地獄からの使者はボンテージ少女!?1
「ミッション――――――――――――コンプリート。」
深く溜息を吐くと同時に家の玄関の扉が閉まる。時刻は17時36分。
学校から自宅まで1時間と23分、今までの自己最高記録1時間31分を、8分も上回る記録に気分は上々である。
「これでまた、ゲームの時間が増えるな。」
他人と関わる時間よりも自分の為の時間。時は金成り、表面上だけの薄っぺらな友達関係なんかに時間を割く暇があったら、もっと自分の好きな事の為に時間を割り振った方がよほど有意義に過ごせる。
そんな事を思いながら悠斗は帰宅早々2階にある自分の部屋に引き篭もり、ゲーム機の起動ボタンに手を触れる。
「この起動の瞬間の為に学校に行っている様なものだしな……。」
学校を休み、誰にも邪魔をされることなくゲームをしていたいが、だからと言って本当の引き篭もりには成りたくない。そんな訳で、白沢悠斗はゲームをする為に仕方なく学校に行っている。
しばらくしてホーム画面が立ち上がり、さっそく目的のソフトを選択して、決定ボタンに手を掛ける。
ちなみにプレイするのは育成型シュミレーションRPG「幻想魔界・おねがい★クリーチャー」という自分で育てたモンスターを大会で戦わせ、優勝した資金で育成設備を強化して、さらにモンスターを強くしていく王道的な育ゲーである。
そしてネット対戦で、ランキング50位内入りした者だけが、オプションでモンスターに翼をつける事が可能となるが、もちろん悠斗のモンスターも翼が生えているわけで。
「やっぱり、ゲームってのは一人でプレイするのが一番だよなー。」
画面を凝視しながら、しみじみと呟く。
以前にプレイしていたMMORPGでは、所属していたチームの他のプレイヤーがちょっとした意見の食い違いで大喧嘩となり、そのままチーム自体が解散となってしまった。そして解散以降、悠斗の熱は一気に冷めてしまいそのゲームをプレイする事はなくなった。
やはり、仮想でも、現実でも、そこに《人》が入ってしまえば、『繋がり』が生まれる。そうなってしまうと自分の好きな様にゲームなんてものは出来なくなってしまうのである。
そんな経緯もあり、悠斗は『ゲームは独りでプレイするのが楽しい』という結論に落ち着いたのである。
「育ゲーはいい!自分の思うままに育成できるし、気が向いた時にネット対戦も出来る!そして愛情を注いだ分だけ強くなれる!これこそが育ゲーの醍醐味なんだよっ!」
誰に言う訳でもなく、一人で力説していると――――――――――――、
『ピンポーン』
チャイムの音が1階から響いてきた。
(誰だ?せっかく今からマイワールドに入ろうとしている時に……。まぁ、この時間帯なら保険の勧誘とかそんな所だろう。よしっ!居留守で決定。)
そう決断すると、再び意識をテレビ画面に集中させようとするが、
『ピンポーン、ピンポーン』
まだ諦めずにチャイムを鳴らす音が聞こえてくる。
普段なら仕事で忙しい母親に代わって、家事をこなす妹が来客に対応するのだが、今日は帰宅自己ベストを更新して家には自分以外誰もいない。(勿論、自己ベストを更新しなくても、帰宅は悠斗が一番早いのだが。)
(しつこいな…………まぁ、このまま居留守を決め込めば諦めるだろう。)
悠斗自身がチャイムに対応するという選択肢は微塵も無く、まるで、嵐が過ぎ去るのを待つかの様に息を潜めながら、『おねがい★クリーーチャー』のセーブデータをロードしていく。
『ピンポーン、ピンポーン、ピピピピッ、ピンポーン』
しかしながら相手側も諦める気配は無く、タチの悪い子供のイタズラかと思わせる位の連打でインターホンをプッシュ。
(う、うざいっ…………!これでピンポンダッシュとかなら、絶対許さないからなっ!)
ようやく悠斗はその重い腰を上げ、玄関に向かい階段を下りようとしていた時、
「白沢さーーーんっ!白沢悠斗さーーーんっ!居ないんですかーっ!?居ますよねーっ!私、死神委員会からの使いの者なんですけどっ!!今回あなたの――――――――――――、」
突然、玄関先から大声で悠斗の名前を呼びかける声が聞こえる。さらには、訪問した理由も付け加えて説明し始める始末である。
(なっ!ここは住宅街だぞっ!?そんなデカイ声で叫ばれたりしたら、ご近所の噂になるじゃないかっ!くそっ、何で俺の周りにはこうもデリカシーとか、プライバシーとか持ち合わせた人物が居ないだっ!)
今朝の駅のホームで千鞠とのやり取りを思い返しながら急いで玄関へと向かう。
「はいっ!今出ますっ!!」
階段を駆け下り、軽く息切れをしながら、力任せに玄関の扉を開ける。
そして、そこに居たのは―――――――、
「初めましてっ!死神委員会から参りました、クローデット・デスサイズ・ルナと申します!今後10日間あなたのサポート及び、魂の運搬をさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします!」
赤褐色の髪に巨大なカマを持ち、何処かのSMクラブに居そうなボンテージ衣装を着込んだコスプレ?少女が元気良く挨拶をするのであった。