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落ちこぼれ営業マン異世界戦記 ~俺は最強騎士となり12歳のロリ女帝や脳筋女騎士や酒乱巨乳奴隷や食いしん坊幼女奴隷に懐かれながら乱世を生き抜くようです~  作者: 羽黒楓
第一部 第一章

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17 流れ星

「すっげえええええ!!」


 思わず俺は叫んでいた。

 塔の頂上で空を見上げると、満天の星空がそこにあった。

 星が降ってくるような、という表現がぴったりだった。

 東京みたいに街の(あか)りが邪魔することもなく、その光を存分に輝かせ(きらめ)かせている星たちが、俺達を包み込んでいた。

 当たり前だけど知っている星座はない。

 月も出ていない。

 そもそもこの世界に月があるのかどうかはしらないけどさ。

 とにかく俺は今、またたく星の光のシャワーに全身を打たれている。

 星の光が本当に質量を持って俺の身体に降り注いでいるようにも感じる。

 もう、感嘆の声しか出ない。


「ね、ここ、いい場所でしょ?」


 ヴェルが自慢気に言う。


「うん、ここすごくいいよ! こんないいとこ秘密にしてたなんて!」


 ミーシアも少し興奮して言った。

 俺は周りを見渡す。

 どうやらこの帝都は円形の城壁で囲まれ、その中にさらに円形の城壁があって、その中が帝城になっているらしかった。

 帝都は直径十キロ、帝城部分は直径一キロというところか。

 俺達はその帝城の中の、西側にある古びた見張り塔の上にいるわけだ。


「ほら、エージ、あれがマゼグロンタワーよ」


 ヴェルが指差す。

 そちらの方向を見ると、なるほど、王城の中心に一本の塔がそびえ立っていた。

 今俺達のいる塔の高さが十五メートルほどだとして、そのマゼグロンタワーはそれよりもはるかに高い。


「高さ百二十マルト。この大陸で最も高い人口建造物よ。ターセル帝国のある意味象徴ね」


 一マルトはだいたい一メートルと同じだということは、酒飲んでいる時にキッサに聞いて確認している。ちなみに一カルマルトが一キロメートルと同じくらいらしい。

 つまり、百二十メートルの高さということか。


「マゼグロンタワーの頂上にはね、皇帝しか立ってはいけないことになってるの」


 なぜかヴェルが胸をはって誇らしげに言う。


「すげえな。皇帝陛下はあのてっぺんに住んでいらっしゃる……?」


 俺が()くと、ミーシアが答えて、


「まさか! ふふ、あんなとこ、年に二回の儀式の時くらいしか上まで登らないよ。階段だから、はっきりいって死ぬかと思うけど。昇降機あるんだけど儀式だから階段登らなきゃいけないの」


