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ヒーローの泣き所

作者: 耶麻乃

 わたしの幼なじみの川上かわかみ宏人ひろとはスポーツ、コミュ力、容姿、これらすべてをなにひとつ欠けることなく高水準で備えていた。勉強だけは落第気味なのだが、そこが親しみやすさを生むらしく、もちろんクラスの人気者である。本人は自覚していないので厭味がない分、質は悪い。そう思ってしまうのはわたしが近すぎるゆえなのだろうか。

 それに比べてわたし、羽山はやまかえではクラスの隅っこで本を読んだり、似たような趣味を持つ同類とこそこそおしゃべりしたりするような地味目なカーストに位置していた。わたしはわたしと割り切り、折り合いをつけながらもクラスの中心で騒ぐ宏人を見守り、時には尻拭いやフォローなんかも請け負ってきた。宏人は生まれながらの主人公気質、とでも言うのだろうか、そういう徳を持っていた。宏人は憎めないやつだったのだ。神さまは不公平だが、そのことに不満はなかった。

 けれど高校に入ってからちょっとイラっとさせられるようになった。

 宏人が、学校ではまったくもってわたしを避けやがるのだ。

 そりゃあ新しい環境になって、こんな芋っぽい女の子と友達だって知られたら恥ずかしいかもしれないけれど、わたしは宏人をそれなりに大事な友人枠へ入れていたのでショックだった。わたしたちの築いてきた仲はその程度だったのかと寂しい思いをした。

 そのくせ、学校帰りは一緒に帰る。裏門を出て五十秒ほど歩いた場所にあるさびれたコンビニ(朝七時オープン、夜八時クローズのちょっと他より一歩遅れた感じの店で商品のラインナップも微妙)で待ち合わせて、一緒に帰らないと怒るのだ、やつは。

 だから入学式から一月経った今、わたしは言ってやることにした。


「あのさあ宏人。あんたなんなの?」

「何が」

「学校での態度。嫌なら今も一緒に帰らなくていいんだけど」


 正直、帰りの道ではほとんど話さない。きっちりわたしを家まで送ってから颯爽と帰って行く間、目も合わせないことだってあるのだ。気まずすぎるだろう。一緒にいる意味はまったくないと言っていい。


「はあ!? お前、俺の癒しの時間を奪うわけ!?」

「いや、だから奪わないための提案でしょ?」


 宏人は信じられないとばかりに鼻で笑った。そんな人を小馬鹿にした態度でも、こいつの魅力を損なうことはない。不公平だと思う。そしてわたし以外にはぜったいこんなそぶり見せないんだから、幼なじみって気安すぎると思う。わたしだってこういう人気者の男の子が学校にいたら、みんなみたいに毎日ときめいて楽しいだろうに。きゃーきゃー言って、憧れて騒いでみたい。知らないってのは悪いことばかりじゃないと思う。


「楓には、俺以外に誰か一緒に帰りたいやつでもいるわけ?」


 頭に来る物言いである。わたしに相手がいるわけないと信じて疑わない不遜さに怒髪天を衝く勢いである。いいだろう、わたしは来週の春の遠足で本気出そうと思う。ほんとうは類友の真由美ちゃんといっしょに行動するつもりだったが、同じく類友の酒田くんにも声をかけてやろう。こいつとはすきな乙女ゲーの好みがほぼ同じというソウルメイトなので色恋事に発展することはまずないが(酒田くんは乙メン)、見栄を張らせてもらう。


「いるよ。ショップとか(本屋さんとかゲームショップ)映画館(観るのはアニメだ)へ是非とも一緒に行きたい異性の一人や二人」

「俺、じゃなくて?」


 声だけで不機嫌になるのもわかる。長い付き合いってのは便利だが、知らなくていいことまでわかってしまうものだ。ちょっとめんどくさいと思ってしまうわたしは決して悪くない。きっとお互いさまである。


