第17話 囚われの少女と記憶の断片
神崎が放った強烈な時空干渉波が、周囲の空間を激しく引き裂いた。
――ッ! 歴史調査官・九条蓮は咄嗟に特異点シールドを展開し、特別監査官・橘ユウナを庇うようにしてその場に踏み込む。凄まじい衝撃波が二人の体を押し戻し、崩れかけた公家町の廃墟の壁に激しく叩きつけた。
「くっ……! 流石は元・特命調査官ね。機密コードの扱いが私たちとは桁違いだわ」
蓮が口元を拭いながら立ち上がり、特殊ブレードの出力を最大まで引き上げる。
目の前に立つ神崎は、冷ややかな笑みを浮かべたまま、手元の制御端末を操作している。その背後で、禁門の変の炎に煽られるようにして、巨大な時空転移ゲートが不気味な唸りを上げて開き始めていた。
「無駄な抵抗はやめろ、ユウナ。お前がどれほどあがこうとも、歴史の流れを変えることはできない。……いや、変える必要がないのだ。私たちはただ、この最高傑作の時代をそのまま『回収』するだけだからな」
「ふざけないで! 歴史を勝手にコレクションするだなんて、そんな身勝手な理由でどれだけの命や因果が踏みにじられると思っているの!」
ユウナが怒りを押し殺した声音で叫ぶ。しかし、神崎はその言葉を鼻で笑い、冷たく言い放った。
その時だった。神崎の背後に開いたゲートの奥から、突如としてノイズまみれのデータストリームが溢れ出し、ひとりの少女のホログラム映像が空間に投影された。
「――っ、あれは……!?」
蓮が目を見開く。そこに映し出されていたのは、時空の狭間で保護した謎の少女――アリスの姿だった。しかし、現在管理局で保護しているアリスとは異なり、そのホログラムのアリスは無数のデータケーブルに全身を繋がれ、苦悶の表情を浮かべている。
「気づいたか? 彼女こそが、我々『クロノ・クラスト』のマスターサーバーの『中核』だ」
神崎が冷酷な目でホログラムを見据えながら続ける。
「アリスは、あらゆる時代の歴史データを自動で圧縮・記憶するために作られた生体演算ユニットだ。彼女の記憶の断片こそが、この世界線を完全に『固定・冷凍保存』するための鍵となる。お前たちがいくら歴史を修復しようとも、彼女のデータがある限り、我々の計画が揺らぐことはない」
アリスが敵組織の中核だった――。その衝撃的な真実に、ユウナは言葉を失い、その場に膝をつきそうになる。
だが、蓮は一歩も引かず、固く握りしめたブレードを神崎に向けた。
「ふざけた真似を……! 人間をただの『データ蓄積の道具』として扱うなんて、そんな組織の言いなりにさせるか!」
「人間の尊厳だと? くだらない感傷だな。……だが、それを証明できるものならやってみろ」
神崎が冷酷に指を鳴らした瞬間、周囲の空間が一層激しく歪み、彼自身の姿がまるで蜃気楼のようにデータの中へと溶けて消えていく。
ゲートの向こうから押し寄せる強烈な時空嵐が、蓮とユウナの体を容赦なく呑み込もうとしていた。
「逃がすか……!」
蓮は全存在因果を賭けたオーバーロードの構えを取り、消えゆく神崎の背中をめがけて渾身の一撃を放ったのだった。
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【あとがき】
■ 制作裏話
第17話では、物語の核心である謎の少女・アリスの正体――組織のマスターサーバーの「生体コア」であるという衝撃的な事実を明かしました。神崎の冷徹な思想と、アリスを巡る因縁が絡み合うことで、物語の緊張感とサスペンスの度合いをさらに一段階引き上げる構成にしています。
■ 歴史解説・豆知識
禁門の変によって発生した大火は「鉄砲火事」とも呼ばれ、京都市街の約八割を焼き尽くすほどの壊滅的な被害をもたらしました。当時の人々にとって、自分たちの生活基盤や歴史的建造物が一瞬にして灰と化すこの光景は、まさに世界の終わりを予感させるほどの絶望的な出来事だったと言われています。
■ 次回予告
第18話「京の都の最終防衛線、因果の収束」
組織の計画を阻止するため、蓮とユウナはアリスを取り戻す最後の決戦へと挑む――! お楽しみに!
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