第一話 霊媒師マージェリー
本小説は、3部形式となる予定です。
今、世界は永久に続くかと思われる程に永い黄昏の中に、ゆっくりと沈んで行こうとしている。
待ち合いのソファーに2人の中年の婦人が座っている。
ケイは、その横を通り過ぎると、受付に向かった。
「連邦SI局から、こちらで申請のありました監査に参りました。」
「少々お待ち下さい。」
そう言って、受付の女は一旦奥へ入った。
直ぐに、色合いは地味だが仕立ての良いスーツを着た中年の男が出て来た。
生地もかなり値が張りそうな代物であり、その格好からは、身入りの良さが伺える。
「私は、ウォルター・バージェスと申します。霊媒を勤めますマージェリー・グランドンのマネジメントをしております。」
差し出された手を握りながら、ケイも挨拶を返す。
「連邦SI局の監査官、ケイ・アマギです。」
バージェスは、先客の二人を掌で示した。
「本日の監査は、こちらのお二方の降霊会にお立ち合い頂く形としたいのですが、宜しいですか?」
「私はそれで結構ですが、お二方はそれで宜しいのですか?」
「お二方には、既にご了承頂いております。」
ケイは、二人に歩み寄ると丁寧に挨拶した。
「初めまして、連邦SI局のケイ・アマギと申します。」
「初めまして、私はマーサ・エルヴィン、こちらは妹のエリザベス・ブラウンです。今日は、マージェリーさんに、これの亡くなった娘と会わせて頂こうと参りました。」
マーサが快活な口調でそう言うと、もう一人の婦人が無言のまま控え目に会釈した。
「そんな大事な時に同席させて頂く事になって、真に申し訳ありません。」
ケイは心からそう思っていた。
事態がケイの予想通りに運べば 、この2人にとっては不快な結果が出る事はほぼ間違い無いのだ。
「どうぞ、お気になさらずに。あなた方のお仕事が大変重要だと言う事は 、私共も良く存じておりますから。」
そういって、マーサは愛想良く笑った 。
「ところで、今日の審霊者は貴方がお勤めになられるのでしょうか?」
『審霊者』とは、霊媒の口を通じて話す(という事になっている)霊が、本当に呼び出したい相手かどうかを判断する人間の事だ。
「えぇ、リズは娘のアリスが死んでからすっかり消沈してしまっているので、私が冷静に判断してあげませんとね。」
面倒見の良い姉という役割がすっかり身についているんだな、とケイは姉妹の関係性が見えた様な気がした 。
バージェスは、マーサに紙とペンを渡した。
「それではまず、こちらのアンケートにご記入願います。」
マーサは、言われたとおり書き込み始めた。
かなり長いリストらしく、所々思い出すように首をかしげながら、延々と書き込み続けている。
ようやく記入し終わってバージェスに返そうとした時、ケイは声を掛けてみた。
「もし差し支えなければ、 参考にしたいので拝見できませんか?」
マーサがエリザベスに目配せをすると、エリザベスは無言で頷いた。
「よろしいですよ。」
そういってマーサが用紙をケイに差し出そうとした。
そのときバージェスが乱暴に割込んできた。
「決まりですから、それは出来ません 。」
そう言って、マーサの手から用紙をむしりとった 。
マーサはその剣幕にやや鼻白んだ。
「なぜですか?」
ケイが訊ねると、バージェスは事務的な口調で言った。
「プライバシーの問題です。」
ケイは皮肉な笑みを浮かべて言った。
「お二方が了承する所は貴方もご覧になられました。となると、このお二方以外に『誰か』プライバシーを守らなければならない人間がいると仰るのですね?」
バージェスは木で鼻を括る様な口調で突っぱねた。
「プライバシーを守ると言うのがルールですから、従って頂かないと困ります。」
道理も無く闇雲に強気で押しきろうとしている姿勢からして、余程見られたくない内容なのだろう。
これは無理にでも内容を確認する価値があるとケイは判断して、伝家の宝刀を抜いた。
「それでは、調査のための協力要請は拒絶された、という事で宜しいですね。」
監査を申請するためには、長期間に渡る(主に根回しという形の)手間と、それに伴う多額の費用がかかる。
そして、監査に合格出来なければ、その団体の面子は丸潰れとなる上に、更に別のトラブルの種にもなる。
そして、監査報告書に「監査に対して非協力的」と書かれれば、連邦政府自体に対して非協力的な姿勢と評価されるので、合格はほぼ絶望的だ。
バージェスは、しぶしぶと用紙を差し出す。
ケイは中を読んでみた。
名前・生年月日・住所・呼び出したい相手の名前、ご丁寧な事に名前は全て『愛称まで』書くようにと明記してある。
