一話―それは新たな何か―
二章開始です。
久しぶりの投稿ですみません。リアル多忙と既存&新小説作成により全然進められていませんでした。これからは週一更新の予定です。
(白い......壁? いや、天井か......。にしても......なんだかなぁ......)
胸に何か引っ掛かかりを覚えながら、翔は目を覚ました。
別段普段と変わらないはずの白い天井が、今朝は何故だかその白さに陰りが見える。それはまるで自分の心を映し出しているかのように。
昨夜の夢ではいつもの夢を見る事ができた。それはよかったのだが、翔はどうやら紗結を傷付けてしまったらしい......その事を思うと胸がチクチクし、焦りや不安といった感情が翔を覆い包む。
翔はそんな想いは忘れようと頭をぶるぶると横に振ると、気持ちを切り替えるためにベッドから飛び起き、朝食を食べに一階に向かうのだった。
◇◇◇
「あら、今日お休みなのに早いじゃない」
翔がリビングに顔を出すと、そこには驚いた表情で翔を迎える母の裕子の姿があった。
「あぁ......うん、なんか目が覚めた。お腹空いたからご飯ちょうだい」
「珍しい事もあるのね。顔でも洗ってちょっと待ってなさい。直ぐ用意するから」
歯切れの悪い翔の返事に昨日とだいぶ雰囲気が違うと勘のいい裕子は気付いて首を傾げるも、ご飯を食べれば戻るでしょうと暢気に考え、朝食の支度をするのだった。
「なんだい、まだ元気がないじゃない。何かあったのかい?」
「いや......何でもないよ」
ご飯を食べても尚、相変わらずどこか心此処に在らずな翔の様子に、心配そうに尋ねる裕子。
しかし、翔はそんな裕子の言葉に何でもないと首を横に振るだけだった。
「はぁ......そうかい。何かあるんだったら言うんだよ?」
「......うん」
そんな翔の態度に煮え切らない気持ちを抱えながらも、裕子は溜息を吐くとそう言葉を返し、翔もただ頷くだけだった。
◇◇◇
翔は朝食を食べ終わると何するわけでもないのだが、心配してくれる母親の傍に居辛かったのか、近くの公園へと来ていた。
そこは、忌々しい思い出の場所でもあり、天使の騎士様こと鮫島雅也と偶然出逢った場所でもあった。
(高校生にもなって自分は公園で何をしているのだろうか......)
そんな想いが胸中を巡るも、翔はブランコを漕いでいた。
思い出すは昨夜の光景。紗結のいつにも増して子供のように天真爛漫に喜びを表現していた表情や声、仕草......。そこから一転して哀しげな表情......。そして、遂には泣かせてしまっていた......。
その表情を思い出す度、翔は勢いよくブランコを漕いでいた。
忘れたい......忘れたい......、そんな気持ちを体現するかのように。
そうして暫く、翔が夢中になってブランコを漕いでいると、何時しか翔よりだいぶ幼い子供達がたくさん近くに集まってきていた。
知らぬ間に激しさを増していたブランコの勢いに、子供達は一様に「すごーい!」「お、俺もやってやるー!」と尊敬の眼差しと対抗心剥き出しな視線を翔へと送っていた。
そんな子供達の視線が恥ずかしく、注目され慣れてない翔は早くこの場から立ち去ろうとブランコの勢いをだんだんと緩め、やっとの事で勢いの止まったブランコから降りると、子供達の好奇の眼差しから逃れようとそそくさと公園から出て行こうとしたその時だった。
「あんた......何やってるの?」
ここ数日、だいぶ聞き慣れていたそんな声に、翔はもしや......と声がした方に視線を向けると、そこにはやはり、翔の予想通りの人――桐崎楓が佇んでいた。
少し暑くなり始めた気温なんてどこ吹く風とでもいうように、相変わらず涼しい顔で佇む楓。白いブラウスに青いジーンズ、恰好までもが涼しい印象を与え、そのすらっとした体躯から本当にモデルのような人だなと感じながら、翔は冷や汗を流していた。
ここ数日でそのどこか冷たい眼差しに慣れ始めたと思っていたが、昨夜最後に向けられた絶対零度的眼差し......、その眼差しを思い出すと自然と体は寒くもないのに震えだし、彼女の顔を見ることが出来ず、自然と視線は下にいっていた。
すると、彼女の服を掴みながら後ろに隠れてこちらを覗く、少女と目が合った。
まさかそんなところに少女がいるなんて思わず、目を見開くと翔は視線を外し、少女も楓の後ろへと隠れる。
「......」
「......」
返事の言葉が返せない翔と、そんな翔を冷めた視線で見つめる楓。二人の間に沈黙が訪れる。
そんな二人なんてお構いなく、楓の後ろから顔を出しては隠れ、また顔を出しては隠れを繰り返す少女。そんな少女の行動にしびれが切れたのか、楓は「はぁ」と一息吐くと、少女の手を取って翔の下まで近づき始めた。
