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夢で逢いましょう  作者: 牧田紗矢乃


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13/13

エピローグ

 




「……ねえサツキ、私ったら、おかしな夢見てたみたい」

「へえ……どんな?」


 沙月はいつもと変わらない笑顔で聞く。場所は、いつもと同じ教室の中。

 一つだけ違うのは、そこに奈緒たち以外の生徒も先生もいないことだった。


 少し不安はあったけれど、奈緒は休みの日に学校に忍び込んだみたいでワクワクしてもいた。

 そして、奈緒は冗談めかして夢の内容を沙月に告げる。


「私がサツキとか先生とかに追いかけられてね、殺されちゃう夢」


 その言葉を聞いた沙月の表情が、一気に曇った。


「……それ、夢じゃないよ」

「えっ?」


 奈緒の頭は混乱する。


「じゃあ……サツキ、私のこと殺したの? ……ってか、死んだんだったらどうして私はここにいるの?」

「ううん。うちがナオたちに殺されたの。ここは死後の世界……かな。『夢の網』って知ってる?」

「うん……。教えてくれたのはサツキだもん」


 言いながら奈緒は俯く。何が現実で何が夢だか、わからなくなってしまった。

 それに比べて、沙月はどうも落ち着いた様子で話してくれる。


「そっか……。ナオはうちから聞いたんだ。うちもね、ナオから聞いたんだよ、『夢の網』の話。

 多分だけど、ここ、『夢の網』の中だよ」

「えっ? どういうこと?」


 ますます訳が分からなくなっている奈緒に、沙月は自分の考えをまとめたものを一つずつ丁寧に説明してくれた。


 事の発端はあの追いかけっこの夢を見た日であること、ブログやメールといった手段を使って奈緒たちの間を疎遠にしたこと、夢の中で追い詰められて実際の世界にある身体が暴走したこと。そして、その結果が転落死だということ。

 また、沙月は最初の夢で追いかける側に回ったつもりでいたようだが、すぐに何者かに追跡されていることに気が付いたとも教えてくれた。


 そこで、根本的な疑問が湧き上がる。

 一通りの話を聞き終えた奈緒は、沙月に詰め寄った。


「じゃあ、サツキのあのブログは……?」

「ブログ? うちのはだいぶ前に閉鎖したけど。ナオはどうなの?」

「私? 私はブログなんてやってないよ」


 三日坊主の奈緒には続かないと分かっていたから、初めからブログなんて作るつもりはなかった。

 そのことは沙月にも言ってあったはずだ。


「ホント? じゃあ、うちにメールしてきたのは誰だったんだろう……」


 首をかしげる沙月に、奈緒は自然と訝るように眉を寄せていた。


「ほら、メールくれたじゃん。『ブログ始めたよ♪』とかって……」

「ごめん、それ私じゃないと思う」


 全く心当たりがない上に、沙月のブログ用のアドレスなどは存在しないことも知らされた。


 ――じゃあ、あれは一体……。

 誰が何の目的で作ったものなのだろう。


 二人で無い知恵を絞ってみたけれども、やはり無いものは無いわけで……。

 犯人は誰かということは愚か、何故こんな目に遭わされたのかすら思い当たる節が無かった。

 ただひとつ確かなのは、奈緒たちが夢の世界に捕らわれてしまったということだけ。


「……私たちってもう帰れないわけ?」


 何度も同じ事を言っている気がする。けれど、それも分からなくなるくらい奈緒は疲れ果てていた。





「……ねえ、ナオ」


 いつになく重く、真剣な表情で沙月が呼びかける。

 それにつられて、奈緒も真面目な顔で返事をした。


「ん? どうしたの、サツキ」

「ナオは、ドッペルゲンガーって知ってる?」

「ん……、うん。自分とそっくりなアレでしょ?」


 唐突な話題で呆気にとられるが、早く続きを、と沙月を急かす。


「うちらを追いかけてたのって、それじゃないかと思うんだ」


 これはまた突拍子もないことを、と奈緒は怪訝な顔をするが沙月はいたって真面目だった。


「信じられないかもしれないけど、ちょっと見てて」


 言うと、沙月は目を閉じて全身の力を抜く。

 沙月の身体はぐにゃりと大きく歪み、形を変えた。

 そうして目の前に現れたのは、奈緒と全く同じ姿をしたモノだった。


「えっ……、どういうこと?」

「……ナオも、できるよ。その人になるっていうイメージをすると」


 沙月の言う通りに、目を閉じて想像を膨らませる。


 ――ショートカットで、私より背が高くて。しっかりしてるけど、ちょっぴり抜けていて。


 奈緒の脳裏に浮かぶのは、誰よりも大切な、親友の姿だった。

 一瞬光に包まれるように視界が明るくなり、「目、開けて」という沙月の声が聞こえる。それに従って目を開くと、本当に沙月の姿になっていた。


「わっ……、ホントだ」


 手鏡で自分の顔をまじまじと見つめ、嘆息を漏らす。


「きっとね、誰かを捕まえれば出られるよ」


 沙月が零した言葉は、すぐには理解できなかった。

 けれど、教室の窓から外を見下ろせばそれも理解できる。


 ――無数の人々が、巧みに姿を変えながら別のモノを追っていた。


「たぶんだけど、ああして人を捕まえたらその人に『成れる』んだと思う」

「その人に……『成る』?」

「そう。……入れ替わる、って言った方が分かりやすいかな」


 沙月は一人で納得するように頷く。


「そういえば、サツキは私よりも先にここへ来てたんだもんね」

「うん。その時にね、見てて分かったんだ」


 自分以外の何者かを捕まえれば、それ(●●)と入れ替わることが可能らしい。ただし、獲物は自らの手できちんと息の根を止めなければいけない。

 もし対象が自らの手で命を絶ってしまえば、それは早い者勝ちで奪われてしまう。

 それがここのルールなのだそうだ。


「捕まえるのは動物でもいいみたい。だからかな、ブログにペットの記事が多かったのは」

「人が変わったみたいだったのは、それが原因だったんだね……」


 二人は顔を見合わせると、微笑み合った。




 奈緒たちは、いつものように見晴らしの良い学校の屋上から足下に広がる町並みを眺めていた。

 平穏な街並みを、甲高い声が切り裂く。


 あちらこちらで逃走劇が繰り広げられているが、逃走者側からは他の逃走者は認識できないらしい。

 逃げている間に追手が増えるのだとも知らず、彼らは自分の位置を知らせるように声を上げながら疾走していた。


 逃亡者を捕まえられる追手の条件はただ一つ。

 逃走者が追跡者を知っていること、だ。お互いの名前を知っている必要はない。街ですれ違っただけでも、顔さえ覚えていればそれでよかった。


 そうであれば、インターネットに干渉して、その人に関する情報を集めればいい。今の時代、情報ならいくらでも溢れているのだから。

 また、逃走者は定期的に“供給”されるということも知った。その基準が何なのかは知らないが、それも今となっては関係のないこと。


 ――早く捕まえて、帰りたいもん。頑張らなきゃね。


 誰しも、考えることは同じ。


「ふふふっ、今日もやってるね」

「ねっ。じゃ、うちらも行きますか」


 二人は姿を変えると、街へ飛び出していた。

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