「宏人と行ったってわかんないでしょ。わたしのことはいいよ。それより宏人の方こそ誰かいないの? はっきり言って今の時間、不毛だよ――」


 言いかけたところで、物凄い力で手首を捕まれる。痛いのはもちろんだが、握りこまれた宏人の手の大きさにめまいを覚える。わたしの腕を、縄跳びの持ち手みたいに簡単に握り込んでいるのだ。え、こんな大きかったっけ。


「誰だ」


 低い声だって、聞き慣れたと思っていた。どうしてこんなにも、宏人相手に身体が震えるんだろう。こいつが怖いとか、ないって。保育園のお泊り会で先生が演じるお化け屋敷、わたしが手を引いて前を歩いてあげたのだ。おじさんの大事にしていた盆栽を落っことしてダメにしたときだって、一緒に謝りに行ってあげたのだ。宏人相手にびびるわたしなんかじゃ、ない。

 さすがにここで酒田くんの名前をあげてしまえない空気なのはわたしでもわかる。思いっきり腕を引っ張ってなんとか外そうとしても、びくともしなくって焦る。ちょっと待って、わたし本気で力込めて腕引っ張ってるからね。両手を使ってアピールしたところで、ようやく宏人が離してくれた。わたしは捕まれていた方の手を抱え込んで距離を取る。袖の下はぜったい見ない。痣になっていそうで怖いからだ。


「誰だっていいじゃん! 宏人には関係ないでしょ。学校でも、そうだもんね! わたしのこと、避けてるでしょ?」

「あれは、そんなんじゃない! 俺はお前を――」


 ど修羅場の中、軽快な電子音が響いた。閑静な住宅街ではなかなか耳に拾いやすい音である。その音は宏人がしている無駄にでかい腕時計から発していた。スマホじゃない。でも、呼び出し音であることに変わりはないようだ。宏人は舌打ちして顔を歪めた。その顔、ぜったい他の子の前ではやめた方がいい。迫力ありすぎ。まあやれって言われても、やらないだろうが。


「宏人、なんか鳴ってるけど?」

「……ここで待ってろ」

「いや、帰る」

「ぜったい、待ってろ」


 宏人はわたしにかばんを押し付けて二つ向こうの電信柱まで距離を取った。それから腕時計を確認しているようだ。

 生憎待てと言われておとなしく待つわたしじゃない。腕に痣をつけられた意趣返しも大いに含んでいる。遠慮がない間柄なのでわたしはそろりと電信柱に近づいた。なにやら独り言をまくし立てている。


「やっぱ……学校……現れ……のか」


 声がちょっと遠い。もう少し近づいてみる。


「っくそ、わかった。今から戻る。俺が行くまでもつんだろうな」

『なんとかやってみる!』


 女の子の声が聞こえた。独り言じゃなかったのか。話が済んだ宏人が勢いよく振り返ったが、すぐにわたしに気がついて青ざめる。


「楓、おまえ今の聞いてたのか!?」

「全部じゃないよ。学校戻るの? かばんどうする? 家まで持ってっとこうか?」

「そ、うだな。今日はたまたま家に兄貴がいるはずだしその方がいいか……いや、やっぱりお前を一人にできない!」


 なにやらものすごく葛藤しているようだ。そしてここまで心配されるいわれはない。心外である。わたしだって一人で帰れる。


「急ぎの用みたいだし、もう行ったら? 別にわたし一人で帰れるし」

「……楓」

「ん?」


 宏人のいつになく真剣な眼差しにちょっと怯んでしまう。お隣りのさゆ姉に告白するときだって、ここまでじゃなかっただろう。でもわたしは心の動揺を悟られないよう、つとめて普段通りの体をよそおう。


「帰ったら、ちゃんと話そう。俺、ぜんぶ言うから、聞いてほしい」

「うん、わかった。待ってる」


 宏人の背中を見つめながら、なんとなく思った。この約束が果たされることはないんじゃないのかなあって。

 背中が見えなくなってから宏人の家を目指して帰ろうとしたところで、背後に全身を黒い布で覆った人が立っていて心臓が跳ね上がる。ローブっていうんだろうか、足元まで覆うそれをまとった大きいその人は、くぐもった声をあげた。


「お前がレッドの女か」

「? 人違いじゃないですか」


 誰だ、レッドって。わたしは失礼にならないよう会釈して脇を通り過ぎようとして、意識を失った。


+ + +


 目が覚めたらまたまた修羅場だった。


「くくく、この女がどうなってもいいのか?」


 そんな陳腐な台詞をはいたのは黒いローブの男だ。わたしはその男に腕を頭上で一まとめにして拘束されていた。ちょ、足場がない! 浮いてる!?

