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落ちこぼれ営業マン異世界戦記 ~俺は最強騎士となり12歳のロリ女帝や脳筋女騎士や酒乱巨乳奴隷や食いしん坊幼女奴隷に懐かれながら乱世を生き抜くようです~  作者: 羽黒楓
第二部 第一章

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20 死霊使い

 地下二階。

 キッサの能力を頼りに、俺たちは先を急ぐ。


「うー! うぐぅ~! ふー!」


 イーダは今や猿ぐつわまではめられている。

 目から涙をぽろぽろと流しながら、副作用と戦っているのだ。

 俺はなったことがないからわからんけど、すごくつらいらしいからなあ。

 俺と死ぬほどキスしたくてたまらないのだろう。

 このダンジョンの制圧が終わったら、好きなだけさせてやるから今は我慢してくれ。


「この先、分かれ道があります」

「んーどっちに進もうか?」


 俺の言葉に、


「しらみつぶしに探索するしかないわね」


 とミエリッキが言う。

 とりあえず、右に進もう。

 なんかの漫画で人間は左に進みたがるとか読んだことあるし、だったら逆からいこうというわけだ。

 分かれ道を右にまがり、しばらく進むと――


「ヴヮォォォ~~……」


 なんだか低い(うな)(ごえ)のようなものが聞こえてきた。


「キッサ、見えるか?」

「いえ、ここからでは見えません。この先の突き当り、右に進む道があります。おそらくそこからかと……」


 俺たちは警戒しながらすすみ、突き当りの角でいったん立ち止まる。

 壁にぴったりと背中をつける。

 どうでもいいが、このダンジョンの壁は大理石みたいな感触だ。色は大理石と違ってすすで汚れたような黒なんだが。

 さて、俺は壁から顔だけだしてひょい、と奥を(のぞ)く。

 うーん、やはり何も見えない。


「なんだかいやな予感がするわね……」


 ミエリッキが言う。


「この唸り声……私の嫌いな奴らな気がするわ……」


 嫌いな奴ら?

 火炎竜にすら(ちゅう)(ちょ)なく突っ込んでいったこいつにも、苦手なんてあるのか。

 なんにせよしょうがない、覚悟を決めて進むしかない。

 曲がり角を曲がる。


「……! やはりなにかいます! 数は………………かなりの数です、八体……いや十体? 動きはのろいですが……」


 暗視能力で索敵したキッサが言う。

 そんなに数がいるのか。

 しょうがない、一気に突破するか。


「ミエリッキ、さっきの照明弾みたいなの、あるか?」

「たくさんあるわよ、ダンジョン探索の必需品でしょ。むしろあんたたちが持っていないのがびっくりだわ」


 ミエリッキは自動車に備え付けられている発煙筒くらいの小さな筒を取り出すと、それを先に放り込む。

 バシュ! という音とともに、当たりが明るくなった。


「…………! こいつは……人間か!?」


 俺の言葉通り、そこにうごめいていたのは人間だった。

 いや、違う。

 『元』人間だ。


「アンデッド!」


 キッサが叫ぶ。


「ち、やっぱり死霊使いがいるのか……」


 死霊使い? アンデッド? ってことはつまり……。


「ゾンビか?」


 俺の精神感応の能力はその言葉を正しく翻訳したみたいで、


「その通りです……。人間の死体を操る死霊使い……。殺した人間の死体を支配し、自分のたちの戦力とするやつです。大規模な戦闘になると、次から次へと敵が増えていくので厄介な相手です」


 この世界にはそんなものまでいるのか。

 たしかに、大規模戦闘ともなると人間側にも死傷者は多数できるだろうし、それが敵としてこちらに攻撃してくるならば、かなり面倒な相手だろう。

 なにしろ、戦いが進んでも、敵の数は減るどころか増えていくんだからな。

 だけど、もちろん、俺はこのパーティの誰も殺させはしない。


「よっしゃ、突入するぞ!」


 だが、俺は知ることになる。

 ほとんど無敵だと思っていた俺の能力、攻撃的精神感応にも弱点はあったということを。

 照明弾の明かりをたよりに俺とミエリッキは前にたつ。

 そこにいたのは、半分腐って肉が溶け落ちた、人間の兵士の慣れの果てだった。

 おそらく、以前ここのダンジョンにおくりこまれたというローラ族の兵士たち『だった』モノたちだろう。

 腐臭がたちこめていて、()()みそうになるほどだ。

 硬貨を握りしめ、半径十メートルはある扇形の法術を展開する俺。

 それを、ゾンビの群れに(たた)()む。


「おらぁ!」


 だが、俺の目の前に展開されたのは、信じられない光景だった。

 たしかにライムグリーンの扇はゾンビたちを包み込んだ。

 間違いなく、攻撃は当たったのだ。

 だが。


「グァァァァァァ……」


 ゾンビたちはまったくものともせず、俺たちの方へゆっくりと歩いてくる。


「なんだこりゃ、どういうことだ!?」


 もう一度攻撃を叩き込む。

 しかしやっぱりゾンビたちはまったくなんの反応も示さず、持った剣をふりかざしてくる。


「ちっ!」


 ミエリッキが背中の刀を抜き、ゾンビたちの群れへと突っ込んでいく。

 さすがにそのスピードについてこれず、ゾンビたちはミエリッキの刀に頭部を切り落とされていく。


「頭を切り離しちゃえばこいつらは活動を停止するわ!」


 と言われても、俺の能力は、法術障壁によって矢や(やり)程度の物理攻撃を防ぐことはできても、こちらからの攻撃で敵に物理的作用を及ぼすことができないようだ。

 いや、それでも多少の衝撃は与えることができる。

 だが、不死の存在であるゾンビを戦闘不能にまで陥らせることまではできない。

 こいつら、首を切り離さないと動きを止めないみたいだからな。

 なにしろ、俺の能力、元は精神感応なのだ。

 ん?