対象の性別・死亡時の年齢・死亡時の状況を『出来るだけ細かく』、さらに相談したい内容まで書く事になっている。
「やけに細かく記入させるんですな。」
バージェスは、さも当然という風に
「後で分類するためです。」
と言った。
「後で分類するためなら、後で記入してもらっても良いんじゃないですか?」
とケイが突っ込んでみると
「そういう決まりです。」
と事務的に答えた。
「そんな事はどうでも良いでしょう。用紙を返して頂きましょう。」
そう言って、バージェスはケイの手から用紙を引ったくると、振り向いて受付嬢に渡した。
その時、ケイが一瞬だけ顔を顰めた事には、誰も気づかなかった。
受付嬢は、用紙を受け取るとカウンターの向こうで何かゴソゴソとやっ ていた。
しばらくすると、顔を挙げ、
「どうぞ、お入り下さい。」
とドアに向かって手を振ってみせた。
マーサとエリザベスが立ち上がると、ケイも立ち上がった。
バージェスは、三人に続いて部屋に入った。
ケイは入り口を抜けると、一旦脇に避けてバージェスを通した。
部屋の中央には、四本足の丸型テーブルが置かれており、その回りには人数分の椅子が並んでいた。
テーブルの上には、タンバリンやメガホンその他がらくたが雑然と並べられている。
マージェリーは既に座っている。
部屋の隅に目をやると、二つのバケツが並んでいた。
ケイは、然り気無く中を確かめる。
一つは溶けた蝋で、もう一つは氷水の様であった。
「ようこそいらっしゃいませ。どうぞお座り下さい。」
マージェリーは愛想の良い声で手を広げて促す。
全員がテーブルを囲んですわる。
ケイはさりげなくマージェリーの右側に陣取った。
霊媒であるマージェリーの行動を最も監視しやすい場所だからである。
マージェリーから左回りに、マーサ、バージェス、エリザベスときて、ケイの順番である。
全員が席に就いたところで、ケイは部屋を見回す。
「おや、時計が狂っていますね。」
そう言いながら、時計を指差す。
「あの時計は6時12分、 あちらは8時16分。」
マージェりーは不機嫌な声で、
「そんな事はどうでも宜しいのじゃなくて?」
と切り捨てた。
バージェスの指示に従い、全員が両手の指を広げてテーブルの上に伏せて、隣り合う人間と小指同士を重ねた。
交霊術は暗闇の中で行われるので、全員が指を押さえあうことで、手を使えなくしてトリックの余地をなくそうというのだ。
マージェリーがテーブルの上の燭台のろうそくを吹き消すと、部屋は真っ暗になった。
マージェリーは、厳かな声で呪文を唱える。
「望まれし者、惜しまれし者、移ろいし者、いざや我が求めに応じ、来たりて語り給え。ラ・ビンメル、ラ・バンメル、ラ・ブーム」
呪文は、三度繰り返された。
しばらく沈黙した後、マージェリーの声の調子が変わる。
「誰が私を呼んだの?」
「私よ。」
マーサが答える。
「あら、マーシー。お久し振りね、元気?」
軽い驚きを覚えつつ、マーサが尋ねる。
「貴方の名前は?」
マージェリーが答える。
「アリス ・ブラウンよ。」
暗闇の中でエリザベスが息を呑む気配が感じられた。
「貴方のお母様の愛称は何?」
「リズね。」
マーサとリズは、驚きの声を上げた。
「後は何を聞けば良いんでしょう?」
マーサが訊ねると、バージェスの声がした。
「生年月日はどうですか?」
マーサは、再び訊ねる。
「貴方の生年月日 はいつ?」
「2154年8月16日よ。」
「後は亡くなった時の事などですね。」
再びバージェスが示唆する。
マーサは興奮を隠せない様子で尋ねる。
「貴方はなぜ亡くなったの?。」
一瞬、逡巡したように思われたが、回答が返ってきた。
「水の事故よ。あのときの記憶ははっきり思い出せないけど、おぼれたんじゃなかったかしら。」
その後半は何故か言葉を濁すようなニュアンスであったが、興奮したマーサは気付く事無く畳み掛けるように続けて訊ねる。
「そうね、アップル・クリークで。で、それは、いつの事?」
今度は、きっぱりと答えた。
「2163年の6月12日よ。」
それを聞くと、エリザベスは、おお、と感嘆の声を上げた。
マーサも涙声で
「間違い有りませんわ、この子はアリスです。」
と断言した。
アリス(あるいはマージェリー)は、優しく語り始めた。
「ママ、安心して。私はもう苦しんではいないのよ。」
その言葉に、エリザベスがはっと息を呑んだ。
「アリス、本当なの?」
エリザベスのすがる様な声に、アリスはゆったりとした口調で答えた。
「ええ、もうここでは何も苦しむ事はないの。みんな穏やかに微笑んで暮らしているわ。だからママももう悲しまないで。」
ケイは、今回の申請書類の内容を思い出していた。
