けれど、とても人が通れるような大きさではない。 こんな穴を通れるのは猫かネズミくらいだろう。
他に鍵がないかもう一度机を確かめると、最初は気付かなかった小さな瓶が転がっていた。
ラベルには飾り文字で『私を飲んで』と書いてある。
瓶の中で揺れる青い液体は見るからに怪しい。
そんなものを飲む気にはとてもなれなかった。
アリスは瓶を机に戻すと腰を屈め、穴を覗き込んだ。
やはり頭すら通りそうにない。
「きゃっ……!?」
立ち上がろうとしたアリスの足元を黒い影がかすめた。
「ネズミ?」
泥水を被ったような薄汚い色だった。
ネズミはしばらくの間机の陰からアリスの様子を窺っていたが、急に、物凄い速さで襲いかかってきた。
「痛いっ……!」
鋭い爪がアリスのふくらはぎを抉る。
黄ばんだ牙が皮膚を突き破った。
噛む、ではない。
ネズミはアリスの肉を喰いちぎった。
「あぁぁ!!」
声にならない悲鳴を上げてしゃがみ込む。
血が、失った部分を埋めるように溢れ出した。
ネズミが再び飛びかかる。
しかし、アリスは傷口を押さえた格好のまま、ネズミに気が付かない。
赤く染まった牙が届く、その寸前――
「アリス!」
黒い仔猫がアリスの背後から飛び出し、ネズミを弾き飛ばした。
「早くあの薬を飲んで!」
「く、薬?」
「そこの瓶に入ってる!」
そう言ってアリスを背に庇い、ネズミと対峙する。
アリスはそれが何の薬かも分からなかったが、猫の言う通りに液体を飲み干した。
途端に周りの景色が揺れだし、視界がどんどん下がりだす。
目の前に大きな黒猫が現れた。
いや、違う。
アリスは小さな仔猫と変わらないほどに縮んでしまったのだ。
「ちょっと我慢して!」
「きゃっ」
猫は小さくなったアリスをくわえて駆け出した。
そして穴に放り込むと、踵を返し、ネズミに喰らい付く。
ネズミがまるで人間のような悲鳴を上げた。
アリスは穴に身を隠して、身震いした。
悲鳴が聞こえる度に、言いようのない罪悪感が沸いてくる。
やがて悲鳴は聞こえなくなった。
「……アリス」
姿を見せず、猫は言った。
「兎を追いかけて。君は必ず辿り着けるから」
アリスが穴から顔を出すと、猫はいなくなっていた。
変わりに、千切れたネズミの肉片が所々に散らばっている。
あの猫がやったのだろう。
アリスは足をもつれさせながら穴の奥へと進んだ。
行かなくては。
早く兎を追いかけなければ――。
引き裂かれ、血に濡れたネズミの姿が脳裏をよぎる。
早く、早く!
アリスは暗闇をひたすら進み続けた。
文章の書き方や読みやすさがよく分からず苦戦しています……
どなたかアドバイス、感想などいただければ助かります。