不孝の手紙はラブレター!?3
「で、悠ちゃん。それはなぁに?」
千鞠が興味深そうに、悠斗の手に持っている黒の封筒を指差してくる。
「ん、あぁこれか?……ラブレター。今朝郵便受けに入ってたんだ。」
手紙を指で挟み、キリッと目に力を入れて千鞠に見せ付ける
毎朝駅のホームで名前を大声で叫ばれて恥ずかしい思いをしている俺のささやかな抵抗だ。少しくらい男としての見栄を張ってもいいだろう。……まぁ、嘘だけど。
「えっ……。」
封筒を目の前に、千鞠は笑顔のまま一瞬凍りつき、その後、引きつった笑顔のまま、
「へっ、へぇ~、そっ、そっかぁ!そ、そうだよね!ゆっ、悠ちゃんも、もっ、もうそんなお年頃だもんねっ!女の子から、らっ、ラブレターとか貰ったりもするお年頃だっ、だもんねっ!」
と、人差し指同士をちょんちょんと突っつきながら目線を泳がす。
クククッ、千鞠の奴、完全に騙されてるな。しかし、俺がラブレターを貰った事がそんなに意外なのか?そこまで動揺されると、なんか逆に傷つくぞ?俺、全然モテてないみたいじゃないか。
「えっと……それで、……お相手は?――――――あっ、うそうそっ!今のナシっ!言わないで、何も言わないでっ!あれだよね、こういう事はあんまり詮索しちゃダメなんだよね……うん。悠ちゃんが誰と付き合うとかは、……悠ちゃんの……自由…なん……だし。」
千鞠の声がだんだんと小さくなっていくのと同時に下を向いてうなだれる。ただでさえ、小学生並みの慎重がさらに小さくなってしまう。
「嘘だよ。」
「……えっ?」
このまま千鞠が誤解をして変な気を使われても困るので、本当の事を打ち明ける。
「これはラブレターなんかじゃない。今朝届いたって事は本当だけど。」
「……えっ?えっ?」
千鞠はまだ嘘だという事が理解できてないらしく、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして首を傾げている。悠斗は、やれやれといった顔で言葉を付け足す。
「だから嘘。この封筒はラブレターなんかじゃない。残念ながら俺という人間は人生においてラブレターなんて甘ったるい物を貰った事がない!むしろコレは、どちらかと言うと不孝の手紙に近い!」
千鞠がこんなにも俺の嘘をあっさり信じ込むとは思わなかった。思わず自傷してまで訂正するハメになってしまったじゃないか。
「……嘘?」
「そーだ、嘘だ、冗談だ。」
千鞠もようやく理解出来たらしく、悠斗に聞こえないくらいの声で「そっかぁ……そっかぁ……。」と言いながら、嬉しそうに安堵の溜息を吐くと、
「そ、そーだよねっ!悠ちゃんにラブレターなんか来るわけないよねっ!もうっ、朝から変な事言わないでよねっ!そんなんだから、彼女いない暦=人生で童貞なんだよっ!ホント困ったもんだねっ!」
悠斗の背中をバンッバンッと叩いて、花が咲いたように明るい表情で大声を出すが、本当に困ったものだ、――――――こんな駅のホームで。
このとき悠斗は周りからの視線(特に隣にいる女子生徒からの)を受けながら、もう二度と嘘は吐かないと心の中で誓ったのである。