第二話 世紀末覇者登場!
時は19××年。
勇者ああああの放った最凶魔法メガロドンにより、人類は滅亡したかに思われた。
だが、荒れ果てた世界の中で、僅かながら人類は生き延びていたのだ。
しかし、その世界は暴君ああああが支配する暴力と狂気の世界だった……。
「ヒャッハアッ! ジジイ! その食料をこっちに渡しな!」
【ヒャッハァッ!】
世紀末に登場する雑魚たちが叫ぶ奇声。叫ぶとなんだか強くなった気がする魔法の言葉であり、一般人もハイテンションになると時々発してしまう事がある。
荒れ果てた荒野の中を改造バイクに乗った暴漢がジジイを追いかけていた。
「こ、この種は、未来の大事な食料の元ですじゃ! どうか勘弁して下され!」
「うるせぇ! お前らの未来なんかよりも、今の俺の腹具合の方が重要なんだよ! 殺されたくなかったら大人しくそれを渡しやがれ!」
トゲトゲのついた鎧に身を包んだ暴漢は、バイクでジジイをはね飛ばした。吹き飛んだジジイの手から、種の入った巾着が飛び出し宙を舞う。
【トゲトゲの鎧】
世紀末に登場する雑魚たちが身につける鎧。一目で悪者であり、やられ役である事が解かる雑兵の証。
その巾着を通りすがりの男がキャッチした。全身をフードに包んだその男の顔は見えないが、服の上からでも分かる鍛え抜かれたその体に、フードの下はブーメランパンツ一丁しか履いていない事から、男が只者では無い事は誰が見ても一目瞭然だった。
「おお、そこの旅のお方、どうか助けて下され!」
「おいてめぇ! それは俺様のもんだ! こっちによこしやがれ!」
空気の読めない暴漢が、鉄で出来た棍棒を振り回しながら男に迫る。だが……、
「ホアチャアッ!」
次の瞬間、男の繰り出した拳が暴漢の顔面にめり込んだ。暴漢は吹き飛び、勢い良く壁に叩きつけられた。
【ホアチャアッ!】
筋肉質な男が拳を繰り出す時の掛け声。カンフー映画を見た後の子供たちが、次の日学校などで真似をする事が多い。ヒャッハァッ! と同様、声にするだけで強くなった気になれる不思議な言葉。
「て、てめぇ……何者だ?」
「ホアチャアッ!」
「あべしっ!」
返事は拳だった。トドメの一撃を食らった暴漢は絶命した。
「た、助かりました旅のお方。あ、あなた様のお名前は?」
「ホアチャアッ!」
「ひでぶっ!」
返事は拳だった。トドメの一撃を食らったジジイは絶命した。
【あべし、ひでぶ】
雑魚が倒される時に叫ぶ言葉。他にも、たわば、ぶべら等がある。
「俺様の名はホアチャアッ! この世紀末の覇者となる男だ! 老い先短いジジイに食わせる食料はねぇ! 冥土の土産に覚えておくが良い!」
ホアチャアッ! は巾着の中身を口の中に流し込んだ。そして一言、
「まずい!」
ペッと種を吐き出し、ホアチャアッ! はその場を後にした。
場所は変わり、ここは悪党どもが巣食う秘密要塞、デス・フォートレス。
【デス・フォートレス】
ここいら一帯を支配する悪党集団『ヘルハウンド』が巣食う要塞の名称。
【ヘルハウンド】
強盗、殺人、放火、器物破損、万引き、猥褻物陳列罪等、悪いと思われる事は何でもやる極悪集団。構成員は五百名。筆頭のブルースは暗殺拳法の使い手である。
「なんだと? リーがやられただと?」
「へい、ブルース様! なんでもフードを被り、下はブーメランパンツ一丁しか履いていない謎の変態に撲殺されたとか……」
「うおおおお! なんと言う事だ!」
ブルースは号泣しながら、怒りに身を任せ壁を思いっきり殴った。
――ドガアアアアアッ!
