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絶対不動の転校生2

「ねぇーねぇー悠ちゃん、今日転校生が来るって知ってる?」


朝の満員電車の中を乗り降りして、そこから学校まで自転車を走らせること20分。

やっとの思いで学校に着き、教室のイスに腰を下ろすと朝のハイテンション状態のまま千鞠が悠斗の机の前にやって来た。


「あぁ、知ってるよ。俺らと同じ学年らしいな。」

「う、うそっ!あの他人の情報に疎い悠ちゃんが、私より先に詳しい内容を知っているなんてっ!」

「聞いたんだよ、駅のホームで女子が話してるのを。」

悠斗は何食わぬ顔で、通学カバンから今日必要な教科書やノートを取り出し整理する。


「なんだぁ、そうなんだ~。やっと悠ちゃんも他人に興味持ち出したかと思ったのに~。」

と、千鞠はつまらなさげに唇をすぼませた。

偽ラブレターの一件以降、俺は他人に興味を示さなくなった。というよりは、信用をしなくなった。しかし、学園生活を送るにあたって流石に『ぼっち』というカテゴリで生きていけるほどのメンタルは持ち合わせていなかったので、学校ではイイ奴を演じて相手の相談などには乗ったが、一度家に帰ると友達とのやり取りは一切ナシ。メールが届いても『寝てた』『充電が切れてた』のお約束みたいな言い訳でやり過ごしていた。そして、そんな生活は今も続いているわけで――――――――。


「じゃあ、悠ちゃん?その転校生は女の子ってのは知ってる?」

そんなメランコリーな気持ちの悠斗を無視して、千鞠は意気揚々と話を続ける。


「知ってる。」

「え~~~っ、つまんない!」

その情報も朝のホームで確認済みである。しかし、どうにも女子というものは、こうも情報の伝達が早いのだろうか?何か秘密の意思疎通手段があるのではないのか?…………まぁ、メールだろうけど。

悠斗が一人で疑問に思い、勝手に推理し結論を出している間、千鞠は他に何か情報が無いか、こめかみに両指を当て思案していた。

一休さんか、お前は。


「それじゃあ、私の最後の切り札っ!」

「早いな……切り札。」

「ふふん、そう言っていられるのも今の内だよ。」

千鞠は何か企んでいる様な感じの不敵な表情で笑う。

何だ?トラップカードでも仕掛けて動揺を誘うつもりか?しかし甘いなっ、俺にはポーカーフェイスという速攻魔法がある。さぁ、千鞠。お前はどう出るんだ……。


「私のとっておき情報!その転校生は、――――――――――――帰国子女らしいよ?」

「ふ~~ん。」

決まった……!俺の速攻魔法っ!

内心でガッツポーズを取り、ここからの反撃をどうしたものかと妄想していると、目の前の小さな挑戦者デュエリストこと、千島ちしま千鞠が不機嫌そうな顔でじーーーっと悠斗を凝視していた。


「…………んない。」

「えっ?」

小さな声で呟かれ、思わず聞き返してしまった。しかし、これがいけなかった。聞き返すやいなや、千鞠は顔を真っ赤にして、頬を膨らましプルプルと震えている。

おぉ。まるで、ひまわりの種を口に溜め込み過ぎで今にも吹き出しそうなハムスターみたいじゃないか。

そんな呑気な事を思った次の瞬間、


「つまんない、つまんない、つまんない、つまんないーーーーーーっっっつ!」


朝の和やかな教室で、まるで駄々っ子の様な叫び声(実際、その声だけ聞けばその通りなのだが)が響き渡る。


「お、おい、千鞠っ!?」

「つまんないっ、つまんないっ!!なんで悠ちゃんもっと驚かないのっ!?反応薄いしっ!!面白くないしっ!!アホーっ、バカーっ、変態っ!スケベっ!私知ってるんだからねっ!悠ちゃんがベットの下に、黒タイツ履いた綺麗なお姉さんの写――――――――モゴッ!!!」

悠斗は慌てて千鞠を羽交い絞めする形で口を塞いだ。

ま、まずいっ!千鞠の奴、イライラして余計な事しゃべりだしやがったっ!くそっ、このままじゃ今朝のホームの如くとんでもない事を叫び兼ねない!何とかしなないとっ!と言うより、むしろ手遅れな気がする……。


