表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と彼女と夢物語  作者: 伝説の自宅警備員
第二章―変わりゆく何か―
31/32

第七話―大切な友、大切な人―

すみません、遅くなりました。

始めの「――」の部分は一人称になっています。

(あぁ......この夢は......)



 ――手を引かれ、連れ去られそうになっている少女の元へと駆け寄り、気がついたらその手を引いていたおっさんにタックルをしていた。


 だが、やはりそこは大人と子供。体格がまるで違う者同士だ。

 いくら走って勢いのあるタックルだとしても、子供の体重などたかがしれている。


 当然、おっさんは吹っ飛ばされる事もなく、ただ軽くよろけた程度で済んでいた。


 しかし、ここで幸運なことに、おっさんは突然の衝撃だったからか、思わずその手を離していた。


 俺は普段、運動神経や反射神経が良い訳でも、勘が良い訳でもない。だが、タックルした衝撃で頭がクラクラする中、それ幸いにと少女の元へと駆け寄ると、その手を握り、走り出していた。



 必死に走る。ひたすら走り続ける。

 何故自分がこのような行動をしたのかも分からずに走る。


 ただ......あの瞳に引き寄せられるかのように......身体は勝手に動いていた。

 本能で感じた。


 ″助けたい″


 その想いが、弱気であがり症な自分を動かしたのだろう。



 だが、やはり運動神経が皆無であり、相手がどんな体型であろうと大人と子供である。

 少女の手を引いていたそのおっさんは直ぐ後ろ、手を伸ばしたら届くのではないかと思う程の距離まで近付いていた。



「たっ、助けてくださいっ!」



 そう叫ぶ自分がいた。

 そう必死になりふり構わず叫び声を上げる自分がいた。


 これも極限状態だから成せる技なのだろうか。


 そんな事が頭を過ぎるが、直ぐにそんな事はどうでもいいと頭をぶるぶると横に振る。


 今はとにかく明るいところへ......人のいるところへ......


 そうして辺りに視線を彷徨わせながら走り続けていると、目の前の道の先に一つ、人影のようなものが見えた。


 ......やった!


 そう思うと少女と手を握っている事も忘れ、思わず手に力が籠もる。

 そして、改めて叫ぶ。



「たっ、助けてくださーい!」



 その声を聞いたその人影は、どうやら気がついたのだろう。必死にこちらに走り寄ってきてくれていた。

 しかし、段々と近付く度に分かる、その背丈。見るに自分と同い年くらいの少年だろう。

 目の端の涙と共に希望が霞んで消えていくような気がした。 


 だがその影は、そんな俺の思いも知らず。


 ――ドンッ!!


 激しくモノとモノとがぶつかり合う音。

 そしてザザザーッとモノが地面を滑る音。


 その音に振り返るとその少年が立ち上がる姿が。


 そして、今の今まで追いかけていたおっさんが仰向けに倒れている姿がそこにあった。



 ◇◇◇



 重たい瞼を広げ、視線を彷徨わせる。

 先程まで見ていた光景が、とても生々しく、現実に見た光景だと錯覚(・・)してしまう。

 高鳴り続ける動悸を右手で抑え、軽く深呼吸をする。

 少年――雨音翔には、こんな体験に身に覚えがない。

 されど......、あまりにも現実的で、臨場感に溢れた夢であり、更にはこの夢に出てくる少年の想いがひしひしと伝わってきて、それが本当に自分自身が抱いているのではないかと錯覚するほど、その感情には共感が持てていた。


 (......まさか、本当に自分が............)


