第一話 勇者登場!
ここは、何処にでもある剣と魔法のファンタジー世界。
【剣と魔法】
ファンタジーの代名詞。とりあえず、剣と魔法さえあればファンタジーと認識してもらえる為、この小説のように安易に用いる場合が多い。某有名RPGの登場により、ジャンルの一つとして確立した。最近は、とあるメガネをかけた魔法使いが活躍する映画が流行った為、以前に比べて間口が格段に広くなった。
この世界は、魔界からやってきた魔王の侵略に脅かされていた。
【魔王】
悪の象徴。ラスボス。ファンタジー世界には無くてはならない悪の花。とりあえず、主人公の最終目的として設定される事が多い。「ワシの味方になれば、世界の半分をお前にやろう」などと、狡猾に取引を仕掛けてくる某RPGのラスボス等が有名。
そんな魔王を打ち倒すべく、一人の勇者が現れた。
【勇者】
正義の象徴。主人公。とりあえず、こいつが居なければ物語は始まらない。
勇者の特権として、
①他人の家に不法侵入が出来る。
②タンスやツボを漁ったり壊したりしても怒られない。
③最強の武器、防具が装備できる。
④死んでも生き返る。但し、所持金は半分。
等々、色んな恩恵が受けられる為、勇者を目指す人間が後を絶たないが、勇者になれる素質は基本的には血筋で決まる為、大抵は戦士や魔法使いなどに落ち着く場合が多い。
その勇者の名は、ああああ。
【ああああ】
恐らく世界で一番多い勇者の名前では無いかと言われている。一般的には、やる気の無い名付け親がつけた由緒正しき名前であり、この名前の勇者に倒されたモンスターや魔王は、あまりの情けなさに成仏できず、未来永劫恥ずかしさにのたうち回ると言う。ちなみにこの世界では、勇者や冒険者の名前は四文字までで命名しなくてはならない決まりがある。
だが、ああああは、まだ勇者としての自覚を持っていない十六歳の少年。彼は世界を脅かす魔王よりも、このサビレ村を脅かすゴブリンどもの事で頭がいっぱいだった。
【ゴブリン】
雑魚の代名詞。小説では最初のやられ役として。ゲームでは序盤の経験値稼ぎとして殺されまくる可哀想な存在。見た目は、鼻と耳が長い子鬼のような姿をしており、武器や防具を使いこなしたり、人間の言葉を理解したりと知恵はそれなりにある。但し、複雑な思考は出来ないので、基本的には本能に従った行動をする。
「ちくしょう! またあいつらに、畑を荒された!」
「俺の家の牛も、あいつらに盗まれたんだ!」
「どうしたらいいんだ! このままじゃ、俺達の村はおしまいだ!」
村長の家で開かれた寄り合いでは、最近近くの洞窟に住み着いたゴブリンどもの話で持ちきりだった。大人たちは、口々に被害状況を説明するが、現状を打破するような意見は出ない。そんな彼らの話を外で聞いていたああああは、同じく隣で聞いている相棒のいいいいに小声で話しかけた。
「聞いたか? いいいい」
「聞いたぜ、ああああ」
「情けない大人どもに代わって俺たちがゴブリンどもを退治しようぜ!」
「がってんだ!」
【いいいい】
勇者の仲間につけられる名前として、あまりにも有名。他にも、うううう、ええええ、等があるが、いずれも主人公にはなれない可哀想な名前である。
【ゴブリン退治】
物語の最初のイベントとして用いられる場合が多い。次点は盗賊退治。
ああああといいいいは、ゴブリン達が住む洞窟までやってきた。
「見ろ、いいいい。あそこが奴らの根城だ。見張りのゴブリンがいるぞ」
「どうする、ああああ? 下手に手を出して仲間を呼ばれたら厄介だぞ?」
「大丈夫。こんな事もあろうかと、麻酔銃を用意してきた」
【麻酔銃】
最近の剣と魔法の世界には、銃も取り入られるようになった。ライフル型のこの銃で撃たれた者は、一秒待たずとして眠りに陥る。
「さすがだな、ああああ! まさか剣と魔法の世界に麻酔銃を用意しているとは!」
「当たり前だ。俺様は勇者だぞ? 用意周到無くして勇者は名乗れないのだ。今まさにこの瞬間、剣と魔法の世界は死んだのだ!」
ああああは、見張りのゴブリンに狙いを定め……。
――バアン!