心霊とのコンタクト技術者、2130年生まれ…生年月日からすれば42歳なわけだが、さすがに10歳の少女の声色を使うには少々無理がある。
真っ暗な中だから顔は窺えないが、エリザベスの声は、間違いなく涙声であった。
「おぉ、アリス。私がお前の様子に早く気づいていれば、死ななくて済んだろうに。お母さんを許しておくれ・・・」
アリスは、慰める様な声で答えた。
「誰ももうお母さんを責めたりしないわ。私はもう何も必要の無い満ち足りた世界に居るんだもの。」
「おぉぉ・・・」
エリザベスの声は最早涙で途切れ、言葉にならない様子だ。
その後、エリザベスは涙ながらに懸命にアリスに話し掛け、そのまとまりの無い問い掛けにアリスが優しく答えるというやり取りがしばらく続く。
これと言った具体的な内容は特に無く、詰まる所天国が快適な場所であり、何も苦しんでいない事を伝える事で、エリザベスの罪悪感を軽くするべく宥めているのであった。
ひとしきりそのやり取りを聞いていたケイは、中々感動的なシーンだがそろそろ仕事をしなくてはならない事を思い出し、気が進まないながら行動をはじめる事にした。
「マージェリーさん、ちょっとよろしいですか?」
「私はマージェリーじゃないわ、アリスよ!」
と10歳の少女を意識した声色できっぱりと答える。
「そうですか、ではアリスさん、少し質問してよろしいですか?」
その問い掛けに、気軽な答が返ってくる。
「ええ、良いわよ。」
ケイは、殊更に事務的な調子で尋ねた。
「貴方のお家の玄関のスペアキーは、どこに置いてありますか?」
「え?」
ケイは、質問を再度繰り返した。
「今は、そんな事を聞いてる時じゃないでしょ!」
先程と打って代わって、苛立ちを含む声が返って来た。
ケイは穏やかに尋ねた。
「答えられませんか?」
詰る様な調子の反応が返る。
「何言ってるの、失礼じゃない!」
何とかして答えずに済まさなければ、と言う焦りが声の調子に見て取れる。
ケイは、意外だと言わんばかりの口振りで重ねて尋ねた。
「玄関のスペアキーについて尋ねるのは、失礼なんでしょうか?」
間髪を入れず、返事がある。
「勿論よ!」
どうやら、力押しで強行突破する気のようだ。
「では、質問を変えましょう。勝手口のドアには鍵穴がいくつありましたか?」
ケイの冷静な調子の質問を、明らかに感情を害した様子で遮る様に言った。
「いい加減になさい!ヒトをからかわないで!貴方失礼にも程があるわ !!」
ケイは、少し揶揄するような調子で抗議した。
「何をおっしゃるんですか、アリスさん。私はごく真面目にお尋ねしているんですよ。」
はっきりと怒りを込めた声が返ってくる。
「何言ってるの!ヒトを小馬鹿にしたような言い方じゃないの!」
案外感情の沸点が低いと判断したケイは、もう少し慇懃無礼の方向で押してみる事にした。
「それはとんでもない誤解です。私はこれ以上ないくらい真摯にお尋ねしております。」
勿論、揶揄する様な調子は変わらない。
「嘘おっしゃい!笑っているんでしょ!!」
アリス(あるいはマージェリー)は、感情的に吐き出すように言った。
「この真っ暗な中で、私の表情が見えるんですか?アリスさん。」
こちらから誘導しなくても、自分から罠に足を踏み入れて来た事で少し手間が省けた。
「ええ、私は霊体だから、光なんか無くても何でも見えるのよ。貴方のそのいやらしいニヤニヤ笑いが見えてるわ!」
まだ、ガッチリと掴むのは早いと思ったが、罠を少し締め上げてみた。
「それではもう一つだけ、今私の左手の小指の先は何色ですか?光が無くても見えるんでしょう?」
マージェリーは罠を避けるのではなく、怒りに任せて力ずくで蹴散らしに掛かった。
「本当にいい加減にしなさいよ!今は玄関の鍵穴や貴方の小指の話をする時じゃないの!!」
ケイは笑い出したいのをこらえて、もう一押しするためにわざと重々しい口ぶりでゆっくりとしゃべる。
「真に残念ですが、貴方のただ今のご指摘には、見過ごす事の出来ない重大な事実誤認が含まれておりますので、是非訂正願いたく存じます。」
「な、何よ。」
虚を突かれたか、マージェリーの声から一瞬声力強さが失われる。
ケイはこみ上げる笑いを必死に噛み殺しつつ、殊更に勿体ぶった口調で指摘する。
「私は『玄関のスペアキー』と『勝手口の鍵穴』の話はしましたが 、『玄関の鍵穴』の話はしておりません。」
頭に血が上ったときに、本当に「きぃっ!」と叫ぶ人間ははじめて見た 。
「そんな事はどうでもいいわ!お黙りなさい!」
マージェリーは激しくなじる。
「おや、私の記憶が確かなら、貴方が私をわざわざ呼んだのではなかったですか?そして貴方は私の仕事についてよくご存知のはずですがね。 」