 わたしは今学校の屋上の空中に、黒いローブの男といた。屋上にはカラフルな五色のライダースーツたちがいる。


「そいつは関係ないって言ってるだろう!? いい加減離せ!」


 全身真っ赤なライダースーツを着た人が、こちらへ向かって吠えていた。顔まで覆っているので喋っているのが赤い人なのかはちょっと自信はないがそういうふうに見えた。まわりには青、緑、黄色、ピンクの人たちもいて、口々に同じようなことを叫んでいる。というか。


「……宏人?」


 真っ赤なライダースーツが、(多分)息を呑んで黙り込む。まわりのカラフルなひとたちに『レッド……!』と意味深な視線を向けられている。あれ、これはひょっとして、他人のふりをするべきだったのだろうか。けれど真っ赤なライダースーツはぜったい宏人である。どうしよう、一瞬で看破してしまった。


「楓、どうして……いや、俺は宏人じゃない!」

「いや、宏人でしょ。何やってんの、そんな格好して。わたしがあんたの声を聞き間違えるわけないじゃない」


 とりあえず腕をむずむずして拘束から逃れようとするも、やっぱりびくともしなかった。今日はよく腕を捕まれる。高いところが平気でよかった。


「そうか、この女はカエデと言うのか。レッド、口惜しかろう? こやつはすでにわしの腕の中。ハーッハッハッハ」


 黒ローブが高笑いすると震えて腕が痛い。顔をしかめると宏人……レッドが懇願するように叫んだ。


「ほんとうにそいつは関係ないんだ! 返してくれ、頼む!」

「レッド、それは……」


 ピンクさんがレッドの態度を指摘したいのだろうが、思いは同じらしく口をつぐむ。確かに敵に足元を見られてしまっている状況なので、下手に出ればどんな要求をされるかわからない。けれどわたしが人質としての効果がてきめんであると知られてしまった以上同じことなのだ。結局今わたしは黒ローブの手の内にあるのだから。


「グフフ、ならばタイムクロックを棄てろ」

「な! そんなことできるか!?」

「落ち着けグリーン!」


 緑さんががなる。それをイエローさんがいさめる。タイムクロックとは、あれではないだろうか。宏人がしていたでかい腕時計。その腕時計で全身ライダースーツに変身しているのではないかと推察する。

 しかしレッドの身内が人質に取られるって、そんなのシリーズでも佳境におこるアクシデントじゃないか。

 思うに宏人がレッドになったのはどう考えても高校に入ってからだ。それまでは、ほとんどわたしと一緒に日々を過ごしていたのだからまちがいない。別々の行動を取るようになったのは高校からだ。

 どうして進学一ヶ月やそこらでクライマックス級のイベントが起こっているのだろうか。それはやっぱり、お子さまが観るヒーローものじゃくて、今起こっているのが現実だからだろうか。

 焦れたのか黒いローブの男は、わたしを拘束しているのとは違う方の腕でわたしの胸を貫いた。ちょ、え? それを認識した途端、とんでもない嫌悪感で胸が押し潰されそうになる。痛くない、けど、苦しい。まさぐられるたび、吐き気を催す。レッドが爆発したみたいにとんでもないボリュームで何事が叫んでいるが、聞いてあげられない。こっちはこっちでいっぱいいっぱいなのである。

 黒ローブが「……見つけた」とつぶやいて腕を引き抜いたとき、わたしはすでにくたくただった。うめき声ひとつあげられない。黒ローブの手には真っ赤な時計盤がくるくると浮いて回転していた。なんだ、それ。


