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彼と彼女と夢物語  作者: 伝説の自宅警備員
第二章―変わりゆく何か―
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第八話―友を想って―

いやはや、また投稿が遅くなってしまってすみません。

出張が有りすぎるんです......という言い訳を述べときます......。

「――それじゃあ、また、な、翔」


「......おう」 



 そうして手を振って、いつものように笑顔を浮かべて去っていく亮の姿を翔は複雑な表情で眺めていた。

 思い出すは先程亮から告げられた言葉。それは亮が今まで翔の為を想って話さずにいた内容だった。

 

 ストン......と、心のもやもやが晴れた気がした。今までずっと分からなかったものの理由がやっと判明したのだ。重荷から解放された気がしたのだ。

 だが、それと同時に翔は、


(なんで今まで話してくれなかったんだよ......)


 という怒り、あるいは哀しみといった感情が沸き始めていた。その気まずそうに話す亮に翔は言葉をぶつけようとしていた。

 しかし、その話が進むに連れ、やっとその理由が判明した。そして、納得した。

 

 ――全ては自分の為に黙っていてくれた事なんだと。

 

 そして、それがどれだけ亮にとって辛かった事だろうか......

 どれだけ悲しかった事だろうか......

 

 最悪、憎まれていてもおかしくない......そんな内容だった。

 それだというのに......翔は今までこの事を知らなかった。気付きもしなかった。それだけ亮はこの事に関して翔に気付かれまいと今まで気を使っていたのだろう。

 

 そんな亮の心境など、今まで微塵も分からなかった......。


 それが、亮の友人として、親友として、翔は本当に情けなく思い、どんな言葉を返せばいいか分からず、ただただ黙って話を聞くことしか出来なかった。



「――翔......ごめんな、今までずっと黙ってて......」


「そ、それは......だって、お前......俺の為、なんだろ......?」



 亮は今まで言えずにいた事で今翔が悲しんでいる。辛い状況に陥っている。そう感じたからこそ、今まで話さずにいた内容を腹を決めて告げた。けれど、やはり翔の姿を見ると本当に話してしまってよかったのか......そんな迷いが生じる。

 

 しかし、いずれは話さないといけない事だとも薄々気付いていた。

 だからこそ亮は思い切って告白する事にしたのだ。


 それでもし、翔が辛い気持ちになったとしても......。



 そうして、今までずっと黙っていた事に対し、亮は罰が悪そうな表情で翔へと謝っていた。


 そんな亮の言葉に翔はすぐさま否定する。

 自分の為を想っての行動であるのだから、感謝はすれどそれを咎めるなんて事は完全にお門違いだ。そう思ったから。


 それでも、亮は首を横に振る。



「......すまん。俺がもっと早く話していれば......」


「いや、だから、それは......俺の為、なんだろ? お願いだから......謝んなって......」



 それでも頭を下げて謝り続ける親友の姿を見ているのが本当に辛く、翔は自然と視線を落とす。

 その際、頬を伝ったものにどんな感情が込められていたか、翔にも分からなかった。


 何が正解だったのか......それは分からない。

 それでも知った事で、これから新たな一歩を踏み出せるのかもしれない。そういった意味も込めて親友はお互いが辛くなってしまうのを覚悟で告白してくれたのだ。


 翔がそう思うと、充血したその瞳に決意の意志が宿る。



「亮......ありがとう、話してくれて。辛い事......思い出させちゃって......悪い」



 翔の言葉に亮は顔を上げる。いかにも辛そうに......普段の亮では絶対に有り得ない、そんな表情を浮かべている。

 

 その表情をしっかりと翔は見据える。真っ直ぐ瞳を見つめる。

 初めてかもしれない。翔が目を真っ直ぐに見ることなんて......