ケイは、自分の立場を思い出させる事にした。
「いくら私が招いたからといって、そこまで無礼な態度を許す理由はありません!謝罪しなさい!」
頭に血が上っていても、計算はちゃんと出来るようだ。
難癖をつけて謝罪させれば、一気に有利な立場に立てると踏んでいる訳だ。
「玄関のスペアキーと勝手口の鍵穴について尋ねるのが、何故失礼にあたるのか理解できませんね。しかも貴方が招く立場でありながら、ゲストに向かって謝罪を要求するのですか、マージェリーさん?」
ここで、ケイは一つ目の罠を締め上げた。
「ええ、貴方の無礼さは度を越しています!誤りなさい!!」
これぐらい頭に血が上れば充分だと判断したケイは、一呼吸置いて、一太刀浴びせ掛けた。
「ところでマージェリーさん、もう一つ質問して宜しいでしょうか?」
空とぼけた口振りで話し掛ける。
感情を逆なでされた事で冷静さを失ったマージェリーは怒りをむき出しにして答える。
「何よ! 」
ケイは、あくまでとぼけた調子を続ける。
「いえ、大した質問ではありませんが、アリスさんはどちらへ行かれたのでしょうか?」
うっ、と明らかに言葉に詰まった様子だ。
「たしか、霊が降りている間は、マージェリーさんの意識は無くなっていると伺っていた筈ですが?」
ようやく失言に気づいたようだ。
「あ、貴方が失礼な態度を取る物だから、アリスはへそを曲げてしまったわ!どうしてくれるの!!」
あくまで、強気で押して行く気のようである。
「それは困りましたね。」
ケイの言葉を、弱気の現れとみたマージェリーは、威にかかって攻め立てようとした。
「どうしてくれるの!謝りなさい!」
ケイは、その勢いをいなす様に言った。
「いや、謝るのは別に構いませんが、このままアリスさんが帰ってこないとなると、報告書には『申請者は非協力的態度に終始したため、検証は完遂不能となった』と書くしか無くなりますからね。困った事だと思われませんか?」
その指摘で深追いし過ぎた事を悟ったマージェリーは、明らかに慌てた様子で、その場を取り繕う様に急に愛想良くしゃべり始めた。
「あ、いや、そのもう一度呼んでみましょう。今度はアリス自身に直接答えてもらいますわね。」
この商売は、頭の切換が早くなければ勤まらないのだ。
「アリス、アリス、どうかお願いだから機嫌を直して帰ってきて。」
懇願するような口調で、マージェリーが問い掛ける。
その時ケイは、マージェリーの右手の小指が離れそうになったのに気付き、左手を左に少し滑らせ、再び指の先端を重ねる。
マージェリーは虚空に向かい、何度も懇願を繰り返す。
その間に、何度もマージェリーの指は離れそうになり、その都度ケイは、手を左に滑らせて指先を追った。
やがて、マージェリーは安堵の溜め息と共に言った。
「ああ、アリス。やっと帰ってきてくれたのね。ありがとう。」
その言葉に、マーサとエリザベスも同様に、安堵の溜め息を漏らした。
「やって来たならテーブルを1回動かして頂戴。」
マージェリーが問い掛けると、テーブルは大きく傾き、また元に戻る。
「どう?ちゃんとアリスは戻ってきましたわよ。」
ケイには得意満面なマージェリーの表情が見える様な気がした。
「アリスさん。テーブル以外の物を動かしてみてもらえませんか。テーブルならマージェリーさんも手を触れていますからね。 マージェリーさんが動かしていると疑われないとも限りません。」
その時、マージェリーの指とケイの左手の子指が離れた。
「ちょっと、離しちゃだめじゃないの!」
マージェリーがケイを叱りつける。
ケイは左手の小指を動かして、マージェリーの指を探り、触れた指に自分の小指を重ねる。
テーブルの上のタンバリンが涼やかな音を立てる。
リズムを取って、 シャンシャンとタンバリンが鳴り続ける。
「アリスさん、何か別の事はできますか?」
ケイが尋ねる。
「あたしが 、直接お話しましょうか?」
ワンワンという残響と重なって、くぐもった声が響く。
「どうやってしゃべっているんですか?」
ケイが尋ねると、答が返ってきた。
「メガホンの中に、エクトプラズムを凝縮させて声帯を作るの 。」
「エクトプラズムと言いますと?」
「霊体を構成する霧状の物体の事よ!そんな事も知らない訳?」
ブリキのメガホンに反響して聞き取りにくいが、それでも優位に立ったという余裕が感じられる。
「10歳のお嬢さんがそこまで勉強するのは、さぞ大変だったでしょう ね。」
そう言われて、ようやくケイの皮肉に気づいた様子で、反論してきた。
「霊体になれば、年齢も何も関係なく全ての事が理解できるのよ!」
「そうですか。」