「これはカエデの中にある、レッドと過ごした時間だ。これが握り潰されると、どうなると思う?」


 黒ローブは卑下た笑みを口元に浮かべ、可笑しくてたまらないのか小刻みに震えている。腕が痛い。

 レッドはそれを聞いた直後に、腕時計を外して屋上から投げ棄てた。ちょっとは躊躇えよ! 案の定、変身の解かれたレッドは宏人だった。カラフルライダースーツのみなさんはぎょっとした。


「レッド!?」

「正気か!?」


 グリーンさんとイエローさんがうろたえる。そろそろブルーさんが喋っているところを聞いてみたい。


「これでいいだろう。楓を離せ」

「いやあ、物分かりのいいやつは嫌いじゃないぞ」


 黒ローブの力が緩んだので、わたしは隙をついて持てる渾身の力をふりしぼり勢いよく腕を振り上げた。そのまま黒ローブの腕ごと、わたしは自分の時間をたたき落とした。赤い時計盤は屋上の床にたたき付けられ、小気味よい音を立てて砕けた。

 ピンクさんが絶叫するなか、ブルーさんが動いた。銃らしきものを取り出し、こちらへむかってすばやく射撃する。黒ローブがその一撃をかわすためわたしをほうり投げる。宙を舞ったわたしを、宏人が受け止めてくれた。急激な眠気がわたしを襲い、まわりの状況が遠退く。宏人がわたしを抱きしめたまま、何かを言ってるのはわかるのに、内容の認識が遅れる。


「どうしてお前は、そんな簡単に手放してしまえるんだ!」


 宏人は泣いているようだった。まわりに目をやると、赤い時計盤が光の粒子になって少しずつ消えていってるのが見えた。ああ、わたしの生きた時間がちょっとなくなるから、眠いのか。わたしの中で大規模な修正が施されているのがわかる。

 ブルーさんは相変わらず黒ローブに追い撃ちをかけて応戦中で、グリーンさんとイエローさんも援護に加わる。


「博士! 博士! おねがい、楓さんを助けて、おねがいです……!」


 ピンクさんは必死に腕時計へ何か訴えかけていた。

 急に宏人がぐっとわたしの頬を両手で包み、顔を合わせられる。


「そんなに俺との時間は、たいしたものじゃなかったっていうのか!?」


 真っ赤な目をして、涙で頬を濡らしていぐしゃぐしゃなのに、その顔を綺麗だと思ってしまう。わたしは力をふりしぼって宏人の手に自分のそれを重ねる。


「……そりゃ、宏人に比べれば、ね」

「っ!?」

「これで勝てそう?」

「勝てる! お前のおかげだ。だから――」

「なら、よかった」

「寝るな、起きろよ、楓! 俺はお前にちゃんと話すって、約束しただろう!? ふざけんな!」


 わたしは精一杯の笑顔を作る。


「ありがと、宏人。わたしきっとあんたを傷つける。ごめんね」


 わたしはそれだけ言って、深い眠りに落ちた。


+ + +


 拠点に戻って、戦いの傷を癒す。

 楓を守れなかったことについて、グリーンとピンクがそれはもう泣いて泣いて大変だった。イエローがなんとか慰めにかかっていたが俺はそんな気分にもなれず、博士が修復してくれているタイムクロックをぼんやり眺めていた。