翔は昨夜の事で何かされるかもと内心で怯え、目をぎゅっと瞑っていると、楓は再び溜息を吐きながら言葉を紡ぎ始めた。
「まぁ、あんたがどこにいたって私には関係ない事だよね。ちなみにこの子は私の妹。蓮ちゃん、ほら、挨拶しな」
そう言って楓は後ろに隠れようとしていた少女を無理やり前に追いやる。
「い......いい......いや......」
楓にがしっと抱き着き、少女は首を大きく振っていた。
そんなに嫌なのだろうかと翔が軽く落ち込みつつも、しかしそんな恥ずかしがり屋な彼女が自分と少し重なり、また可愛らしくも思え、翔は自然と今まであった緊張が抜け、顔から笑みが零れていた。
「......へぇ......」
そんなふとした表情を楓はしっかりと視界に捉えていたらしく、翔でもそんな表情が出来るんだなと初めて見る翔のそんな表情に感嘆の溜息を漏らす。
そんな視線を向けられている事に気が付いた翔は、自分の綻んだ顔が見られてしまったと恥ずかしくなり、顔を俯かせる。
その様子を楓に抱き着きながら眺めていた少女は、翔が俯いた事で勇気が出たのか、はたまたそんな態度が自分と似ているのかもと子供ながら思ったのか、少女は楓に抱きつきながらも意を決する。
「き......桐崎、蓮華......でしゅ」
翔の顔を見ないように顔を俯かせ、か細いながらも必死に自己紹介が出来た少女こと蓮華。楓はそんな蓮華によく出来たと蓮華の目線と一緒になるようにしゃがみ込むと、優しく頭を撫でてあげるのだった。
蓮華も最後は噛んでしまったけどしっかり挨拶が出来た、そして大好きなお姉ちゃんに良い子良い子してもらえて相当嬉しかったのだろう、歯をキラキラと子供らしい満面の良い笑顔を浮かべていた。
そんな姉妹二人の和やかな雰囲気に、翔も再び自然と微笑みが浮かんでいた。
「......いやいや、雨音。あんたも挨拶しなさいよ」
暫く二人の仲睦まじい遣り取りを見ていた翔だったが、突然楓が何か思い出したかのように翔の方を振り向くと、呆れた表情をしながら言葉を投げ掛けていた。
翔は突然向けられた視線に思わずドキリとして視線を外したが、次いで投げ掛けられたその言葉にその意味を探す。
(あいさつ......アイサツ......挨拶?
あぁ、そうか。蓮華ちゃん......だったっけ? あんな小さい子に挨拶されて自分は何も返さない......ありえないな。
にしても、緊張して言葉が上手く出なさそうだな......)
翔は内心で挨拶の言葉を探し、そして、まだ五歳くらいの少女である蓮華を思い切って見やる。どこか心配げにこちらを見つめるそんな少女に、自分はこんな幼い少女に何をそこまで緊張しているのだと呆れた気持ちが湧き始め、翔は気が付いたら楓のように腰を曲げると、少女の目線の高さになるようにし、微笑みを浮かべていた。
「えーっと、雨音翔って言います。お姉さんとは同じ学校なんだ。よろしくね」
翔は自分自身の行動、そして口から出た言葉に、驚きを隠せずにいた。
今まで初対面の人に上手に挨拶を出来た事もないというのに、今、自分はしっかりと相手の目を見て、そして声が上ずることも、ましてや微笑みを浮かべるという完璧過ぎる挨拶が出来たのだ。
こんな事は初めてだった。そんな自分自身に戸惑いつつ、困惑の表情を浮かべていると、翔はいきなり頭の上に温もりを感じた。
(......ん? 何だ?)
翔がその温もりに疑問符を浮かべて視線を上げるのと、楓が慌てて視線を逸らして手を退けるのは同時だった。
翔が何だったんだと首を傾げていると不意に服の裾が引っ張られた。
再び何だろうと翔がそちらに視線を移すと、そこには満面な笑顔を浮かべる少女――蓮華が居た。
「うん、お兄ちゃんよろしくね」
(て......天使だ......)
向けられた無垢な笑顔に天使を思い浮かべ、翔は先程頭の上にあった温もりなど頭からすっかり消え去り、楓がしたように自然と蓮華を撫でていた。
更に笑顔を深くする蓮華に癒されながら、再び自分がした行動に翔は困惑しつつもその可愛さに自然と微笑みが深くなり、そんな見たことのない二人の姿に楓は先程自分がやってしまった行為への気恥ずかしさと、翔の笑顔を見た時の今まで感じたことのない何とも言えない恥ずかしさから、普段の涼しい表情とは打って変わって顔を朱色に染め、そんな二人の様子をどこか熱の籠った視線で窺うのだった。
翔は成長したのか、それとも単に幼女萌えなのか......
それに、楓さんはいったい......?
二話は続きな感じなんで早い段階で書けたらと思っています。