ケイは、もう少し引っ張ってみる事にした。
「その『全て』には、玄関の鍵の置き場所と裏口の鍵穴の数は含まれないんですか ?」
鈍い音が響き、ケイの目の奥で火花が散った。
思わず、ケイは両手で顔を覆った。
「メガホンで殴るのは、いくらなんでもやり過ぎでしょう。」
ケイは、とりあえず抗議してみたが無視された。
やむ無く、ケイはテーブルに手を戻し、マージェリーとマーサの手と指を重ねた。
その後、アリスは饒舌にエリザベスとマーサに語りかけ、二人は興奮を顕にした様子で、やり取りをしている。
ケイには、二人の嬉しげな表情が見える様な気がした。
この調子では、マージェリーとバージェスが一言も喋っていない事に気付いてはいないだろう。
アリスがエリザベスの求めに応じて(上手とは言い難い)歌を歌って見せた時には、二人は力一杯拍手をした。
恐らくあの勢いでは、二人共手が真っ赤になっているだろうと、ケイは思った。
やがて、アリスは名残を惜しむ様に言った。
「ごめんなさい。もうそろそろ帰らなきゃいけないの。あんまり楽しかったんで、長居をし過ぎたわ。もう心霊エネルギーが切れそうなの。」
その言葉に、エリザベスとマーサは、はっと息を飲んだ。
やがて、エリザベスは寂しそうに言った。
「来てくれてありがとう。無理をさせてしまって、ごめんね。」
「ううん、とっても楽しかった。また会いたくなったら、マージェリーさんにお願いして、呼んでちょうだいね。」
マーサが答えた。
「勿論よ。」
アリスは、最後に言った。
「今日の記念に、あたしが来た証拠を置いていくわ。これを見て、あたしを思い出してね。それじゃ、さようなら。」
「もう良いわ、開けてちょうだい。」
マージェリーの声に応じて、ドアが開かれた。
ドアから射し込む光の眩しさに、全員が目を細めた。
ようやく目が馴れてきたころ、テーブルの中央に白い二本脚の塔の様な物が立っているのが見えた。
その高さはざっと20センチ弱だ。
ケイが目を近づけて見ると、それは蝋でできた両手の指先を組み合わせた物であった。
その型は、組み合わせた両手の指先から始まって、親指の付け根の少し下で終わっている。
「これが、アリスの言ってた証拠ね。」
マーサが興奮の余韻を隠せない表情で言う。
「触っても宜しいですか?」
エリザベスの方を伺いながらケイが訊ねると、エリザベスは無言で頷いた。
恐る恐る手を触れ、そっと持ち上げてみたそれは、驚くほど軽かった。
その理由は直ぐに判った。
中は完全に空だった、というよりは、ごく薄い蝋の手袋の様な代物であった。
指先を組んだままの両手を溶けた蝋に浸し、引き出したら直ぐに氷水で冷やして固めたのであろう。
マージェリーは、どうだと言わんばかりの表情でケイに言った。
「どう 、納得いきまして?」
「中々興味深い実験でした。」
余裕の表情でケイが応じた。
「今すぐに謝罪すれば、許してあげても宜しくてよ。」
あくまでも謝罪に持ち込んで、一気に劣勢を挽回したい様だ。
「その前に、この手について、少し調べさせて下さい。」
ふん!と鼻先で笑って、マージェリーは言った。
「好きなだけ見れば良いでしょう。でも、その蝋が固まってから、型を壊さない様に手を抜くのは、それこそ心霊でなければ不可能よ!」
その勝ち誇った様子を気にも止めず、ケイは言った。
「この手は、10歳の少女の物にしては、少々大きすぎる様ですね。どちらかと言うと大人の、それも男の手くらいあります。」
マージェリーは一瞬狼狽したが、直ぐに反論した。
「か、彼女は、心霊ですからね。大きさなんて関係無いわ!好きな様に大きくも小さくも出来るのよ。」
「うーん、もしこの手がこの部屋にいる誰よりも小さければ、私も納得したんですが。」
「だから、大きさなんかどうにでもなるって言ってるでしょ!むしろ、10歳のアリスがこんな大きな手形を残せた事自体が、心霊の力の不思議を示しているじゃないの!」
マージェリーはあくまで強弁で通す気な様なので、ケイは話を進める事にした。
「そういう解釈も可能ではありますが、この大きさは、バージェスさんの手と同じくらいですね。」
ケイの指摘に、マージェリーは勝ち誇った様に言った。
「だからどうだって言うのよ?この手形を壊さない様に手を抜く事が、人間に出来る筈が無いでしょう!」
その言葉に、エリザベスとマーサは頷いた。
面倒臭いがやって見せる他はあるまい、とケイは判断し、壁際のバケツに歩み寄ると、両手を氷水に突っ込んだ。
覚悟はしていたが、その余りの冷たさに、思わず軽く呻いた。
ギャラリーが注目する中、指先の感覚が無くなるまで冷やした後、その手を先程見た手形と同じ様に組んで、蝋のバケツに突っ込んだ。
