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彼と彼女と夢物語  作者: 伝説の自宅警備員
第一章―夢物語のはじまり―
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二十一話―計画実行―

「――ってな訳だ。わかったろ? 唯の夢じゃなかったって?」



 話された内容に驚きで理解が追いつかないのか、ぽかんと口を開けながら呆けた表情を浮かべている亮。

 翔は今まで煮え湯を飲まされていただけに、そんな亮のイケメンフェイスが崩れたのを見れて、してやったりといった表情を浮かべていた。



「......いやいや、そんな話があるわけないだろ! そんなの......まるでファンタジーじゃねぇか!?」



 唖然とした表情をしながらも、とりあえず話の内容を吟味し、それでもやはりそんな非現実的な内容にうんうんと納得する事なんて出来ず、亮は反論を返していたのだった。




 時はお昼休み。

 例の如く、翔と亮の二人の姿は、翔が発見した別館校舎裏の廃置き場にあった。



 一時限目の出来事以降、翔はまた淳史に絡まれるのではないかとびくびくとしていたのだが、その予想は良い方向に外れ、翔はお昼時まで一度も絡まれることは無かった。


 その代りなのかなんなのか、隣から熱い視線を幾度となく感じていたのだが。

 翔はそんな感じたこともない好意的な熱い視線に戸惑いつつも、淳史にも絡まれないという事実と紗結と夢を共有していた事実に一時の幸せを感じていた。



 お昼時まで、翔は熱い視線を注がれてはいたような気がしていたが、紗結からは一度も話し掛けてくることは無かった。

 唯々眺めているだけ......そんな感じなのかな? と翔は感じていた。



 そして昼休みを迎え、夢の話とそれの証明である朝の出来事云々を亮にありのまま話し、今に至るのである。





「ふふーん、亮......残念ながらこれは紛れもない事実なのである。疑うのならば綾瀬さんか桐崎さんに聞くんだな」



 得意げな表情で胸を反らし、亮を見据えながら告げてきた言葉に亮はいらっ、としながらも、質問を返す。



「桐崎さんて......綾瀬さんと同じ中学だった子だっけ?」


「う......うん、確かそうだった......かな?」



 翔のそんな自身なさげな応えに、好きな子の事なんだからもっと知っとけよと呆れ顔を浮かべる亮。



「んー......まぁ一々俺が彼女達に確認するのもどうかと思うし......信じらんないけど......信じるしかないか。とりあえずさっさと飯を食っちゃおうぜ!」



 翔の表情に嘘を付いている様子が見受けられず、心中ではそんなファンタジーな出来事なんてあってたまるか、とは思いもしたが、お腹からぐ~という音が鳴り始めたので一応の納得をし、話の内容に夢中で止まっていた箸を亮は動かし始めた。


 そんな亮の心中に気付いていないのか、翔は満足といった表情を浮かべ、翔も再び箸を動かすと、今まで亮に聞いてもらえなかった夢の詳しい内容を聞かせるのだった。




 ◇◇◇




 翔は無事、何事もなく帰りのHRを迎えていた。

 今日は今朝から目まぐるしい程出来事が過ぎて行ったために翔はすっかりと忘れていたのだが、今日は学外授業の班分けを決めることになっている。

 そのことを思い出し、クラスに一人も友達のいない翔は、大体の人と一緒になってもさほど変わりようはない。されど、今は鳴りを潜めている淳史だが、いつまた自分にちょっかいを出してくるかはわからない。



(はぁ......、そりあえず堂島達綾瀬さんの取り巻きグループとは一緒にならないでくれー!

 そして......綾瀬さんと一緒の班にしてくれー!!)



 翔は必死に祈りながら、くじ引きが始まるのを不安と期待の表情を浮かべながら待っていると、一通り連絡事項を言い終えたのか、蛍先生が真面目な表情から一転、にやついた表情を浮かべ、くじ引きの話に触れる。