暑さ50Cmもある壁に、クレーターのような大穴があく。恐ろしい怪力である。
「おのれ! そいつは絶対に許さん! 俺の可愛い弟リーよ! あんちゃんが必ず仇を取ってやるからな!」
「いかが致しましょう、ブルース様!」
「うむ、残りの滅殺四天王を呼ぶのだ!」
「ハッ!」
【滅殺四天王】
デス・フォートレスにおける最強の暗殺拳法使い四人衆。
ジャッキー、チェン、ジェット、リーの四人で構成されている。
暫くすると、ブルースの元に三人の屈強な男たちが現れた。
「お呼びですか、ブルース様」
「リーがやられた!」
「なんですと、棍棒使いリーがやられたですと?」
驚愕する三人。
「リーをやったのは、フードを被った筋肉質の男だ。すぐに奴の居場所を突き止め、弟の仇を取るのだ!」
「ハッ」
「その必要は無い」
突然、部屋の中に謎の声が響き渡る。
「だ、誰だ!」
「ホアチャアッ!」
扉が蹴破られ、部屋の中にフードを被った筋肉質の男が乱入してきた。ホアチャアッ!である。
「な、何者だ貴様!」
「フードの下はブーメランパンツ一丁しか履いていないだと? 貴様、変態だな!」
「変態は殺せ!」
部屋の中に居た雑兵五百名が次々にホアチャアッ! に飛びかかる。
「暗黒破壊拳究極奥義! 撲殺乱舞!」
高速に回転し竜巻状態になったホアチャアッ! は、雑兵五百名を一瞬にして弾き飛ばした。吹き飛ばされた雑兵達は、壁や天井、床に頭からめり込み全員絶命した。
「そうか、その姿。お前がリーを殺った男だな? だが、この滅殺四天王の一人ジェット様は違うぞ? 食らえ、マッハ神拳究極奥義……」
「ホアチャアッ!」
「ぶべらっ!」
言い終わる前にホアチャアッ! の拳が炸裂し、ジェットは壁を突き抜けどこかに飛んでいった。
「貴様あ! 奥義は最後まで聞くのが礼儀だろうが!」
「そんな事、俺様の知った事かああああ!」
【最後まで聞く】
正義のヒーロー、悪役の決め台詞などは、最後まで聞くのが礼儀。これを守らない者は、外道の烙印を押される。
「こうなれば、二人掛かりだ! 行くぞ、ジャッキー!」
「おうよ、チェン!」
ジャッキーとチェンが空中へ高く飛び、そのままホアチャアッ! の頭上から襲い掛かる。だが、
「ホアチャアッ!」
「たわばっ!」
ホアチャアッ! の放った拳が二人の顔面を捉え、そのまま二人は天井を突き抜けどこかに飛んでいった。
「残るはお前だけだな……」
ゆっくりと振り向いたホアチャアッ! は、ブルースを睨み付けた。
その鋭い眼光に、ブルースはガクガクと震えながら、あまりの恐ろしさに失禁した。
「き、貴様、一体何者だ? 何故俺達をつけ狙う? 俺たちがお前に何をしたって言うんだ!」
「とぼけるな。貴様が反乱を企てているのは、先刻承知よ!」
「は、反乱だと? 貴様は一体……」
ホアチャアッ! はフードを脱いだ。そして、そこに現れたのは……。
「あ、あ、ああああ様!」
「そうだ、世紀末覇者ホアチャアッ! とは俺様の仮の姿。本当の正体は、勇者ああああ様よ! ブルース! 貴様が兵を募り、この俺様に反乱を企てていた事は既にばれている。大人しく俺様に殺されろ!」
「そうは行くか!」
ブルースは壁にある赤いボタンを押した。
――ゴゴゴゴゴゴ!
振動と共に床が割れ、下から鉄で出来たゴーレムが出てきた。
【ゴーレム】
一般的には土で出来た巨大な人型人形。意思を持たず、創造主の命令を忠実に守る。
「な、なんだこれは!」
「ハーッハッハッハ! これは最終決戦破壊兵器ゴグレグ! こいつで貴様をぶち殺してやるぜえ!」
【最終決戦破壊兵器ゴグレグ】
人間が搭乗する事で操作する鉄で出来たゴーレム。装甲は厚く、あらゆる攻撃を跳ね返し、体内にはありとあらゆる殺傷兵器が組み込まれている。
ブルースはゴグレグの中に乗り込むと、その巨大な足でああああを踏み潰そうとする。
咄嗟にかわしたああああは、渾身のパンチをゴグレグに放つ。だが、
「いてええええっ!」
「ハーッハッハッハ! 無駄だあ! このゴグレグの装甲の前には、貴様の拳など効かぬわ!」
「卑怯だぞブルース! 男なら正々堂々拳で戦え!」
「馬鹿め! 戦いに卑怯もクソもあるか! ようは勝てばいいんだよ、勝てば! この世は暴力と狂気の世界では無い! これからは、科学の世界となるのだ!」
「科学の世界だと? それは違うな! この世界は、元々剣と魔法の世界なんだよ!」
ああああは不敵な笑みを浮かべると両手を頭上にあげた。大気中の空気が、ああああの手に吸い寄せられ、バチバチと火花を散らす。
「ま、まさかその呪文は、この世界に破滅をもたらしたと言われる伝説の最凶最悪呪文、メガロドン!」
【メガロドン】
勇者だけが使える最強魔法。広範囲に、空気中の水素を圧縮した核融合反応を誘発し莫大なエネルギーを放出させる。その威力は10.4メガトン級。
「そうだ、こいつで貴様もろとも吹き飛ばしてやるぜ!」
「やめろ! そんな事をしたら、範囲10Kmのあらゆる命が死に絶え、草木も生えない無人の荒野と化してしまうぞ! 今度こそ、人類が滅亡する! それでもいいのか!」
「そんな事、俺様の知った事かあ! くらえ! 究極破壊魔法、メガロドン!」
「貴様の血は、何色だああああっ!」
――ズドオオオオオオン!
世界は滅亡した……。
完