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初めて会った彼は



 初めて会った彼はなんというか、私が「今まで会ったことのない人」だった。

 幼稚園を移って一番初めの日。

 彼を見つけた。


 それはとても変な光景だった。


 いや、普通の人なら普通の光景だと思ったかもしれない。

 少しの違和感がしながらも。


 桜が咲き散りゆく木の下、彼は他の子と遊んでいた。

 男の子と女の子混ざって、砂遊び。

 なんてことのない、ごく普通の光景。



 けれど私は気づいてしまった。



 彼の体のあちこちについた「紫の(あざ)

 彼に付きまとう数々の「影」


 他の子は遊ぶ。けれどその「影」の存在など感じていない。

 他の子は彼に笑う。けれど彼のその肌の大部分に広がる「紫」を見ずに。



 そしてもう一つ。



 時たま遊びながらも、彼は……



 「影」を見ていた。



 そして誰にも見えないように小さく、口を動かす


 『いいよ』


 と。

 そして群がる「影」


「――――っ!」


 私は走った。

 彼の遊ぶ元へ、けれど――

 止まった。


 彼とはあと五歩くらいもすればぶつかるほどの距離。

 そこで私は止まった。


 動く「影」

 笑う彼


 いや、「影」ではなく――――時々見たことのあった「人でも幽霊でもないモノ達」


 それらはとても穏やかに嬉しそうに笑っていた。

 彼ととても親密そうに。


 私は一瞬、友達だったのかと足を止めた。

 けれど。



「――――……」



再び動いた。



 だっていやだった。

 「彼ら」が寄るほど紫がどんどん広がるのに、その子は笑っていたんだ。

 

 痛そうなのに、笑っていたんだ。

 そこにいるのに、ちゃんといるのに

 今にも消えそうに思えたんだ。



 いやだった。


 生きている人が、消えてしまいそうに感じるのは。


 だから



「え? な、ええ?!」



 私は走って彼の手を掴んで幼稚園を飛びだした。


 それは衝動的で本能的な行動だった。


 止まることもなく、私は自分の中の誰かが示すどこかへ向かった。

 自分すらわけのわからない行動。

 それはもしかしたら死んだ弟が私に教えたのかも知れない。

 霊が教えてくれたのかもしれない。

 わからない。



 けれど気づくと……


 薄桃色の花びらが落ちる。

 大ぶりの桜の木の下。


 がくんと今まで休むことのなかった足が崩れ地につく。

 私はそこでやっと彼の手を外した。


 そこは公園だった。


 息が上がって体が暑くて、涙が出そうになって……


 しばらく立ち上がれなかった。

 そのそばで彼の戸惑う気配。彼は私ほど息が上がってないようだった。

 うつむく私を見て、そして桜の木を見る気配。


 そこで私はやっと立ち上がった。彼の視線の先にいる者を見るために。


 そこにはこちらをただ見つめる、少年がいた。

 当時の私にしてみたら年上のお兄さん。

 その少年は桜の枝に座っていた。

 それだけなら特に気にすることじゃない。


 その少年は赤銅の長髪を一つにくくり、中華舞踊の衣装に身をつつみ、黄金の眼をしていたんだ。

  

 少年は人あらざる者だった。


「……お前見えるの?」


 その時になって隣りの男の子は私に初めて話しかけた。

 私は振り返る。

 

 その時さぁっと風が吹いて花びらが舞った。


 私の眼に映るのは、桜の花びらが舞い散る中驚いた顔をしたとても優しい男の子。


 私は幼いながらも理解した。


 紫色の痣は見る見るうちに薄れていったけれど、それは人ではない者に精気を与えていた証。

 そして人ではない――――妖怪・物の怪が彼の痣を気にかける眼差しで見ていた。


 だから。


「……とても、やさしいんだね」


 紫が消えていって、彼の眼は「生きている者」の眼になっていたから。


「……よかった」


 私は笑った。

 久しぶりに、家族以外の人の前で「笑み」と他の人がわかる「笑み」を。


 息を飲む彼の気配。

 それを妖怪達は目を瞬かせて、でも嬉しそうに笑いながら見ていた。

 それを赤銅の少年はふっと笑いながら、肘をついて見ていた。


 それが私と彼の出会い。


「……――っ!」


 彼が私の元へかけてくる。


 私は戻った無表情な顔をわずかにかしげながら彼を見る。


 そして。

 


「オレとケッコンして!」



 抱きつかれて叫ぶように告げられた。



「……なんで?」

「ほれた!」

「……」


 私は開いた口がふさがらなかった。ただ、わけがわからなかった。

 けれど彼は笑う、私を見てとても恍惚と、そして優しく私の手に触れる。


「オレっまさおかくにたけっ。オレお前とケッコンする!」


 もはや断定的な言葉。

 私に向けられる強い目。

 意味が分からなかった。

 すべて。

 それに私は顔をひそめて、口を開いた。


「……やだ」


 固まる彼。

 けれど次の瞬間。


「すっげぇかわいいっ食いたいほどかわいいっ、もう死ぬ!」


 そう言って再び飛びつくように抱きついてこようとした彼を私は避けた。

 彼がべしゃりと地につく音。

 けれど顔を上げるとにっこにこして笑いかけてくる彼。


「うへへっ、かわいいっ」

「……へんたいだ」




 それが彼との出会い。





邦雄と錦の出会い話でした。

この日から邦雄のスト―キング的熱愛追っかけライフが始まります。

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