絶対不動の転校生3
一人の女子生徒が教室に入って来る。
ロングのツインテールに赤と黒色のチェックのリボン、身長は千鞠を二周りほど大きくした位だろうか?小柄ではあるが、チビってレベルでもない。さらには人形の様に整った綺麗な顔立をしている。
まさに美少女という言葉が相応しい転校生の入場に、静まり返っていた教室内が一気に色づき始める。
「おぉっ、美少女っ、美少女だっ!俺らのクラスに春が来た!」
「うわぁ、可愛いー!帰国子女って噂は本当だったんだねぇ!」
「……麗しい。ハッ!いやいやいや、我らには千鞠様がおられるではないかっ!くっ、不覚なりっ!我が眼が惑わされようとはっ……あの者、只者では無いぞっ!……しかし……かわいいなぁ。」
拍手と口笛で迎える男子。目を輝かせながら噂の内容を確認し合う女子。何やら頭を抱え込んで葛藤する信者。そんなクラスの様子を目の当たりにすると、美少女は困惑しながらもはにかんだ笑顔を見せた。
そして、その笑顔のせいで教室の熱はさらに上昇(主に男子と信者だが)していく。
「うぅおぉぉおーーーっっっ!天使か天使なのかっ!?」
「グフッ……笑顔の…………ジャックナイフ」
興奮のあまり意味不明な言葉を言い出す男子と信者。
何コレ?……もう訳が分からないよ。
そう思いつつ周囲を冷ややかに観察する悠斗であったが、他の生徒は気付いてないであろう事実を、悠斗は見逃さなかった。
彼女、転校生の笑顔は微笑みなどではなく嘲笑である事を。
「ねぇー、ねぇー悠ちゃん。あの子可愛いねぇ!」
「あ、あぁ……そうだな。」
落ち着きを取り戻した千鞠が、後ろの席から小声で話しかけてくる。何も知らないであろう千鞠は無邪気にも「今度私もツインテールにしてみようかな?」なんて呟いている。
まぁ、別に教える事でもないしな。それに……俺には関係の無い事だ。
「ううんっ、静かにっ!!。――――――――――――それじゃあ、皆に挨拶を。」
咳払いをして、まさに鶴の一声と言わんばかりに小坂先生が周囲を静めると転校生に自己紹介を促す。
「はい。」
落ち着いた声で返事をし、少し間を置いてから一歩前に出る。その礼儀正しい動作が帰国子女という貫禄に拍車を掛ける。
まるで何処かの国のお姫様みたいだな。
そんな感想が頭の中に浮かんでいる間にも転校生は、左手に持ったチョークで黒板に自分の名前を書いていく。
そして名前が書き終わると、その長いツインテールをくるりと反転させて皆の方を向いた。
「初めまして。私の名前は、川崎・L・セリカネットよ。」
そう名乗りを上げると、スカートの裾を持ち上げ軽く会釈。その仕草でやっと静まり返っていた教室内が、又しても瞬時に沸点へと到達する。
「俺、このクラスで良かった!ホントに良かったっ!ありがとうっ!本当にありがとうっ!」
「も、もうだめだぁ~……くそっ!斯くなる上は、ファン倶楽部の一員として切腹するしか……。」
スタンディングオベーションする男子。涙ながらに覚悟を決める信者。クラスのテンションは最初からクライマックスのようだ。
まぁ確かに見た目も可愛いし、立ち振る舞いも優雅だが、皆浮かれすぎじゃないか?というより信者たちはどうしてあんな古風な喋り方する奴らばかりなんだ……。
そんな疑問を抱きつつも、女子の一人が手を挙げて転校生に質問を投げかけた。
「帰国子女ってのはホントなんですかー?」
質問してきた女子生徒に、転校生は微笑みを向けた。
「えぇ、その通りよ。パパはイギリス人で、ママは日本人なの。5歳までは日本に住んでたんだけど、それからは、ずっとイギリスで住んでいたわ。他には何かある?」
鮮やかな回答。
喋り方は少し威圧的だが、そこは帰国子女。文化や習慣の問題なのだろう。
「はいっ、はーいっ!」
今度は悠斗の後ろの席で手を大きく上げ、元気良く質問する少女、もとい幼女の声がする。
千鞠の声だ。
「どうぞ。」
転校生が千鞠の方を向いて、手のひらを差し出す。
「川崎さんは何で日本に来たんですか?」
プライバシーに関わる事を躊躇なく質問する千鞠。他人に対する気遣いは人一倍出来る子なのだが、こういったときのデリカシーは持ち合わせていないのである。
特に俺に対する扱いはヒドイ……。
人によっては答えに困る内容なのだが、彼女は嫌な顔一つする事なく答えた。
「そうね。一番の理由としてはパパの仕事の都合ね。でも、他にも理由はあるわ。」
「他の理由???」
千鞠が復唱しながら首を傾げると、転校生は、一瞬だけ下を向き、唇を隠す様にして笑った。それは、最初にクラスを見た時の嘲笑と同じものだった。
「他の理由。それは――――――――――――、」
クラス中の視線が彼女に集まる。と同時に、悠斗は背中に何かゾクリとする悪寒を感じる。
そして次の瞬間、
「それは――――――、様々な人を助け、善行を積み、私自身の”命の価値を上げる”事よっ!!!」