 確かにあの塔を階段で登るとなると、もはや軽い登山だ。

 華奢(きゃしゃ)な身体のミーシアにとってはほんとに死ぬ思いだろう。 


「私はね、あのマゼグロンタワーの根元の、ほらあそこ、ちょっと立派な建物があるでしょ? あそこが私の住居」


 もう真夜中に近い。

 暗くてよくわからないけど、星明かりを頼りに目を凝らす。

 ミーシアが指差す先には、確かにバロック建築風の豪奢(ごうしゃ)なでかい建物があった。


「でね、あのへんがさっきまでいたヴェルの居室。あそこがエリンの住居。でねでね、あのへんが近衛兵(このえへい)の駐屯所になっていて……」


 ミーシアが指さして俺にいろいろと教えてくれる。


「すげえな……。この王城全部が皇帝陛下のために存在しているようなもんだもんな……」


 ひとりごとを(つぶや)く。


「そうよ。これぜーんぶミーシアの物なの。あのタワーも、あの宮殿も、この城もこの帝都も全部ミーシアの所有物なのよ」

「やめてってば! そういうこと言われると怖くなるの!」


 奴隷用のローブを身にまとい、奴隷用の首輪をした第十八代ターセル帝国皇帝陛下は、その小さい体躯(たいく)を自分で抱いて、ぶるっと震える。


「ヴェルってばエリンと同じようなこと言わないでよ」

「ごめんごめん、怒っちゃだめよ、ミーシアちゃん」


 ヴェルは気軽にミーシア陛下の頭をポンポンと叩く。

 俺にはもうバレてるからいいと思っているのか、この二人、皇帝と臣下の騎士の言葉遣いじゃなく、ただの親友同士の話し方に戻っている。

 しばらく三人で星空や景色を眺めたあと。

 ふとミーシアが言った。


「じゃあ、やってみようか?」


 あー。

 えーと。

 ほんとにやる気なのか、この十二歳皇帝陛下。


「あのね、ヴェルね、縄とか持ってきてるでしょ?」

「まあ、一応ね……」

「じゃ、私今、ここでパパっと裸になっちゃうからさ、私のこと縛って」


 ひえ~~。

 まじでやるのかこのドM露出狂ロリ女帝。

 ヴェルも困ったような顔をして、


「うーん、ほんとに? ここは使ってないから誰もいないけど、ほら、あそこの新しい方の塔には見張りも立っているし、多分暗視とか遠視の法術持ちがいるんじゃないかしら。見られない、とは限らないわよ」

「えーだめなの?」


 といいつつも、すでにローブを脱ぎ始めているミーシア。

 気がはええよ!

 どんだけ裸になりたいんだよ!


「あの人たち、どうせ私の顔なんて知らないでしょ。衛兵に第五等以上の者がいるとも思えないし。見られて(とが)められたところでヴェルが奴隷をいじめてたってことにすればいいよ」

「いやそれじゃあんた、衛兵に裸見られてることになるじゃない」

「それって…………。すんごい、ことだよね……」


 (すご)みのある笑顔でぶるっと震えるミーシア。

 さっきのとは違って今の震えは明らかに快楽の予感の震えだった。

 変態め。

 ヴェルも(あき)れた表情をしながらも、


「ま、ミーシアがそれですっきりするってんなら、協力しないでもないわ。ほらエージ、あんたごときが陛下のお身体を拝見するなんてありえないんだから、そこの階段の下で待機してなさい」

「へいへい……」


 残念。

 十二歳の黒髪おかっぱ全裸緊縛少女、見たかったのに。

 でもさすがにそれを見るとヴェルに問答無用で殺されそうだ。

 そのときだった。

 塔の下から叫び声が聞こえた。

 入り口で見張っていたキッサの叫びだ。


「ゾルンバード! 二羽、そっちに行きます!」


 瞬間、ヴェルが剣を抜いた。


「ミーシア、伏せて! エージはそっち! こっちはあたしがやるわ!」


 何がなんだかわからない。

 え、何が起こったんだ?

 ゾルンバードってなに?