撃った。
弾は見事命中し見張りのゴブリンは倒れた。だが、銃を撃った音に気がついたゴブリンどもがワラワラと洞窟から出てきてしまった。そして、ああああ達はすっかり囲まれてしまった!
「大変だ! 囲まれたぞ! どうする? ああああ!」
「しれたことよ!」
たたかう
まほう
どうぐ
→にげる
ああああは逃げ出した!
だが、ゴブリン達に回りこまれてしまった!
「くそう! こうなったら最後の手段だ!」
ああああは、隣でオロオロしているいいいいの尻を蹴飛ばした。蹴られたいいいいは、ゴブリンどもに突っ込んでいく。ゴブリン達は、いいいいに一斉に襲いかかった!
「ああああ! 助けてぇ!」
「大丈夫だ、後で教会で生き返らせてやるから!」
「そんなあああっ!」
勇者ああああは、逃げ出した。
【教会】
お金さえ払えば死人を蘇らせる事が出来る施設。この世に神も仏も無い。大事なのは、いつの時代も世界も金である。他にも毒の治療を行ったり、次のレベルアップに必要な経験値を教えてくれたり、物語の記録も行ったり出来るなど様々な冒険の手助けをしてくれる便利な場所。
いいいいの尊い犠牲のおかげで無事逃げる事が出来た勇者ああああは、サビレ村には戻らず近くのサカエ町まで来ていた。
【サカエ町】
サビレ村から少し離れた場所にある町。基本ファンタジー世界では、町は村と比べて施設が充実しており、武器や防具等の品揃えも豊富な場合が多い。サカエ町には、他にも酒場がある為、多数の冒険者達が訪れている。
ああああは、教会まで来ていた。自分の為に犠牲になってくれた、いいいいを生き返らせる為である。
「50Gになります」
【G】
ゴールド。剣と魔法の世界で良く用いられている通貨単位。他にも、ガメル、ゼニー、ギル等があるが、この物語ではゴールドを採用している。ちなみに、1G=1000円くらい。
ああああは、自分の財布の中身を見た。所持金は3Gだった。
「金がいるな……」
ああああは、教会を出ると近くの民家に不法侵入した。
「お邪魔しま~す! ちょいと失礼しますよ」
「だ、誰だ! お前は!」
「俺様の名は勇者ああああ! 勇者の特権により、この家の家宅捜査を行う!」
「ひええええっ!」
【家宅捜査】
勇者の特権の一つ。勇者は、どの家にも押し入る事ができ、タンスや机の引き出し、ツボの中にあるものであれば何でも徴収する事が出来る。
片っ端からタンスや机の引き出しを開けまくるああああ。家の住人達は部屋の端っこで、怯えながら固まっていた。
「お? なんだこの豚の貯金箱は?」
【豚の貯金箱】
豚の姿をした可愛い貯金箱。一度入れると、割らない限りお金を取り出せない仕組みになっている。恐らく、その可愛さゆえ割るのに躊躇しお金が貯まる……と言う意図の元作られたのだろうが、だいたい短命で終わる場合が多い。
「そ、それは今月の生活費です! それを持っていかれると私達の生活が……」
「うるせぇ! そんな事、俺様の知った事か! 俺様は勇者様だぞ! お前ら脇役どもは、勇者の役に立ってナンボだろうが!」
「ひええええっ!」
――ガシャアアアアン!
