表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と彼女と夢物語  作者: 伝説の自宅警備員
第一章―夢物語のはじまり―
17/32

十五話―堂島少年の天敵―

視点が何回か変わります。

『ピピピピピピピピーーーーー』


「ん゛......あ゛―うるさいなぁ............んっ!?」


 両の鼓膜を激しく揺さぶる騒音に、悪態を吐きながら目覚め出す少女。

 そして、自分がベッドで横になっている事を確認するや否や慌てて飛び起き、周りをきょろきょろと視界に収める。

 視界に映るのは、長年日々を共に過ごしてきた自身の部屋。

 その風景を視界に収めても尚、現状が理解できていないのか、普段の冷静沈着な彼女ではありえない程困惑していた。

 頭を回転させること数分。

 とりあえず、あの夢(・・・)の内容が確かであるのならば、その夢で見たあの人物は何か知っているはずであり、二人の中ならば必ず説明してくれるはずだ。 もし仮に唯の夢(・・・)であり、その人物に聞いてもわからないならばそれならそれでいいだろう......いや、普通に考えて、そんな非現実的な体験の方がありえないのだから、何も知らない方が普通だろう......

 しかし......それでも......彼女には、それを唯の夢(・・・)の一言で片づけられるのは(はばか)られた。

 それだけ、その夢で見た人物は普段からよく知る人物そのままでリアル過ぎたのだ。


 彼女はベッドに座り込んだまま何とも言えない表情を浮かべ、色々な思いを抱きつつ、メールを送信していた。


『おはよう紗結。突然だけど昨日......夢見た?』


 そして返ってきた答えは......


『うん......。そのことで今日の朝......お話ししよ?』




 ◇◇◇




 チャイムの鐘の音と共に無意識にドアを開け放してしまった翔に、クラス中の視線が集まった。

 その視線に籠められている感情は、実に多種多様。


『なーんだ、先生じゃないのかよ』

彼奴(あいつ)......いつも来んのやけに遅くね?』

『はぁ、朝からしょうもない奴の顔見ちまったな』

『本当に目障りな奴だ』


 基本的に負の感情を籠められた視線を一身に浴びた翔は、ドアを開けた状態そのままに硬直してしまう翔。

 その様子にクラスの生徒達は興味を失っては元通り友人と談笑したり、ケータイを弄ったり、読書をしたり、またあるものは翔のその滑稽さに鼻で笑ったり、嘲笑したり......


 そうして数瞬。翔が固まっていると突然、翔の肩に手が置かれたのだった。

 身体をびくんっと震わせ、恐る恐るといった様子で翔は首を後ろへと向ける。

 そこには、自分より頭一つ分程視線の低い女性が、微笑みながら佇んでいた。

 翔の担任教師――蛍先生である。

 翔はその眼鏡の奥に映る優しげな瞳に一瞬心を奪われ、即座に視線を逸らす。



「雨音くん。HR始めますから席に着いてね?」



 蛍先生は先程の微笑みをより一層深くし、そう優しく翔に声を掛けると翔の背をぽんっと押した。

 翔はその言葉に小さく頷き、何やら背と肩にじんわりと残る微かな温もりを味わいながら、そそくさと席へと着くのだった。


 そして、その時になって翔は初めて気が付く。

 隣の席には誰も座っていないのだ。つまり......紗結の姿がないということ。

 既にHRの時間だというのにだ......


 翔は訝しむような表情を浮かべ、後ろの席の方へと振り返る。しかし、やはり彼女の姿を捉えることは出来ない。


(まさか......休み? でも......それじゃあ......夢の事が聞けない......)


 紗結がいないことで夢の話が出来ないと焦り出す翔を他所に......



『ガラガラガラ......バンッ!』


「ごめんなさーい、遅くなりましたー!」


「すっ......すみません!」



 突然、後ろのドアを乱暴に引いて開けて、少し息を荒げながら長い黒髪を靡かせつつ二人の女生徒が入室したのだった。

 その二人の入室に、クラスは静まり返り、クラス中からの視線がまた、今度はその二人へと注がれる。

 しかし、今回は先程の翔の時とは違って、どの視線も愛らしいものを見る眼差しや、友人を微笑ましそうに見る眼差し、または強い欲望の眼差しといった、どれも好意的な視線がほとんどだった。



「はいはい、いいから早く席に着いてちょうだい」



 そんな二人――楓と紗結の姿に、蛍先生も呆れつつも微笑みながら席に着くように促し、楓はさーっと素早く、紗結は周りへとペコペコとお辞儀をしながら席へと着いたのだった。

 実に二人の性格が顕著に現れた行動だった。


 その際、翔はずっと紗結へと視線を送っていた。

 紗結が居たことへの安心感と、何より紗結を眺めたい一心に。

 その結果、当然紗結と視線を交わらせてしまったのは言うまでもない。

 その紗結からの視線を受けた翔は、目を逸らしてしまったが、その一瞬に見た紗結の瞳の奥から強い意志のようなものが感じ取ることが出来、やはり“あの夢は唯の夢ではない”ということを翔は自身の胸の中で確信したのだった。



 ◇◇◇



 朝のHRでは、蛍先生から学外研修の班分けの説明を翔は例の如く、机に顔を伏せながら聞いていた。

 その内容は、班は四人グループで男女二対二のペア。そして、くじ引きは帰りのHRで行う事。

 蛍先生がその内容を話している間、四人の人物が翔へと視線を送っていたことに、当の本人は顔を机に伏せ、思考を夢の事で巡らせていた為に全く気付く様子はなかったのだった。



 ◇◇◇




「あっ......」



 HRが終わると、そんな消え入りそうな声が翔の耳へと届いてきた。

 翔は顔を伏せたまま、視線だけをその声の主へと向けると、翔へと身体を向け、両の手で頬を抑え、顔の火照り具合を気にしている紗結の姿が目に映った。

 その視線がこちらを向いていることに気付いた翔は、一度深呼吸をすると身体を起こす。

 ゆっくりと......だが確実に紗結へと向き合う。

 視線を交わすことは出来ないが、度重なる夢で慣れたのか、ここまでならば翔でも出来るようになっていた。

 ただ、その手の平にはじっとりと緊張の汗が滲み出ているのだが......


