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結月が消えた一日編

春。

新しい役職、新しい責任、新しい期待。

それらは、少しずつ人の心を重くする。


強くなったつもりでも、

大丈夫だと笑えていても、

本当は、誰かに気づいてほしい夜がある。


これは、

副部長として迷い、

一人で歩き出してしまった少女と、

その背中を必死に追いかけた少年の物語。

(蒼真視点)


朝練の時間になっても、結月が来ない。


「……あれ?」


最初は気にしてなかった。

たまにある、寝坊とか、体調不良とか。

でも。


スマホを開く。

未読。


もう一度。

やっぱり、未読。


「結月……?」


胸の奥に、嫌な感覚が広がる。


授業が始まっても、

結月の席は空いたままだった。


「今日、井上休み?」

「知らない」


――おかしい。


昼休み。

顧問から呼ばれた。


「中村、井上さんの件なんだが……」

「はい」


「昨夜から、帰っていないそうだ」


一瞬、音が消えた。


「……え?」


(結月視点)


副部長って、

もっとちゃんとした人がなるものだと思ってた。


後輩に注意したら、泣かせてしまった。

「すみません」って言われたのに、

胸が苦しくなった。


(私、間違ってたのかな)


家に帰っても、考えてしまう。


蒼真くんに話そうかと思った。

でも。


(部長に弱音吐く副部長って……)


気づいたら、靴を履いていた。


「ちょっとだけ……歩くだけ」


夜風が冷たかった。

気持ちを落ち着かせたかっただけなのに、

知らない道に入ってしまった。


気づけば、周りは木ばかり。


「……あれ?」


スマホを見る。

電池、残りわずか。


日が沈む。


怖い。


「……蒼真くん」


無意識に、名前を呼んでいた。


(蒼真視点)


部員と手分けして探した。


駅。

公園。

通学路。


どこにも、いない。


「森の方かもしれない」


誰かの一言で、走り出した。


「結月ー!!」


声が枯れても呼ぶ。


(なんで、気づかなかった)


(隣にいるって言ったくせに)


足元は暗く、

枝が腕に当たる。


それでも、止まらなかった。


「結月!!」


(結月視点)


もう、歩けなかった。


足が痛くて、

暗くて、

音が怖くて。


しゃがみ込んで、

膝を抱える。


「……副部長なのに」

「私、だめだ……」


涙が止まらない。


そのとき。


「……結月?」


聞き覚えのある声。


「……え?」


「結月!!」


名前を呼ばれた瞬間、

全部が崩れた。


(蒼真視点)


闇の中に、結月がいた。


泣いて、震えて、

小さくなって。


「……見つけた」


考えるより先に、

近づいていた。


「結月……!」


抱き寄せた。

離したくなかった。


「……蒼真、くん……」


(結月視点)


蒼真くんの胸は、

温かかった。


「……怖かった……」

「一人が、嫌だった……」


声が震える。


「ごめんなさい……」

「迷惑、かけて……」


ぎゅっと、強くなる腕。


「謝るな」


低い声。


「一人でいなくなるな」

「俺が、探すに決まってるだろ」


「……来てくれて、ありがとう」


顔を上げる。


「蒼真くんじゃなきゃ、だめだった……」


(蒼真視点)


その一言で、全部報われた。


「恋人なんだから」


そっと、上着をかける。


「副部長でも、弱っていい」

「俺に頼れ」


結月が、

小さくうなずいて、手を握ってきた。


(結月視点)


森を出る道。


蒼真くんの手は、

ずっと離れなかった。


夜が、少しだけ怖くなくなった。


(……戻ってこれた)


一人じゃないって、

こんなに強いんだ。

強さとは、

一人で立つことじゃない。


迷ったときに、

誰かの名前を呼べること。

そして、

その声に応えてくれる人がいること。


あの夜、

二人は同じ道に戻った。


手を離さずに。


青春は、

迷いながらも、

ちゃんと前に進んでいく。

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