たちまち指先の感覚が戻って来る。
直ぐにその手を組んだまま引き出し、再び氷水に突っ込む。
表面を覆う蝋を通して熱が奪われ指先が冷たくなってきた所で、手を引き上げるとその型を保ったままテーブルの前に戻った。
バージェスを見ると、彼は気まずそうに目を反らした。
「そ、そのままなら同じ型かもしれないけど、手が抜けなければ意味が無いでしょ!」
マージェリーがそう決めつけると、ケイが答えた。
「私は、バージェスさんほど手際良くは行きませんから、ちょっと時間がかかりますが・・・」
そう言いながら、蝋の手袋の中で両掌のあちこちを小刻みに動かして行った。
マージェリーとバージェスは、見たくもないという風で目を背けようとするが、やはり気になるのか、時おりちらちらと視線をケイの手許に投げる。
エリザベスとマーサは、食い入るように見つめていた。
やがてケイは、悪戦苦闘の末に手を抜き取って中が空になったそれを、アリスの置き土産の横に並べて置いた。
その2つは、殆ど区別がつかなかった。
ただ、ケイが置いたそれは、何故か左手の小指の先が赤く染まっていた。
無言のままそっぽを向いているマージェリーに、ケイが言った。
「ああそうだ、一つ謝罪しなければならない事があります。」
ケイの言葉に、マージェリーは怪訝そうな表情になった。
「実は、先程控え室でバージェスさんが私の手から書類を引き抜いた際に、紙の縁で左手の小指が切れましてね。ですからマージェリーさんの右手の小指に大分血がついてしまいました。」
その言葉に、マージェリーはさっと青ざめた。
「ところで、何故タンバリンやメガホンに血の跡がついているんでしょうか?」
ケイはここで勝負に出た。
「そんなの知らないわ!あなたがつけたんでしょう!」
その声は、予想外の展開に明らかに狼狽して、震えている。
「では、私たち二人の指紋と比較してみましょうか?」
そう言って畳み掛ける。
マージェリーとバージェスは押し黙ったまま睨み付けている。
「あのぅ、どういう事なんでしょうか?」
我に返ったマーサが尋ねた。
ケイは、マージェリーとバージェスの方を伺いしばらく様子を見たが、二人からは何も説明が無さそうなので、自分で説明する事にした。
「結局のところ、マージェーリーさんの言う所の、『アリス』さんは、先程のアンケートの内容以外のことは何も話していないわけです。」
「それは、偶々そうなっただけよ!第一私はそのアンケートを見ても居ないもの!」
マージェリーが叫ぶ。
「確かに、『直接は』見ていないですね。」
ケイが軽くいなす。
「どういう事でしょうか?」
マーサは、怪訝そうに尋ねる。
「アンケートの内容を知らせる方法は、いくらでもあります。例えば、アリスさんの死因についてなら理由が事故か病気か事件かを表す3種類のサインと、原因が水か火か刃物かその他かを表す4種類と、病気なら大雑把な病巣の位置を示すサインが5種類程度あれば、充分に伝えられます。特に、 事故の原因と病巣の位置は同時に使う必要は無いんですから、同じサインを死因によって使い分ければ、全てで8種類あれば足ります。バージェスさんは、この部屋に入るときに「さあ、お入りください」と言いましたが、『さあ 』が事故死で『どうぞ』が病死を表し、『お入りください』が水/頭で 『あちらへ』が火/胸を表すような感じで、充分に伝達できますね。」
マージェリーが顔を紅潮させて言った。
「では、アリスが死んだ場所が、『アップル・クリーク』であることを指摘した点については、どう説明するのよ!」
するとマーサが頸を傾げて言った 。
「そうよね。」
ケイは、その反撃に、穏やかに指摘した。
「いいえ、私の記憶ではマージェリーさんは『水の事故』であったことと、『多分』溺れたんだろうとしか言っていません。」
マージェリーは、威にかかって捲し立てた。
「うそおっしゃい!ちゃんと『アップル・クリークで』と言ったわよ!ねぇ、エルヴィンさん、そうでしょう?」
一気にまくしたてられたマーサは、自信なさげに肯いた。
人間は、会話全体の趣旨は忘れない物だが、個々の発言がどちらから出た物かといったディテールは、簡単に忘れがちである。
マージェリーは、それを判った上で、マーサの記憶を書き替えようとしている。
「ええ ・・・確か・・・」
ケイは、記憶の改竄が既成事実化する前に、事実を指摘して正しい記憶を強化した。
「いいえ、『アップル・クリーク』だと言ったのは、エルヴィンさんですね。」
マーサは考え込む様に俯いていたが、やがて、顔を上げた。
「ええ、そうでしたわ。」
記憶の改竄に失敗したマージェリーは、即座に攻撃の方向を転じた。