 次の瞬間、目の前に現れたのは。

 始祖鳥、って知っているだろうか。

 あの羽の先に爪を持ち、くちばしに歯を持つ恐竜と鳥の合いの子みたいなやつだ。

 あれに似た巨大な鳥が二羽、塔の上にいる俺たちに向かって一直線に飛んできたのだ。


「我を加護するプルカオス、我のマナを燃ゆる石に変えよ!!」


 ヴェルが叫び、剣を払う。

 空気がビリビリと震動する。

 ヴェルの剣先から真っ赤に焼けた炎の塊が放出され――

 それが今まさにヴェルに襲いかかろうとしていたゾルンバードに直撃した。


「ヒギャアアァァ!」


 ゾルンバードは耳をつんざくような雄叫(おたけ)びとともに炎に包まれ、地面へと落下していく。


「エージ! そっちに一匹いったわ!」


 鋭いヴェルの声。

 ヴェルの言うとおり、俺にむかってもう一羽のゾルンバードが突っ込んでくる。

 牙のあるくちばしを開け、今まさに俺に()みつこうとしていた。

 とっさにニカリュウの聖石を手に持ち、


「死ねぇ!!」


 無我夢中で叫んだ。


「グギャア!」


 ゾルンバードは俺の顔のすぐそばを通りぬけ、そのまま塔のてっぺん、俺達の居る場所の床に激突した。

 クシャ、と骨の砕ける音。

 もうピクリとも動かない。


「エージ、やるじゃない……。さすがジュードーの使い手ね。まさか帝都のどまんなかに魔獣がいるとは……。珍しいわ。群れからはぐれたのかしら」


 足元にあるゾルンバードの死骸を足で蹴ってヴェルが言う。

 しかし、これも魔獣ってやつか。

 フルヤコイラとかいう六本足の魔獣以外では初めて見た。

 俺が殺して死骸になっているのに、その姿は見るだけで恐怖で身がすくんでしまうほどの異形の生物。


「まあ、今の騒ぎで衛兵がこっちに来ちゃうかしらね……。ミーシア、残念だけど今日の遊びは中止よ、早くそれ着てあたしの奴隷のフリしなさい」

「あーあ。残念……」


 もう早くも上着を脱ぎかけていたミーシアががっかりした声で言う。

 っていうか、ちっちゃい肩が露出していて、ブラジャーの(ひも)らしきものすらすでに見えている。

 見えちゃってるよ皇帝陛下!

 馬鹿じゃねーの、どんだけ気が早いんだよ!

 いやあうっすい肩だなあ!

 もっと食わなきゃ成長しねえよ!?

 あとブラジャー必要なほど胸ないんじゃないの?

 でもちょっとセクシーに見えちゃうってことは俺ってばロリコンだったんだろうか?

 しかしまあ、これで俺も魔物を殺せるだけの力があるのははっきりした。

 正直、襲われている最中はそうでもなかったけど、無事に切り抜けた今になって心臓がドキドキし始める。

 いやミーシアのブラジャーを見たせいじゃない、と思う。

 違うってば。

 安堵(あんど)のため息をついて改めて空を見上げる。

 満天の星空、地平線の向こうからこちらに向かって流れ星が落ちてくるのが見えた。

 願いごとでもした方がいいんだろうかね。

 お願いごと……。

 なんだろう、今度こそ、誇りのもてる人生を……。

 でも流れ星ってすぐに消えちゃうんだよな。

 あ、またひとつ。

 お、またひとつ流れ星。

 ヴェルも流れ星をじっと見つめている。

 この世界にも流れ星に願うとそれがかなうとか、そういう迷信があるんだろうか。

 でもこの流れ星、数が多いな。

 一つや二つじゃない。

 南西の方角から、五個も、十個、いや百……?

 なんだこれ!

 空が流れ星で埋め尽くされていた。


「まさか……ありえないわ……」


 ヴェルが目を見開いて言う。

 なんだ、なにが起こっているんだ?


「これ一体なにが……」


 俺がヴェルに問おうしたその瞬間、流れ星はミーシアの――皇帝の住居に直撃し、爆発を起こした。

 一つだけじゃない。

 いくつもの流れ星がミーシアの住居に集中して落ち、その辺りが爆炎に包まれる。


「なに、これ……」


 ミーシアが呆然(ぼうぜん)として呟く。

 ヴェルは目を細めてそちらの方向を見つめ、


「――くる」


 と言った。

 次の瞬間、ヴェルの居室のあたり、その上空にどでかい――これは――竜!?