 そんな思いが脳裏を過るが、翔はふるふると頭を横に振る。それはないだろう......。その意味を込めて。


 そして、翔の頬を流れる滴。

 慌てて手で擦って涙を拭うが、されど溢れ出す涙。

 それは、この夢の少年の恐怖、そして助かったという安堵といった感情から、思わず溢れ出したものなのか。それとも、また(・・)紗結とのあの特別な夢を見ることが出来なかったからなのか......。


 翔は、ティッシュで涙を拭くとそのティッシュでそのまま鼻を一頻りかみ、重たい身体をどうにか起こして着替えを始めるのだった。




 ◇◇◇




「かっける~! おーはよ~って......おいおい、どうした? な~んか、朝から暗いんじゃないか?」



 とぼとぼと、視線を地面に落としながら登校する翔の肩に手が置かれ、その顔を心配そうに覗き込むように現れた美少年。翔の唯一の親友――長谷川亮だ。



「あぁ、亮......おはよう」



 翔は下に向けていた顔を上げ、亮の顔を確認すると、そこでやっと亮の存在に気が付いたのか、気のない返事で挨拶を返す。



「おう、おはよう......じゃなくて、どうしたんだって?」



 普通に挨拶を返され、思わずまた挨拶を返す亮だったが、そのあまりの気力の籠っていない声と表情に、亮の心配度数が跳ね上がる。



「――何かあったんならしっかり俺に言えよ?」



 翔の両肩をがしっと手で押さえ、真剣な眼差しで翔の顔を覗き込みながらそう告げる亮に、翔は視線を逸らしながら苦笑いを浮かべる。

 翔の事になるとどうしても面倒見の鬼が出てしまう亮。先日もやり過ぎてしまったと一度反省していたはずだが、亮の頭からはすっかりとその事は忘れ去られているようだ。



「......うん。実は――」



 亮の鬼気迫る勢いに勝てるわけもなく、そうして翔はぽつぽつと夢の話を亮に話し始めるのだった。



 ◇◇◇



「――お前それは......そうか、そうだったよな......それじゃあ、仕方ないか......」



 どこか哀しい表情を浮かべながら一人納得する亮。

 普段能天気に明るい亮からは全く想像の出来ないそんな姿に翔は一瞬首を傾げるも、それは自身の心境を察してくれての態度なのだろうと翔は一人納得する。

 


「なんで亮がそんな落ち込んだ態度取ってるんだよ? そうじゃなくて、もっと......ほら? 普段みたいに楽しそうにしてくれよ? ......な?」


 

 そうして翔は無理矢理に笑顔を浮かべる。

 親友と呼べる、唯一無二の存在の曇らせてしまった顔を普段の無邪気な笑顔にするために......。


 亮はそんな翔の言葉、その態度に、目の奥が熱くなるのを感じる。



(あぁ......あの翔が、大人になっちゃって......)



 そして、鼻をずずずっと吸うと、亮は翔に視線を向ける。

 その表情は亮が真剣であることを如実に語っていた。

 そして翔もしっかりと亮に視線を返す。


 見つめ合う二人。

 そんな熱い友情を結ぶ二人は、やはりどこか腐の付く女子を興奮させてしまう......そんな雰囲気を醸し出してしまうのは御愛嬌か。



「かける......実はな、お前に黙ってた事があるんだわ。それは――」



 そうして告げられた亮の言葉に、翔は落ち込んでいた気持ちは何処へ行ったのやら、すっかりとそんなことは忘れ、亮の言葉をただただ真剣な表情で聞くのだった。

 



 ◇◇◇




「おはよー!」


「やっはろ~」



 靴箱から教室のある所までの道程では、其処彼処で挨拶が交わされると何処か楽しそうに談笑し合う姿がたくさん見て取れた。

 それは、当然休み明けで二日ぶりに会ったという事もあるのだろう。しかし、他にも理由がある。


 ″学外研修″


 それがもう間近に迫っている、という理由がある。

 つい一週間前に告知された学外研修。それが行われるのがどうやら今週末であったのである。なんとまあ適当感の溢れる学校行事である。

 しかし、どうやらそんなことは生徒達には全く関係ないのだろう。今週末の学外研修が楽しみ過ぎて、何処からもその話になると、やれ何処に最初に回るだとか、やれ何処が面白いだとか......そういった話が絶えず、笑いや笑顔が溢れかえっていた。


