三年生引退式編3『送られる側になった二人』
(結月視点)
ホールの空気は、まだ熱を残していた。
拍手も、音も、もう消えているのに、胸の奥だけがざわざわしている。
楽器を片付け終えて、制服に着替えたとき、
急に現実に引き戻された気がした。
「……ほんとに、終わったんだ」
ぽつりと呟いた声は、誰にも届かない。
椅子が並べられ、三年生は前列へ。
いつもなら楽器を抱えているはずの手が、今日はやけに軽い。
「結月、こっち」
後輩に呼ばれて席に着く。
視線を上げると、少し離れた場所に蒼真がいた。
目が合う。
何も言わない。
それでも、ちゃんと分かる。
――大丈夫だよ、って。
(蒼真視点)
顧問が前に立つ。
マイクを通した声が、いつもより低く響いた。
「本日をもって、三年生は引退となります」
その一言で、胸の奥に何かが落ちた。
ああ、これで本当に終わりなんだ。
部長として立っていた日々。
怒ったことも、悔しかったことも、
全部が一気に押し寄せる。
横を見ると、結月が俯いていた。
肩が、少し震えている。
(結月視点)
名前を呼ばれて、前に出る。
拍手が近い。
さっきの演奏のときより、ずっと近く感じる。
顧問から記念品を受け取るとき、
「よく頑張ったな」
その一言で、涙が溢れそうになった。
席に戻る途中、
蒼真と目が合う。
小さく、頷いてくれた。
それだけで、また泣きそうになるから、
慌てて前を向いた。
(蒼真視点)
三年生代表スピーチ。
マイクを握ると、思ったより手が重い。
「三年間、楽しいことばかりじゃありませんでした」
自然と、言葉が出てくる。
勝てなかった大会。
ぶつかった練習。
それでも続けた理由。
視線の先に、結月がいる。
真剣に、こちらを見ている。
「でも――」
声が、少しだけ詰まる。
「この仲間と、この音で、ここまで来られて良かったです」
拍手が起きる。
マイクを置いた瞬間、肩の力が抜けた。
(結月視点)
後輩からの言葉。
泣きながら話す姿に、もう耐えられなかった。
サプライズの演奏。
私たちが一番好きだった、あの曲。
音を聞いた瞬間、
堰を切ったように涙が溢れる。
「……っ」
どうしよう、止まらない。
そのとき、そっとハンカチが差し出された。
「ほら」
蒼真の声。
顔を上げられないまま、受け取る。
「ありがとう……」
小さく言うと、
「どういたしまして」
と、同じくらい小さな声が返ってきた。
(蒼真視点)
「三年生、退場」
拍手の中を歩く。
振り返らない。
全部、胸にしまっておく。
ホールの外に出たとき、
結月が立ち止まった。
肩が震えている。
周りには人がたくさんいる。
誰も冷やかさない。
ただ、そっと距離を取ってくれている。
俺は、結月の隣に立った。
「……終わったな」
「……終わっちゃった……」
結月の声は、完全に泣いていた。
何も言わず、肩を貸す。
結月は、少しだけ体重を預けてきた。
(結月視点)
蒼真の肩は、あったかい。
「部活、なくなっちゃったね」
「なくならないよ」
「え?」
「思い出は」
その言葉に、また泣いてしまう。
「……ばか」
そう言いながら、少し笑った。
(蒼真視点)
ホールの灯りが、ゆっくり消えていく。
「これからはさ」
結月が顔を上げる。
「部長と副部長じゃなくて」
一拍、間を置いて。
「蒼真と、結月な」
結月は、驚いた顔をしてから、
泣き笑いで頷いた。
――これでいい。
音楽は終わっても、
俺たちは、まだ続いていく。
(結月視点)
ホールの空気は、まだ熱を残していた。
拍手も、音も、もう消えているのに、胸の奥だけがざわざわしている。