 その瞳を受けて、亮は瞠目する。

 そして、言って良かったと......心から安堵すると同時に今まで抱えてきた重荷がすっ......と、消え去ったような気がした。


 そうして、亮の表情から陰りが消えた。

 それを見とめた翔が「ふぅ」と、安堵の溜息を吐くのと、亮のその顔がいつもの意地の悪そうな表情に戻るのは同時の事だった。



「ってか翔......泣くなし」


「なっ、泣いてなんか、ないし! 亮、お前だって――」



 亮の言葉に狼狽する翔が、亮へとお前こそという抗議の言葉を投げようとした矢先、ごしごしと雑に、されどどこか優しさの詰まった手先で亮は翔の頭を撫でていた。



「お前本当......大人になったな」



 そして、慈しむような言い方で亮から言葉を投げかけられた翔は、恥ずかしさ半分、嬉しさ半分といった感情が湧き上がる。



「......何様だよ」



 そして、照れ臭そうに小さく、亮へと言葉を紡ぐそんな翔の姿に亮の撫でる勢いが強まったのは言うまでもない。




 ◇◇◇




 時刻は八時二十五分。

 翔は亮と別れた後にひとまず熱くなった瞳を冷まそうとトイレの洗面所へと向かっていた。

 ただ、これに関してはいつもの事で、翔はチャイムが鳴るギリギリまでトイレへと居る。これは紗結の取り巻きという名の暴風圏になるべく近付かない為である。

 その為、翔は水道水で目を何度か洗うと暫くはトイレに籠もって時間が訪れるのを待っていた。


 当然、その時に考える事は紗結の事である。



(綾瀬さんはもう元気を取り戻したかな......

 また、話せるかな......

 しっかりと、謝れるかな......

 夢......また一緒に見られるかな......)



 そんな想いが巡る度に不安が押し寄せてくる。


 

(もう......嫌われてしまって......話せないのでは......)



 そんな感情が直ぐに湧き出ては頭を左右に振る。



(大丈夫だ......大丈夫だ......大丈夫だ......)



 そうやって無理矢理自分に暗示をかけながら翔は教室のドアの前まで歩を進めていた。

 

 ――キーンコーンカーンコーン

 

 そして、訪れたその時間。

 翔は「ふぅ」と一息、息を吐くと意を決してその扉を開いた。



 目の前には普段通りの光景......されど、つい先日から変わった光景がそこにはあった。

 それは紗結の取り巻き連中がやはり、紗結の席の所ではなく、楓の席の方に集まっていたのだ。

 そして、チャイムの音で皆が席につき始めている様子が見て取れた。


 翔は誰とも視線が交わらないようにと視線を落としつつ、自身の席へと向かっていた。

 やはり、自分は取り巻き連中から嫌われているのだろう......そう翔は感じていた。


 其処彼処から翔へと突き刺さる敵意の籠もった視線。そんな数々の視線に既に慣れ始めていた翔だったが、それでもこんな不安定な心境状況の時にそういった冷たい視線はどうにも心に突き刺さる。

 翔は、胸が痛くなるのを抑えながら、なんとか席へと辿り着いた。


 そして、また違う意味で翔は胸が苦しくなる事になる。

 当然その席の隣には最愛の人――紗結が居たのだ。

 翔がちらっと視線を紗結へと向けると、紗結も翔の登場には気付いていたのだろう。翔の方に顔を向けていた。


 そして、自然と二人の視線が交わる。



「――おはよう、雨音くん」



 そして、そう翔に言葉を投げ掛け、微笑む紗結のその表情には、いつもの子供のように純粋無垢な笑顔が消え去っていたのだから。



「......っ」



 翔は言葉を返す事が出来なかった。

 いや、その顔を見続ける事も不可能だった。


 その表情は、確実に自分が作り出してしまった表情なのだ。


 そんな表情を見て、どう言葉を返せばいいのか......

 どうやったらそんな表情を見て居られるだろうか......


 翔はそんな感情が一瞬にして駆け巡り、胸が先程の何倍......いや、何十倍も締め付けられる。


 そうして言葉を返せないまま、翔がその場に立ち竦んでしまっていると......



「皆さ~ん! おはようございま~す! 朝のHR始めまっすよ~」



 紗結と翔の間に流れる空気なんて露知らず、もしくは読みもせずに、週始めから意気揚々と蛍先生が教室へと入ってきたのだった。


 翔は固まっていた身体を何とか動かして席に座る。

 その際、やはり紗結へと挨拶を返せないまま席へと座る翔の姿を翔だから仕方がないか、と後ろで二人のやり取りを見守っていた楓が溜息を零し、成美がそんな楓を不思議そうに眺めていたのはまた別の話。

何となくは翔と亮の間にあった「何か」が分かったかと......

もうちょっとしたらしっかりとその時の真実に触れる予定です。

そして、紗結と翔が顔を合わせましたが......どうなることやら......

 ......それは作者にも分かりません......えっ?


次こそは来週の日曜日にアップを!

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