「で、では、このお二人の名前はどうやって伝えたと言うの?」
ケイは、冷静に指摘した。
「名前は、わざわざ伝えなくても、元々エルヴィンさんの方から申し込んでいるわけですから、その時点で聞いているはずですね。」
マージェリーは、連続して転進するのは不利を認める事になると考えた様で、もう一歩踏み込んで来た。
「じゃあ、ブラウンさんの愛称を当てた事は、どう説明するのよ!」
その反撃は予想できていたので、事も無げに答えた。
「名前がエリザベスなら、愛称は大体リズでしょう。もしそれ以外ならば、それを伝えるサインを使うのではありませんか?この場合は、サインを使わない事自体が、通常の愛称である事を示すサインになっているんでしょう。」
反撃を軽くかわされたマージェリーは、怒りを装う事で敗北を認めまいとした。
「全部あなたの下種な勘繰りじゃない!証拠は無いでしょ!」
証拠の無さで一点突破する気の様だ。
ケイがうんざりするほど見てきたパターンだ 。
今度は、ケイのターンだ。
「そうでしょうか?ところでこういう場合に、普通なら誕生日と命日を的中させたことを真っ先に主張しそうですが、何故その事には触れないんで しょう?」
明らかに、触れられたくない点を指摘されて、マージェリーは狼狽している。
「そ、それは・・・」
ケイは壁に目をやる。
「いつの間にか、時計の針が正しい時間を指していますね。」
マージェリーは、無言である。
「確か、この部屋に入ったときには、左の時計の時・分がアリスさんの誕生日の月・日と一致し、右の時計が命日の月・日と一致していましたね。」
やはり返事はない。
「気づかれたときは時間を直さないように指示しておくべきでしたね。 」
ケイがだめ押しをすると、マージェリーは話を反らそうと、別の話題を持ち出した。
「そ、それじゃあタンバリンが鳴ったり、メガホンから声が出た事はどう説明する気?」
マージェリーは、破れかぶれで反撃を試みる。
「それこそ、貴方の左手の親指に何故血がついているのか、と言うのが答えですな。ご説明いただけますね。」
マージェリーの沈黙を他所に、エリザベスとマーサに説明する。
「マージェリーさんは話をしながら少しずつ左右の手を近づけていったんですよ。そして、左右の手が重なるほど近づいた時に、右手をさっと引いて、私に「手を離すな!」と怒鳴りつけ、あたかも私が指を離したかのように思わせて、左手の親指を右手の小指だと思い込ませようとしたわけです。そして、右手を自由にしたら、タンバリンを鳴らすことも、メガホンでしゃべる事もできたわけです。ブリキのメガホンを通せば、声が大分変わりますからね。あえて声色を使わなくても、マージェリーさんの声には聞こえなかったんですよ。」
バージェスが割込んでくる。
「で、ではテーブルが動いた事はどう説明する気だ?」
ケイは、軽く笑いながら、マージェリーを振り返る。
「商売とはいえ、そんな太い棒が袖に入った服では、肩が凝るでしょう。」
マージェリーは、視線をあさっての方に反らせた。
「な、何を言ってるのか、さっぱり判らないわ。」
ケイは、エリザベスに話し掛けた。
「ブラウンさん、マージェリーさんの左袖を触ってもらえますか?」
マージェリーは狼狽しきっている。
「やめて!」
ケイは穏やかに止めを刺す。
「何も入っていないなら、触るくらい問題ないのではありませんか ?」
エリザベスがマージェリーの膨らんだ左袖を掴むと、はっと表情を変える。
明らかにその手は、硬い棒状のものを掴んでいる。
「で、その棒をテ ーブルの下に差し込んでテーブルを持ち上げたわけです。なにか、反論はありますか?」
マージェリーとバージェスは、不貞腐れた様にそっぽを向いている。
「特に有効な反論もないようですから、私の監査はこれで終了とします。ご協力感謝いたします。」
ケイはそう言って一礼すると、部屋を出た 。
控え室を通り抜けようとした時、マーサが追いかけてきた。
「あの・・ ・」
マーサがおずおずと問い掛ける。
「はい、何でしょうか?」
ケイが穏やかに返事を返すと、マーサは言いにくそうに続ける。
「その・・・私たちは、マージェリーさんを信じても良いのでしょうか?」
もう散々見てきた事なので今更驚きはしないが、あれほど明確なイカサマの証拠を目の前にしても、なおペテン師を信じようとする人々の気持ちは、ケイにはどうにも理解できない。
ケイは微笑んで答えた。
「それは貴女方ご自身がお決めになる事で、私にはなんとも申し上げ様がありません。それに関して私に出来る事は、マージェリーさんのやった事は、全てトリックで説明がつくし、実際に何点か証拠を挙げて指摘した事に対して、マージェリーさん側からは何ら有効な反論は無かった、と言う事実を指摘する事だけですね。」
