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敗軍しか仲間にならない俺が、歴史を書き換える。  作者: 春野ケイ
幕末動乱編

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11/20

第11話 幕末の幻影、池田屋の暗雲

 慶応元年――いや、歴史の歪みによって本来の時空軸からわずかにねじ曲げられた、夏の京都。

 夏の蒸し暑さと、むせ返るような血なまずい硝煙の匂いが混ざり合う三条小橋の周辺を、歴史調査官・九条蓮と特別監査官・橘ユウナの二人は、息を潜めながら素早く移動していた。周囲は静まり返っているように見えて、その実、張り詰めた殺気が夜の気候を重くしている。

 手元の小型端末が放つ淡い青色の光が、周囲の暗闇に二人の険しい表情を浮かび上がらせる。


「……観測データ通りだ。この時代の空気には、本来あるはずのない『高エネルギー弾の残留粒子』が混ざっている」


 蓮は足を止め、鴨川に近い路地裏の地面に落ちていた微細な金属片を端末でスキャンしながら呟いた。端末の画面には、通常の火薬とは異なる未知のプラズマ反応を示す波形が赤く点滅している。それは明らかに幕末の世には存在し得ない、未来の合金と時空転移技術の明確な痕跡だった。

 大坂夏の陣で対峙した「仮面の男」たちの背後にいる謎の組織――時空改変を企む「クロノ・クラスト」が、すでにこの幕末の京都、それも新選組の歴史的ハイライトである「池田屋事件」の現場に深く食い込んでいる何よりの証拠だった。


「池田屋に踏み込む新選組の突入タイミングが、組織の工作によって数刻ほど意図的に狂わされているわ。このままでは、尊王攘夷派の計画が成功し、長州藩を中心とした過激派志士たちによって京都の街全体が炎の海に包まれてしまう……歴史の根本が完全に書き換わるわね」


 ユウナが愛用の特殊火器の安全装置を確認しつつ、緊迫した声音で指摘する。

 史実の池田屋事件において、新選組は局長・近藤勇や土方歳三らの指揮のもと、わずか数名で長州・土州などの過激派志士の密談場所に踏み込み、見事な奇襲によって京都の大火を未然に防ぎ、その名を天下にとどろかせた。しかし、今回の世界線では、その「奇襲の優位性」が完全に剥ぎ取られようとしていた。

 組織の目的は、単なる歴史の破壊だけではない。この混乱に乗じて未来の兵器サンプルを回収し、歴史の修正力を逆手に取って管理局のセクター全体を崩壊させることだ。


「悠長に構えている暇はないな。奴らはすでに、現場の狂った時間軸を利用して時空結界のアンカーを打ち込もうとしている」


 蓮は羽織の裾を翻し、新選組の隊士たちの足跡を追うように、三条大橋から池田屋へと続く闇の中へと言葉の続きを消した。

 歴史の裏側でうごめく見えざる敵の影を断ち切るため、幕末動乱を舞台にした新たな戦いが、今、静かに幕を開けたのだった。緊迫した空気の中、二人の調査官は歴史の修復を懸け、闇に包まれた京都の街へと深く踏み込んでいく。


---


【あとがき】


■ 制作裏話

第2部の幕開けとなる第11話では、舞台をガラリと変えて幕末の京都・池田屋事件へ突入しました。前回の大阪夏の陣とは打って変わって、市街地での密室劇やスリリングな潜入捜査の雰囲気を意識しつつ、組織「クロノ・クラスト」の新たな陰謀の全貌へと迫る導入を描いています。


■ 歴史解説・豆知識

元治元年(1864年)に起きた池田屋事件は、新選組の名を世に知らしめた最大の転換点です。当時、京都の夏は非常に蒸し暑く、屋内で密談する志士たちはみな衣服を脱ぎ捨てて半裸に近い状態で集まっていました。新選組が踏み込んだ際、その暑さと油断も手伝って激しい斬り合いになったと言われています。


■ 次回予告

第12話「紅蓮の三条小橋」

池田屋への突入時間が狂わされた中、蓮は単身で敵の時空干渉デバイスを破壊するため奔走する――! お楽しみに!


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