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冬の校内ペアアンサンブルコンテスト編

冬の冷たい空気が、校舎の廊下を静かに満たす季節。

関東大会を終えた吹奏楽部は、少し肩の力を抜きながらも、

次の目標へと歩き出していた。


そんな中で発表された、校内行事――

ペアアンサンブルコンテスト。


二人で音楽を作るという、

シンプルで、だからこそ誤魔化しのきかない舞台。


結月と蒼真にとってそれは、

恋人としてではなく、

演奏者として向き合う時間の始まりだった。

結月視点)


「じゃあ、ペア決めよっか!」


部長の一声で、部室が一気にざわついた。

あちこちで名前が呼ばれて、笑い声が上がる。


私はクラリネットをケースにしまいながら、

少しだけ視線を動かした。


――蒼真くん、誰と組むんだろ。


その瞬間だった。


「蒼真、一緒にやろーぜ」


同級生の男子が、軽い調子で声をかける。

私は、なぜか動きを止めてしまった。


すると、蒼真くんはほとんど間を置かずに言った。


「悪い、俺 結月とやるは」


……え?


「えっ!?」


思わず声が出た。

部室が一瞬、静まり返る。


次の瞬間――


「は!?即決!?」

「今の聞いた!?」

「はいはいごちそうさまでーす!」


一気に冷やかしの嵐。


「ち、ちがっ……!

まだ何もちゃんと……!」


慌てる私をよそに、

蒼真くんは少し照れた顔で言う。


「相性も分かってるし。

一緒にやるなら、ちゃんとやりたいから」


……心臓が、うるさい。


こうして、私たちのペアは

半ば公然と決まってしまった。


(蒼真視点)


選曲は、思った以上に真剣だった。


「この曲、クラリネット目立つね」

「でもトランペットが強すぎるかも」


結月の意見を聞きながら、

譜面を指でなぞる。


恋人だからじゃない。

演奏のパートナーとして、対等でいたい。


でも、練習が始まると、

問題はすぐに見えてきた。


俺の音が、前に出すぎている。


「……」


結月は何も言わない。

でも、表情が少し硬い。


「俺、ちょっと出すぎてるよな」


そう言うと、

結月は一瞬驚いてから、頷いた。


「うん……でも、言えなかった」


その一言が、胸に刺さった。


(結月視点)


冬の夕方。

誰もいない音楽室。


「恋人だから、遠慮しちゃうの、嫌で」


私は、思い切って言った。


「ちゃんと、二人で音楽やりたい」


蒼真くんは、黙って聞いてくれていた。


「……ごめん。

俺、無意識に引っ張ろうとしてた」


その言葉で、

胸の奥がすっと軽くなる。


「もう一回、最初からやろ」


その音は、不思議なくらい、

自然に重なった。


(蒼真視点)


本番当日。

冬の体育館は、静かだった。


「いける?」

「うん」


短く目を合わせて、演奏を始める。


結月の音を聴く。

自分の音を抑える。


――二人で、ひとつ。


最後の音が消えたあと、

静かな拍手が広がった。


(結月視点)


結果発表。


「最優秀賞は――」


「――井上・中村ペア!」


名前が呼ばれた瞬間、

頭が真っ白になった。


「……私たち?」


「え、やば」


周りが一斉に拍手する。


「おめでとー!」

「やっぱりな!」


蒼真くんと目が合って、

二人で思わず笑った。

二人で音を合わせることは、

簡単じゃない。


でも、ちゃんと向き合えば、

音は応えてくれる。


最優秀賞は、結果にすぎない。

本当に大切だったのは、

同じ方向を向いて演奏できたこと。


冬の冷たい空気の中で、

結月と蒼真は、

また一つ、確かな時間を積み重ねた。


音楽も、青春も、

まだ続いていく。

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