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夢で逢いましょう  作者: 牧田紗矢乃


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11

 



 奈緒は夢の中にいた。しかも、あの屋上に。

 だが、そこに“殺鬼”たちの姿はない。足もいつも通りに動く。


 ――なんだ、恐れていたほどのことは起こんないじゃん。……そうだ。今のうちに校舎の中に逃げ込んじゃお!


 全身の体重をかけてノブを引くと、ギィィィ……と重い音がして扉が開いた。

 後者の中へと流れ込む風が、奈緒の横を通り抜ける。その心地よさに心が和んだ。

 久し振りに目を細めて笑うと、すぐ近くの足元に何かがあることに気が付いた。


「ナオ、つーかまえたっ!」


 声と共に、ガシッと足首を掴まれる。

 足元に転がっていたのは、見紛うこともない、“殺鬼”その人だった。


「イヤァァァァアアアァァッッ!」


 奈緒は足を思いっきり振って“殺鬼”の手から逃れると、校舎の中へ駆け込んだ。

 幸い、そちらには“殺鬼”の姿はない。


 急いで階段を駆け下りると、ちょうどそこを担任の教師が歩いていくのが見えた。


「先生っ!」


 助けを求めて声を掛けると、彼はゆっくりと奈緒の方へ向きを変えた。


「……ん? ああ、片山か」


 柔らかな笑みを浮かべる担任は、手に血糊のついた包丁を握っている。

 そして、それを握り直すと一目散に奈緒に駆け寄ってきた。


 ――なんで!? なんで先生までっ……。


 反射的に逃げ出しながら、奈緒は乱れる思考を何とかしてまとめようとした。

 しかし、そうするうちにも追跡者の数は増加していく。


 気が付けば、担任だけではなくクラスメイトや他の教員、先輩や後輩といった校内にいる者たちが次々と後を追ってきていた。奈緒と面識のある者もない者も関係ない。

 廊下で行き当った者は総じて奈緒の後を追う。中には奇声を上げる者もおり、それが一層奈緒の恐怖心を煽った。


 ひたすらに校舎内を駆け回るが、次第に行く手が阻まれ始める。奈緒に残された逃走経路は、ついに屋上へと続く階段のみになってしまった。


 だが、屋上には“殺鬼”がいる。


 恐らく、この間に相当な数の“殺鬼”がフェンスを乗り越えてきていることだろう。

 それでも、奈緒は屋上へ向かうことを決意した。




 屋上へ辿り着くと、奈緒はすぐに屋上の扉を閉めた。鍵をかけることはできないが、姿が見えないだけでも少しは気が楽になる。

 ドンドンと内側から扉を叩かれて、奈緒はすぐさまそこを離れた。


 走って走って、ついに屋上の端まで来てしまった。奈緒を追い詰めるように“殺鬼”が迫ってくる。

 背後はフェンスが張り巡らされており、その金網が奈緒の落下を防いでくれていたが、同時に進路も絶たれた形となる。

 フェンスを伝って横へ移動していったが、ある程度まで進んでからこのまま角へ追い詰められればどうすることもできないことに思い至った。


 しかし、もう止まることはできない。フェンスとフェンスのぶつかる角に背中を押しつけて立つと、首だけ動かして下を見た。

 そこにもやはり、這い上がってくる沢山の”殺鬼”がいる。


「ナオ、会いたかったよ」「ナオの投げた石、痛かったんだよ?」「ナオ……、イイコトしようよ……」「ナオ」「ナオ」「ナオ……」


 “殺鬼”の声がエコーのように反響して奈緒を包み込んだ。


「こ……来ないでっ!」


 奈緒が行き場を失い、辺りを見回していると、”殺鬼”がもう目の前に迫ってきていた。

 屋上への扉も開き、教師や生徒たちもなだれ込んでくる。


 その中には、両親の姿もあった。


「お父さんっ、お母さんっ」


 救いを求めて眼差しを送ったのだが、二人も他の者たちと同様に奈緒を捕らえようと手を伸ばしていた。


「奈緒、こっちへいらっしゃい」

「奈緒、さあ、おいで」


 手招きしながらゆるゆると近づいてくる。


「いやぁぁっ! 来ないでぇっ!!」


 奈緒は、叫びながらフェンスに体を押し付けた。


 その瞬間、ぐらりと体が揺らぐ。


 立てつけが悪くなっていたフェンスが外れたのだと気づいた時には、奈緒の体は金網と共に地面へ向けての落下を始めていた。


「ナオー」「ナオー」「ナオー」


 下で待ち構える無数の“殺鬼”たちがこちらに手を伸ばしている。上を見れば、屋上に上がった“殺鬼”や教師、生徒たちも奈緒めがけて飛び降りてきていた。

 奈緒はその“殺鬼”たちの中に、ただ一人悲しげな顔をして佇む、いつもの優しい沙月の姿を見た気がした。


「サツキーっ!」


 奈緒が声の限りに叫ぶと、その沙月はちょっとだけ視線を奈緒に向けて、悲しそうな笑みをよこした。

 次の瞬間、奈緒の体は地面に強く叩きつけられた。

 全身の骨が砕けてしまったような激しい痛みがあったが、それもすぐに遠ざかる。奈緒の目に最後に映ったのは、手で顔を覆った沙月の姿だった――。




 片山奈緒は一度意識を失った後、白目を剥いて激しく全身を痙攣させた。

 異常な彼女の行動に、生徒たちの視線が集まる。

 野次馬精神の強い生徒たちに至っては、教師が別件で話し込んでいるのをいいことに自分が元整列していた位置から大きく離れて奈緒の周囲を取り囲むように群がっていた。


 そのことで異変に気が付いた教師たちが、すぐに駆け寄ってくる。

 数人の教師がその生徒たちを鎮めて元の位置へ着かせている間に、他の教師が保健室から非常用の担架が運んできた。

 そして、奈緒を一時的に保健室へ搬送すると、何事もなかったかのように集会が再開された。


 その後、念のためにと呼ばれた救急車のサイレンが元でその出来事は全校に知れ渡ることとなる。

 だが、下手に規制をかけるとあらぬ疑いが発生してしまうことも考慮し、教師たちはその話題は黙認することが職員会議で決定された。


 当の片山奈緒は過度の睡眠不足で脳が誤った信号を送りこのようなことになったが、少しの休養を挟めば問題なしという診断を受けた。


 そして、一週間の休学の後、何事もなかったかのように登校を再開した。

 あの出来事から学んだことがあったのか、休学中によい気分転換ができたのか、復学した奈緒は以前に増して明るく、活動的になった。

 それとは対称的に、数日間風邪で学校を欠席していた早川沙月は目に見えて消極的になっていた。


 二人の変化にクラスメイトたちも初めのうちは困惑の色を隠せなかったが、それも次第に日常に変わっていく。

 以前は非常に仲が良かった片山奈緒と早川沙月は次第に疎遠になり、いつしか二人は犬猿の仲が噂されるまでになった。

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