絶対不動の転校生4
「ふぅ~、やっと終わった。今日どうする?このまま帰る?それともどっか寄って行く?」
「あぁ、ごめん。私この後バイトあるから。」
授業の終わった放課後の教室。青春を謳歌する高校生達が、皆それぞれ自分達の所属するグループに集まって行く。
汗水流して健全にスポーツをする運動部。己の内に秘める何かを表現しようと模索する文化部。仲の良い友達同士で今後の予定を相談するクラスメイト達。どれも素晴らしい青春の過ごし方であるが、白沢悠斗の場合は違った。
(放課後のチャイムが鳴ってから30秒…………今日は先生の話も長くなかったし、幸い他の連中も俺に話しかけてくる事はない。これなら……………いけるっ!)
HR終了と同時に、急いで机の中の教科書を通学カバンに放り込み、友達に挨拶する事も無く、まるでステルスアクションゲームの様に誰にも気づかれること無く教室を後にする。
(よしっ!ミッションクリア。…………教室から駐輪場まで3分21秒、駐輪場から駅まで21分02秒、電車の出発時刻が16時41分。そこからの家までの距離が――――――――――――――、)
帰宅するまでの時間を悠斗は綿密に計算する。
学校では友達と仲良く(表面上は)。しかし、ひとたび学校が終わると後は誰とも関わりを持たない。それが悠斗のポリシーであり、ライフスタイルである。そんな生活を偽ラブレターの一件以来続けている。
しかし、そんな彼にも一つの楽しみがあった。
(このままなら、帰宅時間・自己ベストを更新しそうだな…………。)
つまりは、”いかに家に早く帰れるか”。そうする事で余計な友人同士の付き合いや、他人と関わる時間を最小限で済ます事が出来るのである。
そうして教室から抜け出す様に退室すると、クラウチングスタート並みの勢いを持って廊下を走り出す。勿論、この姿を教員に見つかってしまえば注意を受け、帰宅する時刻が遅くなってしまうのだが、
(その点は問題ない。今日は火曜日……今頃先生たちは職員室でショートミーティング中だ。さらに、そのミーティングで顧問の先生が遅れる事により部活の開始時間も遅くなるっ!。これによりっ、生徒は部活に向かうのも必然的に遅くなるっ!他の一般生徒も急ぐ予定がない限り、すぐさま帰る必要はないっ!つまりっ!!!)
教員、部活、曜日、時間、生徒、etc……、これらの情報を頭にインプットして、人の少なそうな廊下を瞬時に判断する。そして、教室の角を曲がり、真っ直ぐに伸びる廊下を見渡すと、予想していた通りの光景に小さくガッツポーズを取る。
(俺は、全速力で廊下を駆け抜ける事が可能となるっ!)
そして、誰も居ない廊下を躊躇せず走る事に優越感を覚えつつ下駄箱に到着する。靴に履き替えてから自転車までダッシュ、靴を履き替える動きにもムダ一つ無い。そうして、駐輪場にたどり着き、自分の自転車にまたがる。
(皆まだまだ甘いよな。本当の意味で帰宅するってのはこういうコトなんだぜっ?)
ニヒルな男を演じながら気取ってみるが、どうにもこの言葉は自分に合わないと思い、他の言葉を捜す。そうして、自分に最も似合うであろうセリフを見つけだすとペダルに足を掛けて一息吐き、まるで自分が自転車と一体化した感覚になりながら、彼は人知れず叫んだ。
「そうだっ!俺がっ!…………俺達がっ!!――――――――――――――――――帰宅部だッッッ!!!」