絶対不動の転校生 1
「おはようございます。」
白ネクタイを着けた2人の女子生徒が学校の校門前に立ち、凛とした声で登校してくる生徒に声を掛けて手を振っていた。
「あっ、千歳生徒会長だっ!おはよーございまーすっ!」
声を掛けられた生徒達も和やかな雰囲気で挨拶を交わす。何処にでもよくある、生徒会の朝の挨拶運動である。
「ふふっ、相変わらず人気者ですね、千歳先輩。」
「いいえ、そんな事ありませんよ?それを言えば椎名ちゃんだって、この学校のヒロインではありませんか。」
誰もが思わず見惚れてしまいそうな笑顔で生徒会長と呼ばれた少女、千歳ちひろは椎名に声をかける。
「そ、そんなっ!ヒロインだなんて滅相も無いですっ……!」
「う~~~ん、それじゃあ……マドンナかしら?」
「ど、どっちも変わらないですよ!」
「あらあら、それなら大和撫子なんてどうかしら?”近江高校の大和撫子、白沢椎名”なんてステキじゃない?」
「ぜ、全然ステキじゃないですよっ!私には荷が重すぎる肩書きですよっ!!。」
顔を真っ赤にしながら涙目で拒否する椎名を横に、千歳は両手をポンッと叩いては『そうね、そうしましょう!』と自己完結させた。
「ううぅ、それで……会長。”あの件”はどうなったんですか?」
一枚も二枚も上手な生徒会長に、これ以上話をしても聞いてもらえないと悟った椎名は、目に溜まった涙を拭き取りさっさと話題を変えた。
「”あの件”っていうと、生徒会の人数の事かしら?――――――ふふっ、おはようございます。」
明るく挨拶を交わしながら、千歳生徒会長は表情を崩す事無く登校してくる生徒に声を掛け、手を振っていく。
「はい、そうです。いつまでも私達2人だけの生徒会で、朝の挨拶運動をするのも限界がありますし、今後の学校行事でも無理が出てくるかと……、そして何より、このままの人数では学校を指揮する権限が風紀委員会に渡ってしまいます……、そうなればこの学校はまったく違う学校になってしまいます。」
そう言うと椎名は手を振るのを止め、不安そうに千歳の方を見た。
「大丈夫よ、椎名ちゃん。その事については一人アテがあるから。近々椎名ちゃんに紹介するから、そのつもりでいてね?」
椎名の不安を打ち消すように、千歳は柔和な笑みを浮かべる。
「は、はいっっ!!」
同姓でも思わずドキリとしてしまう生徒会長の微笑みに、椎名の不安は一気に吹き飛ぶかの様に、勢いよく返事をしてしまう。
「はい、いい返事です。流石は生徒会書記、白沢椎名ちゃんね!――――――と、流石のついでなんだけど、椎名ちゃん、転校生の受け入れの手続きは出来てる?」
「は、はい!それなら、昨日の内にすべて済ませておきました。学生手帳や制服、教科書といった学校生活で必要な物は全て用意出来てあります。それでこの後、生徒会室に取りに来る予定になってます。」
そう言って椎名は胸元から手帳を取り出し、今後のスケジュールを再度確認する。
「うんうん、流石は椎名ちゃんね。いつもありがとう。それじゃあ、今日は少し早いけど朝の挨拶はここまでにして、生徒会室でその転校生が来るのを待ちましょうか?」
「はい、そうですね。私達生徒会が生徒を待たせる訳にもいけないですし。」
そうして、2人は転校生が来るのを待つために校舎の中に入っていった。