第14話 新選組の矜持、近藤勇と交差する因果
未来型の高エネルギー弾が火花を散らして砕け散り、工作員はバランスを崩して後方にたじろいだ。
その隙を逃さず、歴史調査官・九条蓮は踏み込み、特殊ブレードの柄で工作員の腹部を正確に打ち抜く。重い衝撃に耐えきれず、工作員は呻き声を上げながら地面に崩れ落ち、そのまま時空ノイズの中に溶けるように意識を失っていった。
「ふう……どうにか片付いたか」
蓮が息を吐き出しながら端末を確認すると、先ほどまで不気味に明滅していた床下の時空干渉デバイスは、内部回路が焼き切れて完全に沈黙していた。
屋根の上から軽やかな身のこなしで飛び降りてきた特別監査官・橘ユウナが、冷ややかな視線を倒れた工作員に向けながら言う。
「下級の工作員とはいえ、持っている装備は厄介ね。組織はこの幕末の京の都に、いくつもの時空アンカーをばら撒いている可能性が高いわ」
「ああ。これ以上あいつらに勝手な真似はさせない。だが、厄介なのは敵だけじゃない……見てみろ、ユウナ」
蓮が視線を向けたその先――三条大橋の向こう側から、無数の提灯の明かりと、地響きのような荒々しい足音が急速に近づいてきていた。
紺地に「誠」の文字を染め抜いた浅葱色の羽織。紛れもなく、近藤勇や土方歳三率いる新選組の本隊だった。池田屋周辺の時空の歪みが一部解除されたことで、彼らは本来の鋭い勘を取り戻し、一気に敵の潜伏先へと迫ってきたのだ。
「新選組の本隊よ。私たちがここに長居すれば、歴史の修正力に巻き込まれて、彼らから『不審な異国人(あるいは不逞浪士)』として排除される危険があるわ」
「分かっている。だが、今の彼らは組織の工作によって、本来の突入ルートからわずかに位置がズレている。このままでは、屋内にいる長州の志士たちを取り逃すか、あるいは逆に返り討ちに遭う最悪の結末になりかねない」
史実の池田屋事件における新選組の勝利は、緻密な情報収集と奇襲のタイミングが完璧にかみ合った奇跡的なものだった。組織が仕掛けたわずかな時間のズレや情報のノイズは、彼らの勇猛さを以てしても致命的な隙を生む原因になり得る。
「私たちが直接彼らに姿を見せるわけにはいかない。……おい、ユウナ、管理局の『歴史誘導波形発生器』を貸してくれ」
「まさか、新選組の動きを裏から微調整するつもり?」
「ああ。直接干渉せず、風向きや足音の反響、微弱な電磁誘導を錯覚させて、彼らを本来の正しい突入位置へと導く。……歴史の番人の意地を見せてやるさ」
蓮は端末の出力を最大に絞り、新選組の先頭を走る土方歳三の足元の空間に向けて、ごく微弱な干渉波を放った。
――ピリッ、と空気が震える。
その瞬間、鬼の副長と呼ばれる土方が突然足を止め、鋭い眼光で前方の一角を睨みつけた。
「……待て。あそこの路地裏、微かに異臭がする。正面からだけではなく、裏口の守りを厚くしろ!」
土方の的確な指示により、新選組の隊士たちが鮮やかな連携で池田屋の表と裏へと完璧な包囲陣を敷く。
その様子を物陰から見届けながら、蓮は安堵の息を漏らした。
「よし、これで歴史の歯車は正しい噛み合わせに戻った。……行くぞ、ユウナ。次のアンカーを探す」
幕末の夜空の下に響く新選組の突入の鬨の声を聞きながら、二人の調査官はさらなる時空の歪みを断つため、闇の中へと再び走り出したのだった。
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【あとがき】
■ 制作裏話
第14話では、新選組の歴史的名場面である池田屋事件の裏側で、蓮とユウナが「直接姿を見せずに歴史を本来の軌道に誘導する」というスリリングな裏方作業を描きました。土方歳三の鋭さを借りて事態を収める展開を通じて、歴史の重みとキャラクターの魅力が噛み合うように工夫しています。
■ 歴史解説・豆知識
新選組の副長・土方歳三は、非常に冷徹で厳格な規律を敷いたことで知られていますが、同時に卓越した状況判断力と戦術眼を持っていました。池田屋事件の際も、わずか数名の部下で大人数を相手にするにあたり、綿密な下調べと圧倒的なスピード感で敵の度肝を抜いたと言われています。
■ 次回予告
第15話「裏切りの時空座標、管理局の影」
捜査を進める蓮たちの前に、かつての仲間であり、ユウナの過去に深く関わる「元・調査官」の影が立ち塞がる――! お楽しみに!
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