マーサは、しばらく逡巡していた。
恐らくは、ここまでにマージェリー達に多額の支払いをしているだろうし、今日の降霊会のためにわざわざ遠方からやってきているので、その費用や手間も相当な物であろう。
今ここで、イカサマである事を認めれば、その出費や手間が全て無駄になる訳だ。
人間は、心理学的には世界をありのままの姿で認識する事は出来ないと考えられている。
それはあまりにも大きく、かつ複雑で無意味な情報に満ち溢れているために、限られた認識能力でその全てを把握する事は不可能なのだ。
だから人間は、自分の中に世界を簡略化した箱庭的な模式図を構築し、これを眺める事で世界を理解しようとする。
この空想的な箱庭を認知図と呼ぶ。
そして新しい情報に接する度に、それに対する様々な情報を評価し綜合する過程で取捨選択して理解可能なサイズに縮小した物を、その認知図に加えて行く。
そしてその過程においては、自身にとって不要もしくは不快と判断された情報はしばしば無意識の内に取り捨てられる。
すなわち人は、本人を取り巻く外界という現実を見るのではなく、自分がこうある筈だと期待する物で構成される認知図を見ているのだ。
つまり日常において道端の小石や愛しい人が時折見せる鼻をほじる癖が意識されないのは、それらが不要情報として認知図から省略されているからなのである。
そして、今回の様に高額の支払いをした上に遙々と旅をするという高いコストを支払ってまで手に入れたアリスとの対話は、二人の認知図の上では
当然素晴らしい物に分類されている筈だ。
今、二人(少なくともマーサ)は、それが一文の値打ちもないイカサマである、という現実を突き付けられている。
この認知図と現実のギャップは、普通の人間にとっては耐えがたい苦痛を惹き起こす。
これは、心理学で言う『認知的不協和』という事態である。
認知的不協和に直面した時、人が取る行動は二通りある。
一つは現実に沿って認知図を書き改める、即ちありのままの事実を受け入れて認知図を再構成する事だ。
そしてもう一つは、認知図に沿って現実を書き換える、即ち、現実に背を向け、受け取った物を期待通りの素晴らしい物であると思い込む事である。
後者を選択する確率は、概ねそれまでに支出した様々なコストの大きさに比例する。
突然、マーサは何かを思いだし、明るい表情となった。
「そう言えば、マージェリーさんは、アリスの産まれた年や、亡くなった年も的中させていますわ!これこそ、マージェリーさんが本物である証拠ですわね!」
ケイには、そのトリックも概ね見当が着いていた。
最初に部屋に入った時にわざと横に避けてバージェスを先に通したのは、バージェスが部屋に入った直後に何をするかを観察するためであった。
その時バージェスは、さりげなく顔を掻いては手を降ろすという動作を二度行った。
多分一度目が生年で、二度目が没年を伝えるサインだったのだろう。
例えば、左右10本の指のどれで掻くかが10の位を表し、顔のどこを掻くかが1の位を表すといった方法で伝達したと想像できる。
しかし監査官は、職業倫理として本人の居ないところでトリックを公表する事は避けるべきだと教えられている。
誰であれ反論の機会は与えられるべきだからである。
「そうですわ。やっぱりマージェリーさんは、本物です!」
そう繰り返す様子は、明らかにケイに向けてではなく自分自身を納得させるために言っていた。
ケイの想像する費用から見れば、今回のマーサの決意は心理学的には当然の行動ではある。
この二人は、今後も沸き上がる疑念を否定するために、マージェリーに多額の支払いを繰り返す事になるだろう。
そしてその度に、多額の費用を支払ったという事実その物が、マージェリーへの信頼を強化して行く。
いずれは、今日ここでトリックが暴かれたという事実を、思い出しもしなくなるであろう。
「そうですか、それはどうぞご自由に。」
ケイは穏やかに笑いながら答えたが、内心では深い徒労感を覚えていた。
ケイは、マージェリーの館を後に歩き出した。
すると、どこからとも無く一人の男が現れた。
男は目立たないようにそのまま跡けて来る。
この男に跡けられるようになってから、かれこれ2年くらいになる。
様々な奇跡を行なうという触れ込みの団体『黄金の羊』の教祖のトリックを暴いて以来だ。
あの時は実に巧妙なトリックで追い詰められたために、まだ経験の浅かったケイも余裕が無く、口にする事が憚られる様な手段に訴える羽目になってしまった。
そして、非常に後味の悪い結末を迎えたのだ。