一話―夢―
――の部分は夢の中で一人称となっていますが、それ以降は基本三人称構成となります。
(はぁ......またこれか......)
少年は深い深い溜息を吐き、流されるままにその景色を眺めていく......。
◇◇◇
――辺りを見渡すと夕日は半ば程が沈みこみ、街灯が其処彼処で灯り始めていた。
――そんな時間に俺は意気揚々と歩いていた。
――早く帰って、母さんの作った唐揚げを食べたかったから......
――「じゅるっ、やっべ」
――唐揚げの味を思い浮かべていると、いつの間にか涎が零れ落ちそうになっていた。
――口の端からはみ出た涎を手の甲で拭きつつ、意識を前へと移し、家路へと急ぐ。
――大通りを暫く歩いていると、右手側に脇道が見える。
――その脇道を進めば家までの距離をショートカット出来た......はず。記憶が確かであれば......
――脇道まで辿り着き、その先を覗き見る。小道だけあって街灯は無い。大通りと比べるとかなり薄暗いがまぁそんなことお構いなしさ......
――なんて思うがやはりドキドキが止まらない。緊張しているのだろう......情けない......
――全く緩やかにならない鼓動を意識の端へと追いやり、俺は意を決してその小道へと入っていった。
◇◇◇
――歩き進むと、道の先で声が聞こえたような気がした。
――その声の中に女の子の声が聞こえたような気がした......うん、気になるな。
――その声に気になりつつ、どうせ道の先の事だからと更に歩みを進める。
――少し歩き進むと、分かれ道の手前に二つの人影が見えてきた。
――その二つの影が良く見えるとこまで近づくと、だんだんとその輪郭がはっきりし始める。
――むさ苦しいおっさんがいた......
――うん、不快だな。
――俺は内心でそう呟いていた。
――だって、可愛らしい女の子の声がしたから来たんだもん。
――それだというのに、そこにいるのはおっさんとか......マジで勘弁しておくれ。
――しかもこのおっさん......歳からなのか、その体型の所為からなのかはわからないが、額から虹色に煌めく脂汗を垂れ流していた。
――いやぁ......汚い、汚すぎるよ。
――更にそのおっさんの表情へと視線を移すと、背筋からぞくぞくっと寒気が走った。
――おっさんの浮かべている表情は、見ているだけで不快感を齎す、そんな厭らしい顔だったからだ。
――あぁ......やっぱり不快だ、不快過ぎる! 本当汚いもんを見てしまったな......
――俺は内心で大きく溜息を零す。
――そんなおっさんに辟易しながらも暫く様子を窺っていると、どうやらおっさんは汚らしい顔でもう一つの影を引っ張っているようだった。
――殴ったら簡単に折れてしまいそうな、華奢で白くて綺麗な腕。
――そんな綺麗な腕を汚いおっさんが掴んで引っ張っていたのだ......
――あぁ不快だ! 不快過ぎる! どこまでも不快過ぎるおっさんだな! おっさんが触るだけで、綺麗な白さが穢れるじゃないか!
――俺はそう考えながらも、視線を腕の先......つまりその綺麗な腕の持ち主へと移す。
――どうやらその綺麗な腕の持ち主は、背丈から推測するに多分自分と同い年くらいの女の子だった。
――俺は、その光景をただただ眺めていた。
――おっさんの所為で不快な気持ちを胸に抱きながら、特に何をする訳でもなく、呆然と二人の姿を眺めていた。
――正直、目の前に広がる光景が理解出来ていなかったんだと思う。
――汚いおっさんと女の子が一緒にいる......
――その汚いおっさんが、その女の子の綺麗な腕を引っ張っている......
――そんな今まで見たことない現実離れした光景......
――これは......あれか? 犯罪現場......なのか?
――そんな考えが脳裏を過ぎったが、俺はそれでもただ見つめるだけだった......
――いや、何が起きようとも、俺にはどうすることも出来なかった......出来なかったんだ............
――だって、おっさんのあの表情を見てから足が言う事を聞かないんだ......
――まるで感覚が無くなったかのように微動だにしないんだ......
――これが俗にいう足が竦むってやつか............
――だから俺は、その光景をただただ眺めるしかなかったんだ......
――そう自分に言い訳しようとしていた............
――目が合った。
――女の子と目が合ってしまった。
――その女の子と見つめ合ってしまっていた。
――固まった。既に足が竦んでしまっているというのに更に固まってしまっていた。
――その子はおっさんに腕を引っ張られているためか、顔を歪め、辛そうな表情をしていた。
――その瞳からは、まるでダムが崩壊する寸前かのように、涙が溢れ出そうとしていた。
――うん、限界だ......。俺は女の子と目を合わすなんて事出来ないんだ............
――だって............、恥ずかしいじゃないか......
――なんだよあれ......可愛い過ぎる......。涙目の美少女って事で更に拍車がかってるじゃないか......。あんな可愛い子......今まで見たことないぞ?
――だから......ごめんよ。俺は......目を逸らすよ。そう、決意した............
――したんだが............出来なかった......
――そんな顔で............
――そんな潤んだ瞳で見つめられちゃ......無理だ。
――目が逸らせられるわけがない............
――二人を見てからかれこれ一時間位経っただろうか......体感時間では。そんな感じはするが......多分実際は一分も経っていないんだろうなぁ............
――俺が呆然と固まり、そんなことを考えていると、擦れるような声が耳へと届いてきた。
――「たす......けて............」
――その声を聞いた瞬間......俺は............
◇◇◇
「ん゛......、あぁ......朝か」
いつから始まっただろうか、少年は気付くとこの夢を毎回見ていた。
しかし、その夢の内容は少年には全く身の覚えも記憶にもないものだった。
しかもこの夢......どうやら少年の意思は全く関係がないらしく、何かしようと思っても全く行動を移すことが出来ない。
毎回毎回夢の中の少年視点で同じ光景を見せられ、その時感じたであろう意思や感情が脳内に直接流れ込んでくるのだ。
正直気持ち悪い事この上ない。
その謎の夢をここ最近、毎日体験させられ続けるのだから、少年にしてみれば勘弁してくれと思うのもいた仕方ない事だろう。
この夢の唯一の救いは、登場する少女が見たこともない程の美少女であったということか。
しかし、それ自体もその少女は少年より遥に年下で、今の少年にとっては完璧に恋愛対象外ではあるのだが......。
少年はベッドに横になったまま、暫くこの夢の事を考えていたが、ふと、目覚まし時計が視界に入る。
眠たい目を擦りつつ、もう片方の手で目覚まし時計を持ち上げ、ぼやけた視界のまま覗き込むと......
「......うわーー! ヤバいヤバいヤバい!!」
少年は時間を確認するなり声を張り上げ、慌てて飛び起きる。
そして、焦った様子で急いで着替えを済ますと、学校へ行く支度を整えるのだった。
稚拙な文章でわかりづらい部分が多々あるかもしれません。
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