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7

 



 帰宅するとすぐに奈緒は昨日見たブログが見間違いだったことを確かめようと、制服も着替えることもなくパソコンがある父親の部屋に入る。そして、パソコンの電源を入れた。

 起動するまでの時間すらもどかしい。


 最新型のものであればあっという間なのであろうが、あいにく奈緒の家のパソコンは旧型のものだ。大きな箱型の画面と、同じく箱型の本体。

 これは一家共用のもので、他にパソコンはない。少し前から、新しいものに買い替えようかという話は出ていたが早急に買い替える必要もないということでなし崩し的に延期されてきていたのだった。


 どう頑張っても起動まで三分はかかる旧型のパソコンに、奈緒は初めて苛立ちを覚えた。居ても立っても居られなくなり、自分の部屋に戻ると手早く着替えを済ませる。

 部屋には脱ぎ散らかした制服がそのままに転がされていたが、母親の目がないのをいいことに、パソコンの前に座した。


 急ぎ過ぎて過剰な負荷を掛けないように気を配りながら、昨日の閲覧履歴からそれと思われるページを開く。

 すると、いきなり画面が暗くなった。


 黒い背景に赤い文字。


 奈緒の期待を裏切る『殺鬼の動物日誌』の登場だ。真っ先に開いたギャラリーページには、「new」の文字と共に、ゴロの写真が新たに加わっていた。


 ゴロの写真をダブルクリックする。――が、動作の遅いパソコンの画面はすぐに変わってはくれない。

 焦る気持ちが、奈緒に無意識のうちに何度も何度もゴロの写真をクリックさせていた。


 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……――。


 ある瞬間、突如として画面が切り替わった。

 今にも噛みつかんばかりに大きく口を開けた獣が、奈緒を睨み付ける。

 驚きのあまり、奈緒は椅子に座ったままけ反った。そのせいで、奈緒は見事に派手な音を立てながら椅子ごとひっくり返り、腰を強打してしまった。


「奈緒? 何やってるの?」


 母親の不機嫌な声が飛んでくる。

 奈緒はそれに投げやりに答えた。


「ちょっとバランス崩しただけ!」

「そう? 気を付けなさいよ」

「はぁい」


 奈緒は上の空で返事をして、画面に見入る。

 そこには、背中にナイフの刺さったゴロの写真がある。それだけではなく、そのすぐそばに立つ沙月の姿もあった。


 それは、昨日の夢と同じだった。


 ――夢と同じ事がこのブログに書き込まれた? ……ってことは、あの夢は予知夢?


 だが、今朝遭遇した時のゴロはいつもと変わらず元気だった。帰り道だって、沙月と一緒だったのだから現実にこのようなことをしている時間は彼女にはなかったはずだ。


 しかも、その記事はそれだけで終わらず、続きの文章があった。


 “ゴロったら、うちのことを引っ掻くんだよ? もう、ありえない。”


 ――そういえば、今日の沙月は手に包帯を巻いていたような気もする。


 奈緒の脳裏に今日のことが浮かぶが、朝の出来事のせいで沙月とは目も合わせ辛かったこともあってか記憶ははっきりとしなかった。

 細部まで思い出すのは不可能だと判断すると、奈緒は記事の続きに目を向ける。


 “だから、悪い手は切り取ってあげたよ。これでもう誰も傷つけないね。

 ……あ、そうだ。他の子に噛みついちゃうくらいだからおなかが空いてるのかも。じゃ、食べさせてあげるよ”


 四肢を切断されたゴロは、何とも滑稽な置物のようだった。

 真っ黒な塊の下に、赤黒い水たまりが出来上がっている。これがゴロの中を循環し、その生命を維持する役割を担っていたのだという実感はそこにはない。


 何かがおかしいと思えば、ゴロの顔が異様に大きくなっているのだ。よく見れば、口の中いっぱいに足が詰め込まれていた。

 全ての足先が口へ入るように、無理くりじ込んである。そのせいで顎が外れているようだが、足も顔も真っ黒な毛で覆われているので一見すれば顔が膨張したようにしか見えなかった。


 ゆっくりと、少しずつ認識されていく情報を、奈緒は半ば冷静に眺めていた。だが、徐々にそれがどういう事かを理解していくと、突然それが恐怖に変わり始める。


 “そういえば、猫の革って三味線の材料になるんだって?

 ちょっと面白そうだから作ってみようかなー、なんて思ったけど、大変だったから途中でやめちゃった”


 とどめの文章と共に掲示された写真に、奈緒は吐き気をもよおした。


 直視にかなわないような画像がそこにある。

 きっと皮だけをはぎ取ろうとしたのだろうが、肉や内臓まで切り出されてゴロは原型も分からないモノと成り果てていた。


 これ以上は見られないと思いブログのトップページに戻ると、昨日の日付で更新されたことを示す“次のターゲット☆”と題された記事があった。

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