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夢で逢いましょう  作者: 牧田紗矢乃


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4

 



 五分程かかっただろうか。


 奈緒はようやく、半年ほど前の沙月からの受信メールの本文に、「ブログ始めました」とあるのを見つけた。

 そのメールに載せられているアドレスをパソコンへ入力して、沙月のブログへ飛んだ。


 画面に表示されたのは『サツキの動物日誌』と題されたページだった。

 沙月らしい白地に黄色の水玉の背景に、『ギャラリー』と題されたページへのリンクがあり、そこをクリックすると沢山の動物たちの写真が画面に並んだ。


 どうやらここがメイン記事らしい。

 その写真は、どれも奈緒たちの家の近所に暮らすペットたちを写したものだった。その中には、最近亡くなってしまった子の写真もある。


 写真をクリックすると、そのペットとの思い出や、その日のふれあいの様子などの書かれた日記ページを見ることができた。

 ペットとどんなことをして遊んだのか、飼い主と交わした会話はどんなものであったか。そんなことが、いつの間に撮っていたのかは分からないが見事なアングルから写された写真と共に記されている。

 その中には、名前こそ伏せられていたが、明らかに奈緒の事だとわかる文も沢山載せられていた。


 公園で遊ぶことの多い奈緒と沙月にとっては、ペットを連れて散歩に来る人々と会話をしたり、そのペットたちと遊ばせてもらったりすることが日常になっている。

 気さくな沙月の態度のお陰か、元来の飼い主たちの人柄のお陰かは分からないが、何度か公園で会って話をするうちにその流れで自宅に御呼ばれする、なんてこともあった。

 飼い主が忙しい時には、代わりに散歩を頼まれることもある。

 だから、その日記の内容は奈緒にとっては何の違和感もないものだった。


 読み進めるうちに、その一つ一つの出来事が鮮明に思い出される。


 ――そういえば、公園のベンチでお昼寝をしてる野良猫を連れて帰ろうとしたこともあったっけ。あの日はホント大変だったよなぁ。


 ベンチで気だるげにあくびをする猫の写真を見ながら、奈緒はその時のことを思い出していた。





「――ほらナオ、絶対今がチャンスだって!」


 鞄を抱えて様子を窺っていた沙月が、木の陰から小さく身を乗り出して少し離れた位置にあるベンチに視線を向けた。

 どちらが言い出したことだったかは忘れてしまったが、真っ白で上品な印象を与えるその猫が公園に居着いていると聞いた二人は、学校の帰りに迷わず公園へ立ち寄ることを決めていた。

 そして、あわよくばその猫を連れて帰ろうとまで考えていたのだ。


 標的は、今まさに昼寝をしようとしている所だった。

 うつらうつらとしている姿は、何とも言えず愛らしい。とはいえ、連れて帰ったところで必ずしも飼わせてもらえるとは言い切れなかった。

 それでも二人が猫に接近したのは、幼さゆえとも言えるだろう。


 そう。あれはまだ二人が小学生だった頃――。





 ――……小学生?


 奈緒はフッと我に返った。


 沙月からブログを始めたと連絡があったのは、つい半年ほど前のことだ。それなのに何年も前のことが書いてあるなどあり得るだろうか。

 まして、沙月は当時小学生だ。その当時の沙月がブログを作ることができたとは考えにくい。

 可能性として奈緒が考えられたのは、親にでも協力してもらっていたことくらいだが……。


 事実を知らない自分がそんなことを考えていても、何も始まらない。

 ブログのことについては後日、本人に直接聞こうと心に決めると、次へ次へと急き立てるように読み始めた。


 すると、気になる文字が目に入った。

 そこだけ他とは違う赤い色で書かれているので、それが別のページへのリンクであることは一目で理解できる。

 奈緒が気になったのは、そこにリンクがあることではなく“裏ページへGO!”というリンクの文字だった。


 ――裏……? 何の事だろう。


 カチカチッとダブルクリックすると、パソコンの画面が消えた。――……いや、急に壁紙の色が黒くなったせいで、消えたように錯覚しただけだ。

 画面には黒い背景に赤い文字で『殺鬼の動物日誌』と映し出されていた。


 ――殺……、鬼?


 これで『サツキ』と読むのだろうか。ブログの見た目はさっきとあまり変わらず、沢山の動物の写真が映し出されている。

 しかし、そこに映し出されているのはこのごろ疎遠になってしまった子ばかりのようだ。


 昔は非常に人懐っこい性格だった犬が、突然人が――いや、犬が――変わってしまったように奈緒や沙月に吠え掛かるようになったり、毎日のようにご近所の家の塀でまどろんでいた猫が姿を消したりと事情は様々あった。けれど、一度は友達として遊んだことのある可愛いペットたちだ。


 お向かいの猫のトラ太や、山本さんちのチョコなど、よく知っているペットたち。懐かしさを感じながら、奈緒はその写真をクリックした。


 ほどなくして画面が切り替わる。


「ひっ……」


 奈緒は自分の目を疑った。


 ――違う。これは間違いだ。


 そう思いたかった。


 お利口なので有名な、ミニチュアダックスのクッキーを、道路の真ん中に「おすわり」させる沙月の写真。動こうとしたクッキーを叱って再び座らせた、という文章。角を曲がってきたバイクにはね飛ばされた瞬間の、ちょっぴりピンボケしたクッキー。クッキーの遺体を確認した後、微笑む沙月。その笑顔は悪意に汚れていた。

 そこには、奈緒の知らない沙月がいる。


 沙月が身に着けている衣服が中学校の制服であることで、それがいつ頃のことかも自然と理解させられた。

 やはり、沙月は昔からブログをやっていたのだ。それを認知したところで、奈緒の思考は止まる。

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