「――ではみんな、待ちに待ったくじ引きの時間よ~。誰となっても文句なし、変更なしだからよろしくね~」



 妖しく微笑む蛍先生に、くじ引きを待っていた生徒達の熱気が上がる。



「遂にこの時が来たかっ!」


「蛍ちゃーん、早くしてー!」


「俺から! 俺からにしてくれっ!!」


「お願いだから松下以外の班でよろしく!」


「おいおいどうゆうことだよ隆二(りゅうじ)ー!?」



 きゃっきゃ、ワイワイと其処彼処(そこかしこ)からテンションの上がった声が上がり、また、近くの友達同士で一緒の班になれたらいいねと微笑み合う姿が見られる。

 しかし、その声の中には普段ならば真っ先に騒ぎ出すであろう人物、淳史の声は聞こえなかった......。



「じゃあ......今回は出席番号の遅い人から開始しましょうか」



 蛍先生の放った言葉に出席番号の早い者達は一様に肩を落とし、逆にいつも日の目を見ない出席番号の遅い者達からは「ひゃっふー」と歓声が上がる。


 そして......二人の人物が視線を交わし、悪い笑みを浮かべ合ってたことにはクラス中、誰もが気付かなかった。




 ◇◇◇




 出席番号の遅い方からということで、廊下側後ろ席の方から順にくじ引きは行われていった。

 班分けは男子二人女子二人の四人グループで、クラスには三十六人の生徒がいるため九グループ出来ることになる。


 くじは男女で分けられたボックスに、一から九までの番号が二枚ずつ入っており、同じ番号の者同士がグループになるという至って単純な説明を蛍先生がしていた。



 次々と引かれていくくじ。其処彼処で阿鼻叫喚な声が漏れ出る中、翔の鼓動は次第に早くなっていた。


 現在残っている人数は男女共に六名ずつ。ちょうど窓際列の番になったところだ。


 今までの結果、男子の残っている数字は一番、三番、四番、七番の四種類。三番と七番がまだ引かれていないため、実質六枚のくじが残っている。

 そして、翔の懸念事項だった淳史の番号は四番で未だにもう一枠が残っている数字だ。

 早く誰か引いてくれと翔が願いを込めていると、その願いが届いたのか直ぐに四番が引かれていった。



「――じゃあ次は桐崎さんね」



 女子列では紗結の親友で翔と夢を共有した楓の番になっていた。

 楓は蛍先生に呼ばれると、綺麗な黒髪を靡かせながら颯爽と歩き、そして蛍先生の目の前まで歩み寄った。

 そして、周りには聞こえない二人だけのやり取りを済ますと楓は若干口角を上げていた。



「はい。桐崎さんは......七番ね」



 蛍先生は紙に書かれた数字を読み上げ、黒板に書かれている七番班のところに『桐崎』と記入していた。



(......そういえば七番だけ(・・)がまだ他に決まってなかったな)



 翔が思った通り、七番のみが未だに男女共にくじが引かれてなく、楓の番で初めて引かれたのだった。翔はふと、そんな事に気付きはしたが、まぁ偶々だろうと直ぐに頭の片隅に追いやり、もう直ぐ自分の番だ、と高鳴る鼓動を手で押さえつけ、蛍先生の進行を待った。



「――次は......って、あらら? もう男の子は番号が決まっちゃいましたね」



 少し白々しい言い方だったかもと蛍先生は周りの生徒達の挙動を確認したが、どうやら杞憂だったらしく、生徒達は誰ひとりとして蛍先生の言い方を気にしている様子はなかった。

 くじ引きが終わった生徒達は、班が一緒になった者同士で喜んだり、ランドに行ってからの事を想像しながら談笑したりと、盛り上がっている。

 一方、まだ班が確定してないクラスの男子生徒達は、紗結がもうすぐくじを引く番だということもあってか、狙った獲物を逃さないとでもいうかのようにギラギラとした瞳で紗結を見据えている。

 逆に、既に女子が確定してしまった班の男子達は、もう紗結と一緒の班になれないことが確定しているためか、皆一様に頭を机に伏していた。

 そのため、蛍先生の話は話半分で聞き流されていたのだった。



 そして、蛍先生のその言葉通り、到頭翔の番号が決まる(・・・)順番となった。

 そう......、決める(・・・)ではなく決まる(・・・)だ。


 次に引く順番だったのは翔だった......のだが、その前の人物が引いた時には番号は決定されていたのだ。

 残る番号は二つのみ。翔は男子の出席番号順の中で二番目なので、翔が引かないことには番号が決まるはずがなかったのだが、偶然か必然か、はたまた作為的にか......奇跡的にも残った数字は七番が二つだったのだ。


 そのため自然と翔と、翔のその前の席の者とが七番の班に決定したのだった。


 翔の隣の席が紗結ということで、始業式以降クラスの男子達からは羨望や嫉妬により、翔はよく思われていなかったのだが、ペアとなった前の席の人物――青木(あおき)信二(しんじ)は、クラス内で翔へと敵意を向けない数少ない人物......というよりも、翔の所為もあってか未だクラス内に友達がいない数少ない人物の一人だ。


