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彼と彼女と夢物語  作者: 伝説の自宅警備員
第一章―夢物語のはじまり―
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十六話―その表情の意味指すものとは―

(......なん......ですか......? この......状況は......? 誰か......説明......お願いします......)



 困惑する翔を尻目に、翔を巡って(?)睨みを利かせあう二人の人物。



「いや~桐崎さん。こいつとは先に自分がお話あるんで......その手を放してくれないかな?」


「あぁ......ごめん。こっちも急用な話だもんで......そっちの話は後にしてもらってもいいかなぁ?」



 表面上は、お互いにこやかに語らっており、とても和やかな雰囲気である。

 しかし、その二人に挟まれる形でいる翔には、それが偽りであることは直ぐに理解出来た。二人に掴まれているその腕から、びんびんと伝わる段々と強くなる握り具合。お互いがお互いを牽制し、譲らない気持ちがその腕を通して伝わってくるのがわかる。更にはその両の眼の奥にある揺るがない瞳。

 どうやら二人からは逃げられないことを翔は理解させられたのだった。


 そんな緊迫した状況に、我関せずといったように一言。



「あの~......二人ともごめんね。先に私が雨音くんとお話があるんだけど......?」



 辺りに流れ出していた緊迫した空気を一切読まず、その放たれた一言に三人が三人共固まってしまっていた。

 その声の主――綾瀬紗結は、耳を赤く染めながらその顔を隠すかのように少し俯かせ、上目遣いの状態でそんな三人の事を見つめていた。

 その潤んだ瞳に吸い込まれるかのように、淳史はもちろん、同性の楓までもが見惚れ、呆けてしまっていた。

 そして、呆けていたことで二人は無意識に掴んでいる腕を離し、自然と翔の両腕が解き放たれる。

 翔は念願の解放を手に入れたのだったが、二人同様、自分に向けられる紗結のその瞳に心奪われ、そのあまりの可愛さに翔も固まってしまっていた。

 そんな三人の隙を突くかのように、紗結は赤くした顔のまま、翔の手を取るとそのまま廊下へと連れ去ったのだった。

 

 楓はその後ろ姿にはっ、と意識を取戻し、紗結に見惚れてしまっていた自分を忘れるかのように首をぶるぶると横に振り、二人の後を追う。

 

 一方、先程まで頑なに翔の腕を握り締めていたはずの淳史はというと、紗結の自分へと向けられたその潤んだ瞳と、紗結が翔の手を掴んで連れ出すという理解しがたいこの状況......どうやら淳史の理解の範疇を越えてしまったのか、口をぽかんと開けたまま、唯々その後ろ姿を眺め続けるしか出来なかったのだった。




 ◇◇◇





(いったい......何処まで行くんだろう......? いや......それよりも......さっきから......綾瀬さんの......匂いが......手が......手がぁーー............)



 前を走る紗結の後ろ姿を、引っ張られる形で眺めていた翔。

 必死に頭を逸らそうと頑張っていた翔だったが、前から香る紗結の香りから意識を逸らすことなんて出来ず、そして、先程からずっと握られる手......

 その手から伝わる温もり......紗結から伝わってくる初めての温もり......