 大きな翼を持った、ええと、ゲームで見たわこういう奴、空飛ぶドラゴンがヴェルの居室の上を旋回しつつ飛んでいる。

 燃え上がる宮殿の炎に照らされて、その姿はまさに異様で威圧的だった。


「飛竜……まさか、魔王軍がこの帝都まで……」


 ヴェルが真っ青な顔で言う。

 遠くからでも飛竜の馬鹿でかい姿はよく見えた。

 その飛竜が大きく口を開け――ヴェルの居室に向かって正確に、火を吐いた。

 自衛隊の火炎放射器の動画を見たことがある。

 あれの何十倍もの威力をもった火炎が、一帯を火の海に変えた。

 何百メートルも離れているはずのここまでその熱量は届く。

 俺のほっぺたが熱い。

 その間にも流れ星――いや、魔王軍の攻撃ってことか、それがミーシアの住居やヴェルの居室や、それにエリンの住居、近衛兵の駐屯所に集中して落ちていく。

 そのたびに爆発音がして、その爆風は遠くにいる俺達にまでとどいた。


「あそこで寝ててあの奇襲くらってたら、あたしでさえどうなってたか……。いやそれよりも、ミーシアがここにいなかったら……」


 ヴェルが血の気のひいた顔で言う。


「エージ、下の奴隷呼んで連れてきて! あたしは遠視も暗視も使えない! あいつに見させるわ!」


 言われたとおり、塔のてっぺんに奴隷姉妹を連れてくる。


「なんですかこれ、何が起こっているんですか?」

「おねえちゃん、おにいちゃん、こわいよお……」


 キッサとシュシュの姉妹が混乱して俺に訊いてくる。

 俺にだってわかるものか。

 ミーシアはローブを深く被り、自分が寝ているはずだったバロック建築風の住居が燃え落ちていくのを、身を固くしてただ見つめている。

 王城のあちこちから、法術をかけられた武具なのだろうか、光る矢が上空を飛び回るゾルンバードや、それに巨大な飛竜に向かって射掛けられている。

 だけどその数は明らかに少なくて、反撃というには火力が足りなそうに見えた。

 ヴェルがキッサに言った。


「あんたの拘束術式そのものは解除できない――けれど、法術の封印はあたしの権限で解けるわ。あんた、暗視と遠視が使えるでしょ、法術封印を解除するから、あっちの方向――」


 帝都の南西を指さす。


「あっちを中心に遠視と暗視で見てみなさい。なにがいる?」


 そしてヴェルはキッサの首輪に手をあて、ブツブツと何かを唱えた。

 キッサの奴隷首輪が光り、カチリと音が鳴った。

 キッサは俺の顔を見る。

 俺は(うなず)いて、


「頼む」


 と言った。


「――わかりました。見てみましょう」


 キッサは人差し指と中指の二本を南西の方角に向け、


「我を加護するキラヴィ、我と契約せしレパコの神よ、我に闇の向こうを見せしめよ!」


 と叫んだ。


「何が見える?」


 ヴェルが言う。


「……まず、魔物の群れ……空を飛ぶ魔物が……三百ほど……飛竜は三匹……その他はゾルンバード二百とステンベルギ百……」

「ステンベルギまで……三百となると、これは組織的な攻撃よね……くそ、魔王め……あとは!?」

「人間の軍勢……南西に……一万ほど……?」

「味方の援軍だわ! きっと第二軍よ!」

「いえ……そいつらも一緒に……」

「はあ!?」

「その人間の軍勢も、法術で南西城壁に攻撃を……城壁の守備兵は壊滅してますね……これは持ちません……」


 報告するキッサの声も、驚きと恐怖のせいかかすれている。

 キッサの遠視と暗視の能力ってすげえな、高性能レーダーだ。

 軍事的には最優先されるべき技術だ。

 情報を握る者が戦況をコントロールできるのだ。

 ここにキッサがいなければ俺達は何もわからず右往左往するしかなかっただろう。

 いやまあ、今も混乱の極みにいるのだけど。

 ヴェルが苛立(いらだ)ったようにキッサに訊く。


「人間の軍勢って? どこの? 旗や盾の紋章とか見える!?」

「……王冠に、二羽の鳥がとまっている紋章……」

「第二軍よ! なに、第二軍の……リューシア? リューシアが反乱起こしたってこと? あとは? それだけ?」

「バラの花……」

「バラ!?」

「はい、バラの花の紋章が見えます……」

「なによ、くっそおおお!!」


 ヴェルが抜き払った剣を塔の床に切りつけた。

 剣は豆腐を切るかのように石でできた床へめり込んだ。


「くそ……へ……」


 ヴェルが歯をむき出しにし、ブロンドを逆立て、怒りの形相で叫んだ。


「ヘンナマリィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」





 オールィンゴ歴八五二年、ターセル帝国第十八代皇帝ミーシア・イ・アクティアラ・ターセルの二年、五の月。

 ターセル帝国史上最も大規模なクーデターが勃発した瞬間だった。

 この時から、大陸全土は戦乱の炎に包まれることになるのだった。

 そして当然、俺もこの戦乱に否応なく巻き込まれていくことになる。

 

  

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