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敗軍しか仲間にならない俺が、歴史を書き換える。  作者: 春野ケイ
大坂夏の陣・改変阻止編

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第1話 緋威(ひおどし)の孤影、大坂に散らず

 冷徹な無機質の光を放つモニターの群れが、漆黒の観測室を照らし出していた。

 ここは『歴史管理局』。幾千、幾万もの歴史の分岐点を観測し、記録し続ける、時空の果てにある管理施設だ。


「……まただ。第47観測セクター、日本・元和元年(1615年)の帯域に微小な位相の歪みを確認」


 管制卓の前に座る男――歴史調査官・九条蓮くじょう れんは、手元の端末に表示された波形を見据えながら小さく息を吐いた。

 歴史とは、幾重もの選択と偶然の積み重ねによって編み上げられた絶対の不可逆領域である。勝者が歴史を作り、敗者がその礎となる。それは絶対に揺るがしてはならない大原則だった。

 しかし、直近の観測データは異常を示していた。

 大坂夏の陣、天王寺口の戦い。

 徳川家康の本陣を急襲し、驚異的な猛進を見せた真田幸村の赤備え――その結末が、本来あるべき「史実の戦死」から大きく逸脱している。


「真田幸村が、家康の本陣を完全に粉砕し……生き延びた?」


 データが正しければ、その瞬間から未来の日本史は激しくねじ曲がり始める。徳川幕府の樹立がご破算となり、日本は再び終わりのない戦国時代の混沌へと引き戻されることになるだろう。

 歴史管理局のルールは明確だ。「観測はすれども、干渉は許されず」。

 だが、自然発生した歴史の歪みが大きくなりすぎた場合、世界の崩壊を防ぐため、特例の「修正任務」が発令される。


「……やれやれ。よりによって、あの日本一のひのもといちのつわものの因果に首を突っ込むことになるとはな」


 蓮は席を立ち、管理局の奥深くにある保管庫へと足音を響かせた。

 そこには、歴史の表舞台から消え去った敗者たちが遺した「縁の品」が厳重に収められている。

 真田幸村――本名、真田信繁が最期まで纏っていたとされる緋威ひおどしの鎧片。冷たいガラスケース越しにそれが鈍く赤く光っていた。


 狂った歴史を元の正しい軌道に戻すには、武力ではなく『本来の史実の真実』が必要だ。

 幸村がなぜ史実とは違う執念を見せ、どうやって家康の本陣を突き崩してしまったのか。その狂いが生じた原因(歴史がズレた真因)を突き止めなければならない。


 蓮はケースに手を触れ、管理局に伝わる秘術――『敗者契約』の認証コードを刻んだ。

 視界が急速に歪む。意識が数百年という時空の奔流を逆行し、大坂夏の陣の血煙と火薬の臭いに満ちた戦場へと吸い込まれていく。


「――歴史の歪みを正し、狂った歯車を噛み合わせ直す。それが俺の仕事だ」


 轟く銃声と怒号の中、蓮は運命の戦場へと降り立った。


【あとがき】

■ 制作裏話

記念すべき第1話の執筆にあたり、主人公・蓮が最初に挑む「敗者」を誰にするかすごく悩んだのですが、やはり歴史のIFもしもとして最もロマンがあり、かつ絶望的な状況から始まる真田幸村をオープニングに選びました。現代の管理施設というSF要素と、血なまぐさい戦国末期が混ざり合うこの世界観の空気感を気に入っていただければ幸いです!


■ 歴史解説・豆知識

大坂夏の陣の天王寺口の戦いにおいて、真田幸村(信繁)率いる赤備えは、圧倒的な兵力差を誇る徳川家康の本陣へ決死の突撃を敢行しました。三河武士の代名詞である家康が、あまりの恐怖に二度も切腹を覚悟したという逸話(『薩藩旧記雑録』など)が残るほど、徳川軍を震え上がらせた猛撃として知られています。


■ 次回予告

第2話「史実調査」

大坂の陣の背景と、幸村を包囲した圧倒的な兵力差の構造に迫ります。お楽しみに!


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