 精神感応……。

 それって、つまり……。


「そうか、こいつらには精神なんてないってことか!」


 なんてこった、無敵だと思っていた俺の能力は、操られている死体には何の効果ももたらさないのか!

 少し考えればそりゃそうだとも思う。

 死体はものを考えないからな。


「ミエリッキ、すまん、今回俺は役に立ちそうにない!」


 だけど、ミエリッキの力をもってすれば、ゾンビ十体くらいわけないはずだ。

 そう思ったのに。


「さらにゾンビが来ます! この先から……もう十体……いえ、二十、三十……どんどん増えてきます!」


 キッサが悲鳴に似た声をだして叫ぶ。

 やばい、いくらミエリッキでも一人で何十体ものゾンビと同時に戦うのはきついかもしれない。

 どうする? どうする?


「こいつらを操っている死霊使いがいるはずです! そいつを殺せば……」


 キッサが言う。

 いったん俺たちのところまで引いてきたミエリッキが、


「……あんたの能力はアンデッドには効かないみたいね……よかったわね、私がついてきて」


 うむ、反論の言葉もない。

 もし俺たちだけでこの状況におかれたら、尻尾を巻いて逃げるしかなかったところだ。


「エージ、とかいったわね、あんた」


 そういやミエリッキに名前を呼ばれるのは初めてじゃないか。


「私が道を切り開く。あんたは私のぴったり後ろについてきて。あのゾンビたちの群れの向こう側に、死霊使いがいるはずよ! そいつは魔物だから、あんたの能力で殺せるはず!」

「ああ、わかったぜ! キッサ、少しのあいだだけ、三十マルトぎりぎりまで戻って隠れていてくれ!」


 魔物たちを倒してここまで来たのだ、後方の安全は確保されている、はずだ。

 とはいっても三十メートル以上キッサとシュシュは俺から離れられない。

 そんなに時間はかけられないぞ。


「はい、わかりました! でも、急いでください!」


 キッサが妹のシュシュを抱き寄せてそういう。

 もちろん、いわれるまでもない。


「ミエリッキ、いくぞ!」

「了解!」


 ミエリッキが長い刀を振り回してゾンビたちの群れに突進する。

 俺はその背後に隠れるようにしてついていく。

 うーん、こうなると、物理的な剣かなにかも装備しておくべきだったな。

 能力に頼りきりで、リアルな武器なんて俺はなにも持っていないのだ。

 ゾンビたちは次から次へと湧いてきて、通路はゾンビだらけだ。

 くそ、こいつらなんか悪い疫病とかもってないだろうな。

 ミエリッキはゾンビどもを素早い動きで切り倒していく。

 そして通路の一番奥に、そいつはいた。

 パッと見、イソギンチャクかと思った。

 うようよとうごめく無数の職種、イソギンチャクなら岩にはりついているが、こいつは全身が触手で覆われていて、ぐにぐにと移動までしている。

 死霊使いとかいうから、なんか魔法使いっぽいやつでもいるのかと思ったら、こんな化物なのかよ。


「あいつよ! 私はゾンビどもの相手で精一杯! エージ、頼むわ!」

「ああ、わかったぜ!」


 死霊使いの触手の向こう側に、三つのギョロリとした目玉があって、俺はそいつと目があった。

 うっわ、気持ち悪い。

 でも、わかる。

 こいつは確かに精神というものを持っている生物だ。

 俺の能力が効くはずだ。

 ゾンビたちが砂糖に群がる(あり)のように俺たちに襲い掛かってくるが、ミエリッキの刀は半径二メートルにゾンビが近寄ることを許さない。

 俺は精神を集中する。

 死霊使いと目を合わせたまま、狙いをつける。

 うようよと動く死霊使いの触手。

 気持ちわりいな。

 あの動きでゾンビどもを操っているのだろうか。

 ゾンビどもの数はどんどんと数を増していく。

 この世界にきて、これだけの数の人間の死体を目にするのは初めてかもしれない。

 というよりも生まれて初めてだ。

 嘔気(おうけ)がするほどの死臭とおぞましいうめき声。

 だが、ここで俺がひるんでは女の子たちを守れない。


「エージ、早く!」


 ミエリッキが叫ぶ。


「言われるまでもねえぜ! ……おらぁぁぁぁぁ!」


 俺はミエリッキの背中にライムグリーンの剣を突き刺した。

 ミエリッキの身体を貫通した剣はまっすぐ死霊使いにむかっていき――

 そして、その気持ち悪い目玉の一つに到達した。

 もちろん、俺が敵意を持っていないミエリッキの身体にはなんの害もない。

 俺の剣先が死霊使いの目を刺し貫いた途端、


「ウギョロギョロギョロ!」


 死ぬほど気持ち悪い音だか悲鳴だかを伴って、死霊使いの触手が動きを止めた。

 同時に、ゾンビたちもぴたりと停止し、やがて、ドサドサッという音とともにその場に崩れ落ちていく。


「おえっ……きもちわりい……」


 思わずその場に(おう)()しそうになる。

 なにしろ、その場に残されたのは、俺とミエリッキ、数十体の人間の死体、そしていまやどろどろに溶け始めている異形の魔物だけなのだ。

 くっそ、まじで吐きそうだ、勝ったのに勝った気がしねえぜ。



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