 俺はきっと、楓のことがすきだったんだろう。彼女を守りたかった。だから遠ざけたのに、それすら中途半端のお粗末で敵に嗅ぎ付けられてしまうくらい、未熟な恋だった。

 物思いにふけっていると、ブルーが静かに俺の隣に立った。


「いろいろと手回ししておいた」


 ブルーの家は政界の重鎮らしく、俺達タイムロックレンジャーズのパトロンでもある。今回の被害者である楓のアフタフォローの件だろう。俺は黙ってうなずいた。

 そのままメンバーに声はかけずに、拠点を出た。


+ + +


「あのさあ宏人兄、毎日毎日送り迎えしてくれなくていいよ?」


 俺の元幼なじみ、羽山楓は今年小学四年生になった。おかしいと思うだろう。けれど事実だ。楓は俺と過ごした時間をそっくりそのまま失った。その分を差し引くと、どうやら丸々六年間に相当したらしい。どうやら人生の四割を俺達は一緒に生きてきたようだ。改めて驚きだ。それはつまり、毎日起きている時間の半分弱に相当する分、顔を合わせていた計算になるのだから。

 目覚めて俺と面を合わせた楓の開口一番が堪えた。「このカッコイイお兄さん誰?」である。俺のことを意地でもカッコイイと称したことのなかった楓が、そんなことを宣ったのだ。多分傷つけると言っていた彼女の言葉を思い出して、こういうことかと打ちのめされた。


「俺が勝手にしてるんだから、お前は別に気にしなくていいだろ」


 楓は俺の母さんのことは知っていた。すでに家を出て働いている俺の兄貴のことも、五歳になる小さい妹のことも知っていた。高校での友達のことも先生のことも、俺がおぼえていない用務員さんのことまで知っていた。でも、俺のことだけは『知らなかった』のだ。

 試しに一方的に借りまくって返さなかった消しゴムの山をあるだけかき集めて見せても、身に覚えはないと言われた。傷をつけて背くらべした家の柱へ連れて行っても宏人兄みたいなひとでもいたずらするんだねって苦笑された。

 忘れたわけじゃない。俺の存在を知らなかったことにされた楓は、この頃は遠慮がちな瞳で俺を見た。そのことが俺の心に負荷をかけていく。それでも離れるという選択肢を選ぶことはできなかった。俺が関さないところの楓は、まったくもって俺の知る通りの楓だったから、諦めきれなかったのかもしれない。


「楓は俺と一緒にいるのは迷惑か?」

「なんでそんな言い方するの。ズルいよ!」

「嫌か?」

「変わってないし! 迷惑でも嫌でもないよ。ただこっちがまさにそんな負担になってないかなって思うくらいだし」


 顔を真っ赤にして照れている楓はかわいいが、これじゃない感じが拭えない。俺はいったい小学生になってしまった彼女をどうしたいんだろう。高校生までの知識を持ったまま小さくなってしまってやり直している女の子は、大人では決してない。でも子供にもなれない。


「知ってる? 宏人兄みたいなひとって『ロリコン』って言うんだって!」

「……まったくな」


 くしゃりと前髪を握りこんで自嘲じみた苦笑を隠す。楓は洒落にならないと思ったのか慌てて言い繕った。


「ちょっと、本気にしないでよ。じょーだんじょーだん!」

「楓はおじさんって大丈夫?」

「いったい何の話してるの!?」

「いや、でも楓が十六のときって、俺は二十二か。別におかしくない、か?」

「何の計算をしてるの!?」

「もっと言うと、楓が大学を卒業したら俺は二十八だから、充分養っていける、か」

「ちょっとやめて、ほんとこわい!」

「楓」


 ぐっと黙り込んで、恨めしげに睨まれる。その目を見て話す。


「早く大きくなれ。そしたらちゃんと言うから」

「ごめん、今本気で鳥肌立った」


 おかしくなって笑う。遠慮のない言葉に、ようやく安堵できた。


「だから、他の誰も見ないで。俺はずっと待ってるから」

「……こんなカッコイイひとがいて、他とか見れないし」


 俺の知っていた楓もそう思ってくれていたらよかったと思う。もっと言うと、それが今の楓の本心でもあればいい。だってそうであれば根っこのところは変わらないのだから、俺達はちゃんとやり直していけると思うのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、悔しい、泣いてしまった 想像もつかない悲しい展開でした これで楓ちゃんの方が釣り合う年齢の男の子と恋に落ちてしまったら切なすぎる 宏人は身を引いてしまいそう 大学の卒業式で赤いバラ…
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