 翔は再び高鳴る鼓動を抑えるために『すー、はー』と、ゆっくりと深呼吸をする。

 その深呼吸に合わせるように、徐々に視線を上へ、上へとゆっくり上昇させ、紗結の鼻先の位置まで上げるとそこで上昇を止める。

 そして、考えていた言葉を紡ごうと一息大きく吸い込んだその時。



「おい雨音......ちょっと話がある」



 翔をまるで汚物でも見るかのような冷たい眼差しで......否、瞳の奥には憎悪の籠ったメラメラと燃える熱い何かを滾らせながら、そう翔へと声を掛けていたのだった。

 その言葉に、声を掛けられた翔はもちろん、隣の紗結も声の主――堂島淳史を何が起きているのかわからない様子で、唖然とした表情で見つめていた。


 翔は何故声を掛けられたのかはわからなかったが、紗結へと声を掛けようとしたという後ろめたい気持ちがあり、また、暴行を振るわれた時の気持ちがその顔を見た瞬間に蘇り、翔は恐怖を表現するかのように顔を蒼褪めさせ、身体を小刻みに震えだしていた。


 一方、紗結も翔と淳史が仲が良いなんて話を一度も聞いたことがなく、実際に話しているところも見たことがなかった。

 紗結は訝しんだ表情で淳史を覗き見ると、一瞬だが、しかし、紗結ははっきりと見てしまった。


 淳史の浮かべる、今まで見たことのないような冷酷で残忍そうな表情を......



 ◇◇◇



 淳史は普段通り......否、いつも以上にHR中ずっと紗結の姿を後ろから眺めていた。

 何故いつも以上に眺めていたかというと、今日も普段通りの時間に登校してきた淳史は、紗結が登校してくるのを今か今かと待っていたのだった。

 そして、待ちに待った紗結が普段通りの時間に登校すると、淳史はご主人様の下へ尻尾を振りながら駆け寄る犬のように、強面の顔を綻ばせながら紗結の下へと向かおうとしていた。

 しかし、その時だった。



「紗結......外で話そう?」



 そんな声が歩み寄る淳史の耳へと届いた。

 淳史がぎぎぎぎぎっと、まるで油の切れた人形のように首をゆっくりと回し、声の発したその人物へと向けると、真剣な表情をした紗結の親友――楓の姿がそこにあった。



「う......うん......そうしようか......」



 その言葉に対し、淳史の愛する紗結は肯定の意味である言葉を紡いでいた。


 この時、淳史は紗結の親友――楓を呪った。


 いや......むしろこれは初めてのことではない。

 淳史にとって、親友である楓は日を追う毎に邪魔な存在になっていった。

 時折、今のように楓は紗結と二人きりで話すことがあった。

 その時は当然、淳史は近くに寄ることは叶わない。

 そうすると、淳史が紗結と過ごす時間が実質削られてしまう。

 その削られた僅かな時間さえ、淳史にとっては中学時代に一度も味わえなかった“大切な時間”だ。

 そのため、当然その大切な時間を奪う存在――楓は淳史にとって既に紗結を巡る“敵”となっていたのだった。


 そうして、教室から出ていく二人の姿を歯噛みしながら見送るしか淳史には出来なかったのだった。




 HRの始まる前にそんな事が繰り広げられたため、朝見られなかった分を補おうとでもしているのか、淳史はHR中いつも以上に紗結の一挙手一投足を注視していた。

 その際、時折視線を隣の席――翔へと向けていることを注視していた淳史は気付いたのだった。

 紗結の視線が翔へと向けられる度、淳史は心の底から激しい憎悪を遡らせ、翔を射殺すような目線で睨みつけていた。


 そして、HRも終わり、いつも机に伏せているか席を離れている翔が何故か紗結と向き合っていた。

 淳史はそんな翔に対し、憎悪と共に焦りを感じていた。

 その焦りが何なのか......本人にもわからなかった。

 万に一つも紗結が翔に盗られるなんてことはありえない......

 そう思っているのだが、それでも何故か淳史は焦っていた。


 そして、翔が何か言おうとした瞬間、二人に近づいていた淳史は声を発していたのだった。




 ◇◇◇




「紗結ちゃん、ごめんね。また後で話そう......おい、雨音! 行くぞ!」


「いたっ............」



 淳史が垣間見せたその表情に紗結が戦慄していると、話は一方的に先へと進んでいた。

 淳史は紗結に心からの笑顔を浮かべながら断りを入れると、先程の表情が嘘だったかのように表情を無くし、何も返事を返さない翔の腕を強引に引っ張ると、その握力で腕を握られ、苦痛の表情を浮かべる翔を無視して歩み出そうと淳史が一歩踏み出した、その時だった。



「ごめんよ、堂島。ちょっと雨音くん借りるから」



 そう言いながら翔のもう片方の腕を、淳史の天敵――桐崎楓が掴んでいたのだった。


次号、堂島少年の天敵――楓御姉様とのバトルが勃発!?

それよりも早く夢の話に入ってくれって感じですよね......笑

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