床に叩きつけられ、豚の貯金箱は無残に砕け散った。
「チッ、なんだたったの10Gか。しけてやがるぜ。次だ!」
その後も、次々と民家に押し入る勇者ああああ。町中の民家を回り終えた頃には、所持金は100Gを超えていた。
「よーし、これだけあればいいいいを復活させる事ができる……ん? まてよ? そういや、この町には酒場があったな……」
【酒場】
冒険者達が集まる場所。この場所に行けば、戦士や魔法使いなど様々な職業の仲間を集める事が出来る。全国チェーン展開している、ルイーダ、ギルガメッシュ、和民等が有名。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたああああは、教会では無く酒場へと向かった。
酒場についたああああは、早速店の女主人に話しかける。
「いらっしゃい、今日はどんな用かしら?」
なかまにくわえる。
→なかまをはずす。
なかまをとうろく。
「誰を外すのかしら?」
→いいいい。
「さよなら、いいいいさん」
いいいいと別れた。
「死んだ奴を生き返らせる為に金を払うくらいなら、新しい仲間を加えた方が手っ取り早いぜ。仲間など、ここでいくらでも手に入るんだからな。さて、誰を仲間に加えるかな?」
検討した結果、戦士のうううう、僧侶のええええ、魔法使いのおおおおを仲間にした。ちなみに、自分以外の仲間を全員女にしてハーレム状態を楽しむのは、勇者の特権の一つである。
【戦士、僧侶、魔法使い】
ファンタジー世界における基本職業。
戦士は屈強な肉体を使った戦いを得意とし、あらゆる武器や防具を装備し前衛を務める。
僧侶は回復のエキスパート。傷の治療はもちろん、レベルが上がれば毒、麻痺、石化などあらゆるステータス異常を治療し、死人を蘇らせる事も出来るようになる。
魔法使いは文字通り魔法を使う事が出来る。炎、電、氷などを使った攻撃呪文や、幻影を見せたり眠らせたり仲間を強化したりと多種多様な魔法を使う事が出来る。
「あたいの名は、うううう! この腕っ節が自慢の戦士だぜ!」
「わたしは、僧侶のええええ。勇者様に神のご加護がありますように……」
「ハーイ。私は魔法使いのおおおおよ。攻撃魔法なら任せて!」
「よし、このメンバーで魔王を倒しに行くぜ!」
もはや、ああああの頭の中にサビレ村のゴブリンを退治する事など無かった。小さいどこぞの村なんかの事よりも、魔王を倒し世界を救う事の方が重要だからだ。
そして、彼らの大冒険が今始まった!
それから……。
「ここが、魔王の居る城、ダークキャッスルか……」
長く苦しい冒険の末、ついに勇者達一向は、魔王が居座る巨城ダークキャッスルに辿り着いた。
「おい、まままま。城の様子はどうだ?」
「ハイ、ユウシャサマ。タダイマシラベマス」
激しい戦いの中、死んだ仲間達は次々に酒場に投げ込まれ、勇者のパーティの陣容は、すっかり一新されていた。
オートマタであるままままは、義眼を外すと目の奥から遠視用カメラを伸ばした。透視機能もあるこのカメラを使えば城の様子など手に取るように解かるのだ。
【オートマタ】
現代科学の粋を集めて作られた自動人形。アンドロイドとも呼ばれる。見た目は若い女の子の姿をしているが、体の中にはあらゆる殺戮兵器が組み込まれている。
「サイジョウカイニ、マオウトオモワレルセイメイタイヲハッケン」
「よし、ミサイルを撃ち込め」
「ラジャー」
――ちゅどおおおおおんっ!