 そんな誰もが浮かれている状況において、一際場違いな雰囲気を醸し出している人物がいる。


 ――天使の騎士様こと、鮫島雅也である。


 その表情を見た者は、誰もが息を呑んだ。

 普段からクールな雅也は、その背格好や完璧過ぎる程に整ったそのフェイスに、近寄り難い雰囲気がある。

 だが、そんな雅也を遠くから眺める......それが雅也ファンの女子達の中での楽しむやり方であり、特に喋ったりする必要はない。逆に喋ったりでもしたら興奮し過ぎて身が持たないのだろう。

 だからこそ、そんな雅也の近寄り難い雰囲気はファンの女子達にとってはどっちでもいい事だった。

 だが、今日はその雰囲気に更に磨きが掛かっている......というよりも、凶悪なものにでもなっているというか。

 その切り長な眼差しは更に細く、眉間には幾線もの筋が入っており、完全に不機嫌な様子が見て取れたのだ。

 そんな雅也の表情を見たファン達は、普段以上にワイルド過ぎるその表情に、どうやらヤられてしまう者達が後を絶たなかった。

 皆、雅也をその目に収めると、ドキッと一瞬心臓を鷲掴みされたかのような感覚に陥り、その後其処彼処から「ハァ......」と感嘆の吐息が漏れ出るのだった。


 そんな周りの視線を気にもせず、相変わらずの不機嫌な様子で雅也は歩いていた。

 だが、周りから聞こえてくる学外研修がどうとかの楽しそうな会話を聞く度に、何故か苛々が増していくような感覚を覚えていた。


 そもそも、何故雅也はこんなにも苛々しているのか。

 それは、当然昨日の事が原因である。


 昨日雅也は紗結にやっとのことで想いを告げようとしていた。自分が課していた枷を解き放って。


 だがしかし、結局それは告げられないままに終わった。

 それはそうだろう。紗結からの話を聞いた後に、そんなことを言える筈がない。

 雅也が何より大事なのは、紗結だ。紗結の浮かべる無邪気な笑顔だ。

 それが曇った状態のまま、想いを告げる......。

 もし、そこで成就したとしても素直に喜べないだろう。大切な人が悲しんでいる時に、自分だけが幸福になる。

 それは本当の幸せではない。大切な人と楽しいことも、時には辛いことも共有し合って、そして初めてそこに本当の幸せがある......そう思ったからだ。だからこそ、雅也は想いを告げずに終わったのだった。



 だがしかし、そう頭で割り切ったものの、『じゃあ紗結が元気になるまで待とう』なんて気ままに待てる程、雅也は気の長い性格ではない。

 どうしても、早く翔の事なんて忘れてほしい。早く自分の事を見てほしい。そういった気持ちが沸々と湧き上がってくる。



「――ねぇ、まーくん。学外研修楽しみだねー」



 だというのに、当の本人はこれである。

 雅也の気持ちなんて露知らず、周りから聞こえてきた学外研修について実に楽しそうに紗結は雅也に話し掛けていたのだ。

 それが、紗結の心からの声であれば雅也もそこまで苛つきはしなかっただろう。

 一見、他の人から見れば本当に楽しそうな表情。

 されど、長年一緒にいた幼なじみの雅也だから分かる、それはどう見ても無理に浮かべている、そんな笑顔だったのだから。



「あぁ、そうだな」



 しかし、雅也はそこを付くことは終始なかった。それは紗結を気遣っての行動でもあった......のだが、それよりも、そこを付いてしまったら最後、自信の心の中で渦巻いている感情を紗結にぶつけてしまう......そんな恐れがあったからこそでもあった。



「じゃあまたね、まーくん」


「......あぁ、また後でな」


 そうして、無理矢理浮かべた笑顔を浮かべながら去りゆく紗結の後ろ姿を雅也は複雑な表情で見送るのだった。

さて、亮は翔に何を告げたのでしょうか。

そして、翔と紗結が再び学校で会うことになるのだが......

次は日曜日か月曜日には上げる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