 その紗結の肌で感じる温もりに、翔は昇天してしまいそうな恍惚の表情を浮かべていた。

 もし紗結が振り返っていたら確実にその手を離し、悲鳴を上げていたことは間違いないだろう。それほど酷い表情を翔は浮かべていたのだった。


 何処か夢見心地の状態で走っていた翔だったが、突如としてその手は振り解かれた。

 翔が思わず「あっ......」と、声を漏らし、手で口を塞ぐと、前を見ていた紗結が髪を靡かせながら翔へと振り返る。

 風に舞う紗結の香りに、先程の情景、温もりが蘇り、再び昇天してしまいそうな幸福感を必死に抑え込む翔。

 その間に後ろの方からばたばたと、誰かが走ってくるような音が翔の耳に聞こえてきた。

 紗結大好きな淳史が溜まらず追い駆けてきたのだろう......そう思うと、これから自分の身に起こるであろう事を考え、恐る恐る振り返る翔。

 何か言い訳でも考えなければいけないかと逡巡した翔だったが、その悩みは杞憂(きゆう)に終わる。



「もう~紗結ったらぁ......これでまた雨音くんが孤立しちゃうじゃないの?」


「う......うん......ごめん......。でも......我慢できなかったの......」



 振り返った翔の目の前には呆れた表情で親友の紗結を(たしな)める、桐崎楓の姿がそこにあった。

 そして、その楓へとすまなそうな表情を浮かべる紗結。

 翔は紗結のその表情には気付かず、放たれた言葉の意味が理解出来なかったのか、頭の中でその言葉を何回も復唱してみる。しかし、やはりその言葉の意味が理解出来なかった。

 そして、翔はそのまま困惑とした表情を楓へと向けていた。

 その視線に楓も気付いた。

 そして、次の授業まで時間もあまりない事を考え、楓は単刀直入に翔へと問い掛ける。



「雨音くん......君......昨日どんな夢見たか......覚えてる......?」




 ◇◇◇




 楓は、学校に着くと紗結が登校してくるのを待っていた。

 そして、いざ紗結が姿を現すと、楓は紗結へと外で話そうと真剣な顔で促し、クラスの紗結を窺う連中を尻目に隣の空き教室へと連れ去ったのだった。



「紗結......私が聞きたいこと......わかるよね?」



 教室へ入るや否や、楓は真剣な表情で紗結へと問い掛けていた。

 その言葉に紗結はごくっ、と唾を呑み込み、息を大きく吸い込むと意を決したような表情で楓の瞳を見つめ返す。



「......うん、わかるよ......。......夢の話でしょ?」



 そして、その一言であの夢が唯の夢でなく、紗結と共有し、体験した夢であると楓は理解させられた。

 頭をまるで鈍器で殴られたかのように楓はふら付き、近くにあった机へと自身の体重を預けるように片手を付く。

 そして、もう片方の手で額を覆い、そのまさかの事実に空を仰ぐのだった。

 

 しかし、こうやって現実に目を逸らしていても仕方がないと、楓は立ち直る。

 

 それから楓は、紗結に夢の話に対する質問を尋ね続け、どうやら紗結も話を切り出せた事で緊張の糸が解けたのか、今まで強張っていた表情は柔らかくなり、肩の荷が下りたのか、夢の話を自分がわかる範囲でありのまま全て楓へと伝え、そうして二人で話に夢中になっていると、気付いたらHRの合図を知らせるチャイムの鐘の音が鳴っていたのだった。




 ◇◇◇




 そのため、楓と紗結の中では昨日の夢の事は既に共有している。

 そして......だからこそ、昨日夢の中にいたもう一人の人物――雨音翔に、同じ体験をしたのかと単刀直入に尋ねたのだった。



(ゆめ......ユメ.......夢......。あぁ......これで......この一言で鈍感な俺でも理解出来たよ。あの夢はやっぱり......俺の願望が作り出した夢ではなかったんだなぁ............)



 楓の言い放った言葉で、翔は理解した。どうやらあの夢は、自分だけが体験していた夢ではなかったという事を......


 そして、翔は不意に視線を紗結の方へと向ける。

 紗結の今浮かべているその表情は実に真剣な表情だった。

 これから翔が話し出す言葉を一言一句聞き逃さないという意思が表されているかのように。


 翔は口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。

 緊張し過ぎているのか、口内が渇ききって言葉が出てこない。

 その様子を窺っていた楓は、じれったいとでもいうかのように、貧乏揺すりを始めていた。


 翔は必死に言葉を紡ごうとしていた。

 言う言葉は単純だ。いつもの教室にいる夢だ。そこに紗結と楓が現実味のある姿で居たという事を告げればいいだけだ。それだけだというのに......やはり言葉が出てこない。

 

 もちろん、学年で一、二を争う美人な二人に見つめられ、言い寄られている状況だ。翔でなくても緊張してしまうのは当然の事だろう。

 

 しかし、唯それだけではない。

 その一言で、真実が確定してしまう。

 自分の一言で、今までの夢幻が真実へと変わってしまう。

 翔はそう思うと、やはり言葉が紡ぎ出せなかった......



「あぁー、もう! じれったい! どうなのよ? 昨日夢で私達を見たの? 話したの? どうなのよ?」


「かっ......楓ちゃん......。落ち着いて............」



 翔のあまりの勿体付け様に到頭しびれを切らしたのか、楓がその夢の核心的な部分を表す言葉を言い放つ。その捲し立てる言い様に、紗結は楓を宥めながらも、翔から放たれる言葉を一言一句聞き逃すまいと、視線は翔へと固定していたままだった。


 翔は、再度楓から問われた核心的な言葉にこれで決まったと、先程までずっと張りつめていた緊張の糸が解けたのを感じ取った。

 

 そして、翔はその言葉に、無言で頷いく。

 

 その様子を受け取った楓は一瞬驚愕の表情を浮かべるも、予想の範疇であったためか直ぐにその表情をしたり顔へと切り替える。

 

 一方で紗結はというと、翔の肯定の意味を表す仕草に、思わずといった感じに口元を両の手で覆い、その眼からは涙が溢れ出していた。


 そんな紗結の突拍子のない姿に、翔は自分が何かまずい事でもしてしまったのかと焦り出す。

 もし、自分の所為で彼女を傷付け、涙を流させてしまったのならば......

 翔は焦り......顔を歪ませ......悔しそうな表情を浮かべながら紗結を見やる。

 紗結は翔のその考えていることがわかったのか、涙を流しながらも必死に首を横に振って、否定の意味を表していた。


 そして、紗結は鼻を啜りながら、必死に声を漏らす。



「じゃあっ......っ......やっぱりっ......っ......雨音くんがっ......あの時の子......なんだ......っ......ね?」



 涙によって目を充血させ、言葉を詰まらせながらも、どこか嬉しそうな表情で翔へと言葉を紡ぐ紗結。


 翔はその言葉を受け......



「......えっ............?」



 その言葉の意味......嬉しそうなその表情の意味......


 翔にはその意味する事が全く理解出来ず、思わず呆けた顔をしながらそんな間抜けな声を漏らしていたのだった。


到頭夢の話を触れてしまいましたね。

けれど、紗結の言葉......表情の意味とは......?

次回紗結の過去へとなります。

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