不幸の手紙はラブレター!?2
「ねぇねぇ、聞いた聞いた?」
「んん?何の話?」
悠斗は学校へ向かう駅のホームで、ベンチに座りながらスマホをいじりつつ電車を待っていると、隣から同じ高校の制服を着た女子生徒の話声が聞こえてきた。
「今日転校生が来るって話~。」
「えっ!?何その話題!?その子ってイケメン!?イケメンだよねっ、どこのクラス!?学年はっ!?」
「えっと……たしか学年はウチらと同じだったかな?それと男子じゃなくて、女の子だよ。」
「そっか……女の子か。私の春はまだまだ遠いな~。」
転校生が異性と分かると、興奮気味だった女子生徒は静かに肩を落とし、遠い目をして空を見上げた。
(転校生?学年は……俺と同じか。)
悠斗は彼女達の制服のネクタイを確認した。色は青、そして悠斗のネクタイも同じ色である。
悠斗の通う高校はネクタイの色で学年が区別されており、一年生は赤、二年生は青、三年生は黄色と分けられいるが、これ以外にも色があり、生徒会に所属する者は白、同じく風紀委員なら黒の二種類が存在する。
ちなみに、「生徒会活動があるから先に行きますね。」と朝食の片付けを手短に済ませ、にこやかな笑顔で家を出て行った妹のネクタイの色も、白である。
「あぁ~、どっかにイケメンでロマンチックな告白をしてくれる男性はいないかなぁ~。」
「ムリムリっ!あんた”ラブレター”すら貰った事ないじゃん!」
「な、なんだとぉ~!あたしだって幼稚園の―――――――。」
そんな他愛無い会話を横に、悠斗は今朝届いた手紙の事が頭に浮かび上がり、鞄の中に入れてあった黒の封筒を取り出し、じっくりと表裏を観察する。
(しかし、こんな古典的な不幸の手紙が今の時代に存在するんだな……。最近の小学生だってこんな手紙使わないぞ。もっとチェーンメールとか、チャットとかそういったデジタルな手段を取るぞ?)
文明の進歩と、いまだに”不幸の手紙”みたいな子供じみたイタズラがある事に感心と少しの呆れを感じつつ、封を開け中身を確認する。
(しかも書かれている内容もアレだしな……。)
『あなたの命の価値が1000円を下回りました。それにより、あと10日であなたは寿命を迎えます。但し、白沢悠斗様、ご自身は未成年のため死神保険が利くに当たり、保険の適応をさせて頂きます。保険の説明は後日、担当の者がお伺いさせて頂きますのであらかじめご了承下さい。』
おもわず、保険の勧誘かよっ!とツッコミを入れそうになる衝動を抑え、目を細めてもう一度手紙の内容を読み返した。
(それにしても、この”死神保険”って何だ?それに後日担当の者が来るって話だが……誰だ?保険会社の人か?まぁ、この手のイタズラだからな、信憑性を増す為に書いたものなんだろうけど。)
手の込んだイタズラにどうしたものかと考えていると、背後から突然大声が聞こえてくる。
「おぉ~~~い!悠ちゃん~~~っ!おっはよ~~~っ!」
悠斗は後ろを振り返り、声の主が右腕を大きく振りながら駅の階段を人を掻き分けながら駆け下り、自分の元へ近づいてくるのを確認する。
まったく、周りの迷惑も少しは考えて欲しいものだ。
「悠ちゃんっ、おはよっ!!」
ショートの髪を後頭部で折り曲げるように髪留めをして、まるでヤシの木を連想させるような髪型をした小柄の少女が、元気ハツラツと声を掛けてきた。
「はぁ……、駅のホームで俺の名前を大声で呼ぶなっていつも言っているのに……千鞠。」
「悠ちゃんっ!!朝の挨拶は『おはようございます』でしょ!?そんな朝一番に溜息なんか吐いてちゃ、すぐに老けるよ?せっかくこんなに可憐で麗しい幼馴染が声掛けてくれてるのに。」
意見は見事にスルーされ、千鞠は大人びた感じで髪をフサッとなびかせる仕草をするが、その小柄な体格と背中に背負った通学用のカバンがランドセルに見えて、可憐で麗しくは見えない。どちらかと言うと、”ちんちくりん”とか”ちびっこ”といった表現の方がしっくりとくる。
「あ~~~っ!悠ちゃん、今失礼なな事考えてたでしょ?」
「い、いやっ……、何も考えてなかったゾ!?」
心の中を見透かされ、動揺しながら千鞠との目線を逸らすが、
「じーーーっ……怪しい。」
悠斗が座っているベンチと同じ目の高さで、千鞠が怪訝そうな視線を向ける。
「ふぅ~~~ん、まぁいいよ!それより朝の挨拶はっ?」
「お……おはよう……ござい……ます。」
「はいっ!良く出来ましたっ!」
うっすらと冷や汗をかきながら朝の挨拶を交わす。
とりあえずバレなくてよかった……。千鞠に”ちんちくりん”や”ちびっこ”は禁句だもんな。ましてや”小学生”と言ったらその場でギャーギャー騒ぎ出すし。中学の時なんか朝のHRに先生が冗談で言ったその一言で、一時間目の授業が潰れた事もあったしな……。
中学時代の千鞠の武勇伝を思い出しつつ会話を続ける。