番外編其ノ二『ふたりのクリスマス編』
冬が深まり、校舎の窓から見える景色も少しずつ色を失っていく頃。
吹奏楽部は次の目標へ向けて動き出し、
結月と蒼真の日常も、穏やかに続いていた。
恋人になってからの日々は、
大きく変わったようで、変わっていない。
それでも、確かに違うのは――
「一緒に過ごす時間」が、少しずつ特別になっていること。
そして訪れる、初めてのクリスマス。
その始まりは、何気ない教室の休み時間だった。
(結月視点)
昼休みの教室は、暖房が効いていて眠くなる。
私は自分の席で、譜面に小さな書き込みをしていた。
「ここの入り、ちょっと早いかも……」
そう呟いたとき、横から声がした。
「なあ結月」
顔を上げると、蒼真くんが机の横に立っている。
「来週の金曜、放課後って空いてる?」
「え? うん……たぶん大丈夫だけど」
深く考えずに答えた、その次の言葉。
「駅前のイルミネーション、始まるらしいんだ」
「一緒に行かない?」
――一瞬、頭が真っ白になった。
(イルミネーション……?)
(夜……?)
(二人で……?)
(それって……デート……!?)
「え、えっと……」
顔が一気に熱くなるのが分かる。
「おー、クリスマスじゃん」
「結月、顔赤い」
周りから飛んでくる声に、さらに慌てる。
「ち、違っ……!」
そんな私を見て、蒼真くんは少し照れたように言った。
「デート、でいいけど」
心臓が跳ねた。
「……行く」
小さな声だったけど、ちゃんと届いたらしい。
蒼真くんは、安心したように笑った。
(蒼真視点)
正直、誘うときは緊張した。
付き合っているとはいえ、
ちゃんと「デート」として誘うのは初めてだったから。
放課後の部活。
結月はいつもより落ち着きがなくて、
音を外しては恥ずかしそうに笑う。
「寒くなってきたな」
そう言うと、結月は一瞬こちらを見る。
「……うん」
その反応だけで、
ああ、ちゃんと意識してくれてるんだな、と思った。
(結月視点)
当日まで、ずっとそわそわしていた。
服を選んではため息、マフラーを当てては外す。
(デート……だよね)
自分で思って、また恥ずかしくなる。
(蒼真視点)
待ち合わせの駅前。
夕方になり、イルミネーションが一斉に灯る。
そこに現れた結月を見て、
言葉が少し遅れた。
「……似合ってる」
「そ、そう?」
「うん。……すごく」
それだけで、結月が少し照れたのが分かった。
(結月視点)
イルミネーションの光が、街を包んでいる。
人混みの中、肩が触れそうな距離。
不意に、手袋越しに手を取られた。
「……寒いだろ」
「う、ううん」
寒くはない。
ただ、心臓がうるさいだけ。
(蒼真視点)
少し人の少ない場所で、立ち止まる。
「こういうのさ……正直、緊張してる」
結月が驚いた顔をする。
「蒼真くんも?」
「当たり前だろ。好きな人とだし」
言ってから、少し照れた。
(結月視点)
帰り道、手を繋いだまま。
「今日、すごく楽しかった」
そう言うと、蒼真くんは迷いなく答えた。
「俺も。来年も、一緒に来よう」
「……うん」
白い息が夜に溶けていく。
イルミネーションよりも、
隣を歩くその人の存在が、何よりあたたかかった。
特別なことは、何もしていない。
ただ一緒に歩いて、同じ景色を見ただけ。
それでも、
この冬の夜は、確かに特別だった。
音楽のように、
少しずつ重なっていく気持ち。
結月と蒼真の青春は、
静かに、でも確かに、続いていく。




