なんか、巻き込まれました
チュンチュンと小鳥が囀る声で、ケイト・リューベルグは目を覚ました。ベッドから起き上がり、服を探す。
「ふあぁぁ。」
大きなあくびが出、ちょうど服をつかんだところに白い何かが横切った。とりあえず、無視して服を引っ張りあげるとまた白い何かが横切った。
ケイトが服を着る間、白い影はちらちらとケイトの周りをうろつく。ついに、ケイトが切れた。
「だぁぁぁぁっ!!視界をうろつくな、アルフォーマ!!」
ケイトが叫ぶと、白い何かがパタパタと音を立てながら飛んでいた。
「だっておなか減ったんだもん。」
「もんって言うな、もんって。気持ち悪い。」
「ひどっ!ちょっとした気持ちで言っただけだっつーのに!そりゃねーぜ相棒!!」
「だって事実だろ?はぁ、朝から無駄な体力使っちまったぜ……。」
「いいから、早く飯を作ってくれ!ハラへって死にそうなんだ!!」
「アルの癖によく言うよ。昨日だって、作ってやったのに食いもしねぇで………。」
ケイトは長いパンをつかむと、ナイフで大雑把に切り出した。切ったパンの上にチーズとハムを乗せたものを思いっきり齧り付いた。空腹に、チーズとハムのうまみが染み渡る。
もうひとつ切り出すと、さっきと同じようにチーズとハムを乗っけてアルフォーマに差し出した。
「うひょー、来た来たァ!!」
アルフォーマも負けじと齧り付くと、幸せそうに頬を緩めた。
そんな様子を見て、ケイトはクスっと笑った。久々に見る相棒の気の抜けきった笑顔になぜか笑いがこみ上げてしまった。それに気づいたアルフォーマは小さな口をモゴモゴ動かしながら言った。
「にゃんふぇわりゃっちぇりゅんじゃよ。」
「あーはいはい。しゃべるときは食べてるものを飲み込んでからね。」
「………ぷはっ、食った食った。で、もう一回聞くが何で笑ってるんだよ。」
「そういってたんだ…。いや、そんなに安心しきって食べてる表情、久々に見たなー…と。」
それを聞くと、アルフォーマは呆れた顔になった。それに、わけがわからずケイトは焦った。
このトカゲ、怒ると手がつけられなくなるからなぁ。
「むしろ、俺が言いたいね。何でお前は3年ぶりに帰ってこれたって言うのに、そんなに変わらないんだ!!」
「え、普通じゃない?」
「普通じゃねぇだろ…。時々、お前がちゃんとした人間か疑いたくなるぜ…。」
「失礼な、僕だってちゃんとした人間だよ?それを、人を異常扱いしやがって。」
「お前だと、どうも信じられないときがあるんだよ。」
「わかった。もう二度とアルは外に連れてってあげない。」
「さぁ、食材を買いに出かけようか!」
明らかに態度が変わった相棒を、またクスっと笑った。
外は、大勢の人でにぎわっていた。
ケイトのいる街、鍛冶都市レプラは、鍛冶が盛んだ。いたるところに鍛冶屋があり、武具を求めて旅人がさまざまな店に入っていく。
たまに、値切りの声が外まで聞こえてきて、活気あるこの街がケイトは好きだった。
「見ろよ相棒、あっちに人だかりができてるぜ。」
「ちょっとアル、しゃべっちゃだめだよ。人に見つかったら厄介なんだから。」
「いいだろ?別に、誰も見てないんだからさ。」
「だけどさぁ……。」
と、言葉を続けようとしたとき、背後から強烈な衝撃が走った。
「ケイト!!」
「い゛っ!?」
ケイトは、背後からの衝撃を起こした張本人を見た。嫌な予感しかしないが振り返って見る。
やっぱり、嫌な予感しかしなかった。
「ちょっと、いつ帰ってきてたの!?帰ってきてたなら帰ってきたらしく…」
「ちょ、ちょっと、揺らすのだけは勘弁してアリサ!!しゃべれないから!!」
「それはいいけど。」
ぱっとつかんでいた襟を離し、ケロっとした顔で見つめる幼馴染を、ケイトは地面に座りながら恐る恐る見上げた。
彼女の名前はアリサ・ハルバッツ。幼馴染で、軽くトラウマを植えつけた人物である。
アリサは、そんな僕を見てニコっと笑った。僕には、それが死の宣告にしか見えなかった。