不幸の手紙はラブレター!?4
「それで?結局、その手紙にはなんて書いてあったの?」
千鞠は悠斗の背中にもたれ掛かり、覗き込む様にして手紙を眺めた。
悠斗は不意に後ろに当たる二つのやわらかい感触と、女子特有の甘い香りに思わず身体を膠着させる。
(ち、近っ!顔、近いっ!それになんか、いい匂いするしっ!しかも背中っ、あ、あたってるっ!ふわふわしてるけど弾力があるっ!くっ!……千鞠の奴、身長は小学生並みのくせに、胸だけは平均以上だからなっ。隠れファンが多いのも無理はない……のか?)
悠斗達が通う私立 近江高校では、千鞠のファンクラブ、――――――通称”ちまちゃんふぁん倶楽部”というものが存在しており、『陰ながら、ちまちゃん(千鞠)を愛でる』をモットーに活動している組織がある。
もちろん、千鞠はそんなファンクラブがあるなんて事を知らない。
そして、その隠れファンの人曰く、『小柄な身長とは相反して立派に成長したおっぱいのギャップがたまらない』、だとかナントカ……、このロリコンどもめ。
「ねーっ?悠ちゃん聞いてる?」
千鞠が首をかしげながら悠斗の顔をじっと見つめる。
「あ、あぁ……悪い、ぼーっとしてた。えっと、何の話だっけ?」
「だ・か・らっ!手紙の話だよっ!何て書いてあるの?私の位置からじゃ見えにくいのっ!」
そう言って千鞠は頬をプクーッと大きく膨らましふて腐れる。
(まったく、こういう所はホント小学生なんだけどな。)
悠斗は幼馴染の成長を身体で感じながら、ようやく落ち着きを取り戻した。
「はいはい、分かった。分かったから、ちゃんと言うよ。」
「うむ!分かればよろしいっ!それと、『はい』は一回ねっ!」
「……はい。」
「上出来ですっ!」
満面の笑みでうなずく千鞠を横に、悠斗は手に持った不幸の手紙を千鞠が見える場所に移動させる。
「えっと、それで手紙の内容だが、―――――――。」
要約するとこうなる。
一、命の価値が1000円以下になった。
二、そのせいで俺の寿命はあと10日。
三、後日、担当の人が来る。
他にも死神保険とか訳の分からない事が書いてあったが、その辺は省略。
俺が説明し終えると興味深そうに聞いていた千鞠が、
「ぷくくっ!何それ~っ?本当に不幸の手紙だね~!それもう都市伝説の代物だよっ!」
と、口を手で覆いながらはにかんだ。
「だよな~。」
自分と同じ感想を言う千鞠に呆れつつ手紙を渡す。
「ハァ……どうしよう、ソレ。」
「ふふっ、まぁ~、捨てちゃえば?」
千鞠は両手で手紙を受け取り、空中に差し出すようにして眺めた。
「でも良かったね~~~。」
「ん?……何が?」
「ラブレターじゃなくて、不幸の手紙で。悠ちゃんラブレターもらった事無いって言ってたけど、一回あったでしょ?偽物だったけど。」
「あぁ……あったなそんな事も……。」
この黒の封筒が郵便ポストに入っていた時にも思い出したあの痛々しい記憶だ。
中学2年生の夏休み前にもらった偽者のラブレター。女子同士の罰ゲームで俺にラブレターを出すという、思春期真っ盛りの男子にはトラウマになる思い出でである。
「あの時は、さすがの私でも怒ったねー。」
そう言って千鞠は手に持っていた手紙を悠斗に返す。
そうだ。あの日、終業式も終わってクラスの皆が帰ろうとしていた時、真実を知らされショックを受けていた俺の後ろで千鞠が事情を見ていたらしく、
いつも誰にでも優しく皆に好かれている千鞠が、その女子グループ全員に張り手を食らわし、『最低だよっ!!』と大声を出して泣いた事件があった。
「あぁ、あれにはびっくりした。」
その時、クラスの全員が驚いていたし、俺も驚いた。あの千鞠が人を殴るなんて思ってもなかった。
しかし、一番驚いていたのは叩かれた女子達自身で、彼女達もまさか千鞠に叩かれるとは思ってなかったらしく、そこまでしてようやくヤリ過ぎた事に気づき、その後、俺に謝りに来た。
「まぁ、その何だ……。あの時は……ありがとな……。」
悠斗は過去の事を思い出しながら、少し照れくさそうに小声で言うと、
「う、ううんっ!もっ、もういいよっ……むっ、昔の話だしっ。」
と、恥ずかしそうに下を向いた。
そしてしばらくの間、変な空気に沈黙が続いたが、
「……まもなく、電車が参ります。危ないので白線の――――――。」
電車の到着の音で2人は我に返り、お互いの顔を見合わせてから学校に向かった。