オートマタの胸から発射されたオッパイミサイルが、ダークキャッスルの最上階に打ち込まれ大爆発を起こした。城は一瞬にして崩れ落ちた。瓦礫と化した城に潰され、魔王は息絶えていた。
「勝った……。これで世界は俺様のものだああああっ! 勇者ああああ、ばんざああああい!」
「そうはさせないわ!」
「誰だ!」
振り向くと、そこには大勢の人間達が居た。その中心から一人の少女が前に出た。
「私の名前は、ネクロ。これ以上、あなたの暴挙は私が許さないわ!」
「誰だ貴様は? 貴様など知らぬわ!」
「あなたが覚えていなくても、私は覚えている! 家族の幸せを奪ったあなたの顔は絶対に忘れないわ!」
「家族の幸せを奪っただと? 何の話だ!」
「あなたは覚えていないでしょうね。サカエ町で押し入り強盗され、その後路頭に迷って一家心中をした家族の事など! その中で、私だけが奇跡的に生き残り、あなたに復讐を誓ったのよ!」
ネクロは、勇者ああああがサカエ町で最初に押し入り強盗した家族の一人だった。
「ヒャーッハッハッハ! 知るかそんな事! 貴様ら下民どもは、勇者の為に金や情報を提供する為に存在するのだ! そんな奴らが一家心中しようが俺様の知ったことかああ!」
「下郎め……。貴様など勇者なんかじゃない! この手で抹殺してやる!」
「望む所だああああっ!」
「フフフ、貴様にこいつらが倒せるかしら?」
ネクロがサッと手を挙げると、後ろに控えていた大勢の人間が前に出た。ああああは、彼らの顔に見覚えがあった。それは、ああああと一緒に戦って来たかつての仲間達だった。
「こいつらは、ネクロマンサーである私がゾンビとして復活させたお前の仲間達よ!」
【ネクロマンサー】
死者を蘇らせ、己の思い通りに操る事が出来る魔術師の事。肉体がまだ残っている者はゾンビとして、朽ち果てた者はスケルトンとして蘇り操られる。
【ゾンビ】
呪いや魔法によって蘇った生きる屍。腐敗具合にもよるが、生前の記憶を僅かに残している者もいる。生きている人間の肉が好物で、襲われて殺された者は感染してゾンビとなってしまう。
「ああああ、何であの時逃げたんだよ……。ゴブリンに殴られて痛かったんだぞ……」
「お、お前はいいいい!」
「勇者様ああああっ! あたいを置いて逃げるなんて酷いですううううっ!」
「お前は戦士のううううっ! そこに居るのは、僧侶のええええ! こっちには、魔法使いのおおおお!」
「勇者様ああああっ!」
ああああに見捨てられ死んだかつての仲間達が、今ゾンビとなってああああに迫る!
動揺するああああに、ネクロは勝ち誇ったように高笑いをした。
「どう? あなたにこいつらを攻撃できて? かつての仲間達を! あなたの為に犠牲となった可哀想な彼らを!」
「愚問だな」
「うぎゃああああっ!」
躊躇無く勇者から放たれた光球に触れ、いいいいの体が跡形も無く消し飛んだ。
「死人に鞭を打つなんて、な、何て奴……。お前には良心と言う物が無いのか!」
「そんな豚のエサにもならん物など、とうの昔にドブに捨てたわ!」
「おのれ! こうなれば、ネクロマンサー究極奥義! ゾンビ爆弾!」
【ゾンビ爆弾】
ゾンビの体内にダイナマイトを仕掛け、目標もろとも爆発させるネクロマンサーの最強奥義。死体を有効活用する非常にエコロジーな技である。
爆弾と化したゾンビどもが、ああああに向かって次々と迫る。
だが、ああああは不敵な笑みを浮かべると両手を頭上にあげた。大気中の空気が、ああああの手に吸い寄せられ、バチバチと火花を散らす。
「ま、まさかその呪文は、この世で最も強力かつ最凶最悪呪文、メガロドン!」
【メガロドン】
勇者だけが使える最強魔法。広範囲に、空気中の水素を圧縮した核融合反応を誘発し莫大なエネルギーを放出させる。その威力は10.4メガトン級。
「そうだ、こいつで貴様もろとも吹き飛ばしてやるぜ!」
「やめろ! そんな事をしたら、範囲10Kmのあらゆる命が死に絶え、草木も生えない無人の荒野と化してしまうぞ!」
「そんな事、俺様の知った事かあ! くらえ! 究極破壊魔法、メガロドン!」
「やめろおおおおっ!」
――ズドオオオオオオン!
世界は滅亡した……。
完