楽器を片付け終えて、制服に着替えたとき、
急に現実に引き戻された気がした。
「……ほんとに、終わったんだ」
ぽつりと呟いた声は、誰にも届かない。
椅子が並べられ、三年生は前列へ。
いつもなら楽器を抱えているはずの手が、今日はやけに軽い。
「結月、こっち」
後輩に呼ばれて席に着く。
視線を上げると、少し離れた場所に蒼真がいた。
目が合う。
何も言わない。
それでも、ちゃんと分かる。
――大丈夫だよ、って。
(蒼真視点)
顧問が前に立つ。
マイクを通した声が、いつもより低く響いた。
「本日をもって、三年生は引退となります」
その一言で、胸の奥に何かが落ちた。
ああ、これで本当に終わりなんだ。
部長として立っていた日々。
怒ったことも、悔しかったことも、
全部が一気に押し寄せる。
横を見ると、結月が俯いていた。
肩が、少し震えている。
(結月視点)
名前を呼ばれて、前に出る。
拍手が近い。
さっきの演奏のときより、ずっと近く感じる。
顧問から記念品を受け取るとき、
「よく頑張ったな」
その一言で、涙が溢れそうになった。
席に戻る途中、
蒼真と目が合う。
小さく、頷いてくれた。
それだけで、また泣きそうになるから、
慌てて前を向いた。
(蒼真視点)
三年生代表スピーチ。
マイクを握ると、思ったより手が重い。
「三年間、楽しいことばかりじゃありませんでした」
自然と、言葉が出てくる。
勝てなかった大会。
ぶつかった練習。
それでも続けた理由。
視線の先に、結月がいる。
真剣に、こちらを見ている。
「でも――」
声が、少しだけ詰まる。
「この仲間と、この音で、ここまで来られて良かったです」
拍手が起きる。
マイクを置いた瞬間、肩の力が抜けた。
(結月視点)
後輩からの言葉。
泣きながら話す姿に、もう耐えられなかった。
サプライズの演奏。
私たちが一番好きだった、あの曲。
音を聞いた瞬間、
堰を切ったように涙が溢れる。
「……っ」
どうしよう、止まらない。
そのとき、そっとハンカチが差し出された。
「ほら」
蒼真の声。
顔を上げられないまま、受け取る。
「ありがとう……」
小さく言うと、
「どういたしまして」
と、同じくらい小さな声が返ってきた。
(蒼真視点)
「三年生、退場」
拍手の中を歩く。
振り返らない。
全部、胸にしまっておく。
ホールの外に出たとき、
結月が立ち止まった。
肩が震えている。
周りには人がたくさんいる。
誰も冷やかさない。
ただ、そっと距離を取ってくれている。
俺は、結月の隣に立った。
「……終わったな」
「……終わっちゃった……」
結月の声は、完全に泣いていた。
何も言わず、肩を貸す。
結月は、少しだけ体重を預けてきた。
(結月視点)
蒼真の肩は、あったかい。
「部活、なくなっちゃったね」
「なくならないよ」
「え?」
「思い出は」
その言葉に、また泣いてしまう。
「……ばか」
そう言いながら、少し笑った。
(蒼真視点)
ホールの灯りが、ゆっくり消えていく。
「これからはさ」
結月が顔を上げる。
「部長と副部長じゃなくて」
一拍、間を置いて。
「蒼真と、結月な」
結月は、驚いた顔をしてから、
泣き笑いで頷いた。
――これでいい。
音楽は終わっても、
俺たちは、まだ続いていく。
拍手が鳴り止んだあと、
音のない時間がやってくる。
定期演奏会という大きな舞台を終え、
三年生たちは楽器を置き、
ひとつの区切りに向き合う。
引退式は、華やかじゃない。
でも、胸の奥に一番深く残る。
これは、
音楽を続けてきた証を手放す日であり、
それでも前に進むと決める日の物語。