 何故翔の所為もあるのか......それは、普通友達になるのは席が近い者同士でだいたい交流が始まり、次第に友達になっていくというのが自然な流れだ。

 しかし、信二の席は窓側最前列。前の席には誰も居らず、横は女子。そして、後ろにいるのは不幸なことに翔だ。

 この状況では、彼は隣の女子――相川梓と仲良くするしかないのだが、それ自体も梓は紗結とばかりおしゃべりをしていて、そこに割って入っていくことには無理があったのだ。


 そうして、信二は結果的に翔同様未だに友達が一人もいない人物のひとりになってしまったのだった。

 まぁ、友達が出来ていない理由はそれだけではないのだが......。



 閑話休題。

 翔が決まった七番の班。ということは、女子の一人は夢を共有した楓である。そして、男は友達が居なくて翔に敵意を向けない信二。

 なんともまぁ自分に都合のいい班分けが成立していると、翔のテンションは鰻登(うなぎのぼ)りに上がりまくっていた。



「――じゃあ、男子は終わりで残りは女子だけだね。」



 蛍先生の言葉でクラスの男子達の視線が集まる。

 次に引くのは、女子の出席番号順で三番目、紗結の取り巻きの一人の一之瀬(いちのせ)胡桃(くるみ)だ。

 紗結の人気と比べてしまえば天と地......程まではいかないが、それでも比べてしまうとその人気の比率は圧倒的である。

 しかしながら、胡桃は小柄で幼可愛い、ザ・女の子って感じの女の子である。

 ロリータしか俺は認めないからと豪語する松下以外からも、ロリコン男子からは紗結より人気があるのだ。

 そして、胡桃の番号が決まるという事は、残りの女子の番号二番、七番、八番の内、紗結が引く番号の残り枠が二つに絞られるということになる。


 注目しないわけがない。


 とは言っても、既にほとんどの男子達は女子が決まってしまっている。

 では、何故そこまで注目するのか......


 それは当然、紗結と同じ班になるであろう羨ましい人物を糾弾(きゅうだん)するためだ。


 

「う~ん、どれにしようかなぁ......よし! これにする!」



 作っているのか作っていないのか......可愛らしく独り言を言いながら頭を横に振りつつ胡桃は悩ましい表情をし、そして、一枚のくじを引いた。

 辺りが異様に静まり返る。



「えーっと......一之瀬さんの班は......八番だね」


「うおおおおーーー!!」



 蛍先生のその声に偶々八番だった松下が歓喜の叫びを上げる。

 松下が胡桃LOVEなのは周知の事実であり、クラスの男子達は皆、松下にはお前の根性が届いたんだな、よかったなと、生暖かい眼差しを送っており、一方女子達は胡桃に憐みの視線を送っていた。


 そんな中、翔は......翔の心臓の鼓動はやばいことになっていた。

 残りのくじは二番と七番を残すのみ。

 そして、翔の班の番号は七番だ。紗結と一緒の班になれるかなれないかの可能性はもう半々だ。緊張しないわけがない。


 ドクンドクンドクンドクンッ......


 翔は激しさを増す鼓動に、この鼓動音が周りに聞こえてしまってないか気が気でならなかった。



「......それじゃあ次は、綾瀬さんだね」



 ごくんっ......。

 誰かの唾を呑みこむ音が聞こえたような気がした。それが自分の物であると喉を伝う違和感で気が付いた。

 それは翔だけが思ったことではなかった。翔同様に、二番の班の男子二名も固唾を呑んで、緊張の面持ちで進行を待っていたのだ。




(隣の席からふわっと甘い香りがする。これは今朝も嗅いだからわかる......綾瀬さんの香りだ)



 呼ばれて立ち上がった際に漂ってきた香りに、翔は顔をだらしなく緩和させていた。



 辺りに再び静寂が訪れる......。



「えーっと......はい。蛍先生これでお願いします」


「はい、どうも。さてさて、綾瀬さんは何番かしらね~......」



 翔は蛍先生から発される言葉を、実に真剣な眼差しで見つめていた。その時ふと、蛍先生の視線が自分に向いたような気がしたのは気のせいだっただろうか......

 いや、気のせいではない。

 蛍先生は紗結がクラスのマドンナ的存在であることはわかっている。わかっているからこそ焦らすように含み笑いを浮かべながら、真剣な眼差しを自身に送るクラスの男子達の顔を見渡していた。

 そのため、翔に向けていた視線は別段特別な視線ではない......はずである。



「蛍ちゃーん! 早く発表してくれーー!!」


「ほんとだよ! 早くしてくれー!」



 どうやら緊張に耐えきれなかったのか、二番の班の男子達が悲鳴を上げるかのように騒ぎ出す。



「はいはい、仕方ないですねぇ~。それでは発表しますよ?」



 緊張の一瞬......。



「綾瀬さんの班は............二番(・・)です!」


「うおおおー! まじかまじかまじか!!!」


「神様ー! 愛してるー!!」



(......えっ? 今......なんて? に......ば......ん......? ここまできて......嘘......だろ......?)



 二番だった男子生徒二人が感激のあまり涙している中、翔は机に崩れ落ちていた。

 ここまで順調だった。まるで誰かが自分に都合のいいように操っているかのように。

 だというのに、最後の最後で翔の期待は裏切られた。

 上げて落とす......正にその表現が正しいかのように、翔は机に顔を伏せたまま蛍先生のランドでの注意点等の話を全て聞き流し、もう何も考えられない、考えたくもないといったようにHRが終わるまで顔を上げることはなかった。



 紗結が二番ということで、結果的に残りの梓が翔と同じ班になった。


 悪い顔で微笑み合う二人の姿。


 この結果は全て楓の思惑通りだったという事は、共犯者の蛍先生しか知らなかったのであった。


やっと翔は亮にファンタスティックな夢の話を信じて(?)もらえましたね。


そして予想通り? 紗結と翔は別々の班になりました。


そういえば松下くんと隆二くんは中学からの友達で、隆二くんは決して松下くんを嫌ってません。あくまでも松下くんはクラスの弄られキャラです。


そして、次で一章終わりにします。

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