「い、いやいやっ!俺は、ものすご~~~く驚いてるぞ~~~っ、うっ、うわぁー、びっくりだなぁ!マジかよーっ!そんな情報、しらなかったぜー!さすがは千鞠ちゃんだなーーーっ!」

さっきの千鞠より大きな声を出して誤魔化そうとするが、恐る恐る周囲を見渡すと、「黒タイツ……?」「……ベット……?」など、女子のいかがわしい表情や、「なるほど、白沢は黒タイツか……。」と言った男子の何やら、『大丈夫、俺らは分かってるから』みたいな悟った様顔して、注目を集めてしまった。


「モガッ!ムガッッ!ムガムガッッ!!!」

「ステイ、ステイだぞー。千鞠ちゃん?落ち着けー、どうどう。いい子だからねー?分かるよねー?」

そう言って腕の中で暴れまわる千鞠をなんとか静めさせようと、優しい口調で語りかける。

そう、それはまるで子供をさとすかの如くっ!

しかし、その行為が返って千鞠の癇に障ってしまう。


「うがぁぁぁーーーっ!子供扱いするなぁーーーっ!」

無理矢理手を振り解き、その小柄な体型を生かし悠斗の腕から抜け出すと、先ほどよりもさらに大きな声で叫び出した。


(ま、まずいっ!この状態の千鞠を止める事は不可能っ!しかし、このままでは俺の恥ずかしい過去やら、秘密やらを暴露しかねないっ!くそっ、この状況、……どうすればいいんだっ!)

流石にこの時だけは、他人に対していつもクールで、誰にでも優しい(偽善ではあるが)顔を持つ悠斗もかなり焦った表情を見せる。


「悠ちゃんのバカーーーっ!もう怒ったんだからねっ!このいかりは、中学生の時、悠ちゃん家のお風呂が壊れたからって私ん家のお風呂借りに来て、そんでわざわざ私がお風呂に居る時見計らって、気づかないフリして入って来た時以来の怒りだよっ!」

「バ、バカッ!人聞きの悪い事言うなっ!あの時は暑かったし、それで汗掻いてたから急いでシャワー浴びようとして――――――、」

「浴びようとして――――――、私のハダカ見たんでしょっ!?」

周りの目も気にせず、赤裸々に過去を暴露する千鞠。そして、そのやり取りを見ていた周囲からは、


「マジかよっ……。」

「うわぁ、サイテー。」

「我らが千鞠様をけがしおってっ!…………後で詳しい内容プリーズ。特に胸の部分の情報カモン。」

などの非難の声が聞こえてくる。

というより最後のは誰だっ?絶対『ちまちゃんファン倶楽部』の信者だろ。

などと、冷や汗を掻きながら事態の収縮に頭を回していると、


「キーンコーン、カーンコーン」

と、チャイムが鳴り始めると同時に、教室に担任の先生が入って来る。


「はいはい、皆静かにしろよー。」

透き通った張りのある声で悠斗と千鞠のクラス、二年E組を担当する先生、”小坂こさか小夜さよ”が、やれやれといった様子で騒々しい教室内を戒める。

ちなみに先生は独身で、年齢は三十路に入ったばかりだとか。生徒に隠れて職員室の裏でタバコを吹かしながら、「探し物は何ですか?見つけにくい物ですか?…………結婚してぇ。」と嘆いていた女教師の後ろ姿は痛々しくて目も当てられなかった。


「んん?何だっ?またお前ら2人の夫婦喧嘩か。ホント、若いっていいねぇ、青春っ!いやぁ、先生も学生の頃は――――――、」

「先生、騒いで申し訳ありませんでした。どうぞHRホームルーム始めてください。」

「そ、そうか?先生のモテまくった武勇伝を聞かせてやろうと思ったが、……まぁいいだろう。」

と、哀愁漂わせながら、輝かしいであろう過去の話を切り出そうとするのを阻止する。

一方の千鞠はというと――――――、


「夫婦……私と悠ちゃんが……夫婦…………っっっ!」

声が小さくてよく聞こえなかったが、なにやら顔を赤くして固まっている。大方、叫び過ぎでオーバーヒートしたんだろう。


「それじゃあ、HR始めるぞ。まず最初に、――――――――――――入ってくれ。」

先生が教室の扉の外にいるであろう生徒に声を掛けた。








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