卒業旅行編
卒業式が終わって、
制服を着る理由がなくなった日。
それでも、
集まる理由はまだ残っていた。
同じ音を追いかけ、
同じ時間を過ごしてきた仲間たちと行く、最後の旅。
これは、
「さよなら」のための旅行じゃない。
それぞれが、
次の未来へ進むための――
ほんの少し立ち止まる時間の物語。
(結月視点)
集合場所に着くと、すでに何人か集まっていた。
私服姿の部員たち。
見慣れているはずなのに、どこか新鮮だ。
「結月、おはよー!」
声をかけられて手を振る。
そのとき、少し遅れて蒼真が来た。
「……おはよう」
いつも通りのはずなのに、
私服の蒼真は、少しだけ大人っぽく見える。
「なに見てんの?」
「見てない!」
即答すると、周りから笑いが起きた。
「もう隠す気ないだろー」
「新婚旅行みたいなもんじゃん」
「ち、違うから!」
慌てる私を見て、蒼真は肩をすくめる。
「今さらだろ」
……ずるい。
――――――――――
(蒼真視点)
移動中の車内は、ずっと騒がしかった。
思い出話が止まらない。
結月は隣の席で、
最初は話していたのに、
いつの間にか眠っていた。
肩に、少し重み。
動けない。
起こすのも、もったいない。
「……ほんと、ここまで来たんだな」
窓の外を流れる景色を見ながら、
静かにそう思った。
――――――――――
(結月視点)
海の街は、風が気持ちよかった。
食べ歩きをして、写真を撮って、
何でもないことが、全部楽しい。
自然に、蒼真の手が伸びてくる。
一瞬迷って、
でも、ぎゅっと握り返した。
「……手、離すなよ」
「うん」
それだけで、胸がいっぱいになる。
――――――――――
(蒼真視点)
夕方。
みんなが宿に戻り始める中、
俺と結月は、少しだけ浜辺に残った。
波の音。
夕焼け。
ここだ、と決めていた。
「なあ、結月」
足を止める。
「今すぐじゃなくていい」
結月が、不安そうにこっちを見る。
「でもさ……ずっと一緒にいたい」
喉が、少しだけ震えた。
「将来、結婚を約束してほしい」
――言った。
――――――――――
(結月視点)
頭が、真っ白になった。
波の音も、風も、
全部遠くなる。
「……そんなの」
涙が、勝手に溢れる。
「断るわけ、ないじゃん……」
顔を上げて、はっきり言う。
「うん。よろしくお願いします」
蒼真の目が、少し潤んだ。
そっと、抱きしめられる。
――――――――――
「おめでとー!!!!!」
突然の拍手と歓声。
「えっ!?」
振り返ると、
みんなが砂浜の端から出てきた。
「聞いてたぞー!」
「プロポーズ現場初めて見た!」
「ちょっと!!」
顔が熱い。
蒼真の後ろに隠れると、
「最初から気づいてたろ」
苦笑される。
でも、離れなかった。
――――――――――
「キース、キース、キース」
誰かがキスコールを始めた
「キキキ、キスッ!?」
心臓がうるさい、顔が熱いのダブルパンチ
そう思ってると蒼真が近づいてきて
「しゃーねーな」
と言って
チュ
「おーーーーーー!!!」
周りからの歓声が
「ちょっ!?蒼真くん!?」
「いや、どうせ結婚式でするんだからいいだろ?」
何も言い返せなかった
けど、とても嬉しかった
――――――――――
(蒼真視点)
夜の食事会。
結月は、当たり前のように俺の隣。
「指輪は?」
「まだだよ!」
騒がしくて、
うるさくて、
でも、最高の時間だった。
「約束、守るから」
小さく言うと、
結月は静かに頷いた。
――――――――――
(結月視点)
帰り道。
窓に映る夜景。
蒼真の手が、また私の手を包む。
「不安、ない?」
「……少しはある」
でも。
「蒼真がいるなら、大丈夫」
手に、力がこもる。
――――――――――――――――――――
風のリード、光のベル 完
卒業は、終わりじゃない。
それは、選び取る未来の始まりだ。
同じ音を追いかけた日々は、
もう戻らない。
それでも、
その時間があったから、
二人は同じ場所に立てた。
砂浜で交わした約束は、
大きな言葉じゃない。
でも、
これ以上ないほど確かなものだった。
――青春は、
確かにここにあった。




