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番外編其ノ一『私から見た結月先輩と蒼真先輩』

吹奏楽部に入って、季節がひとつ巡った。

最初は楽器を持つだけで精一杯だった毎日も、

気づけば「部活があるのが当たり前」になっている。


そんな中で、私がいつも目で追ってしまう二人の先輩がいた。

優しくて、丁寧で、初心者の質問にも真剣に向き合ってくれる

クラリネットの 井上結月先輩。

落ち着いていて、言葉は少ないけれど、

音でも行動でも周りを支えている

トランペットの 中村蒼真先輩。


二人は特別に目立つわけじゃない。

でも、なぜか一緒にいるときだけ、

部室の空気が少しだけ柔らかくなる気がして――

私はその理由を、まだ知らなかった。(ひなた視点)



(ひなた視点)


昼休みの部室は、放課後よりも静かだ。

譜面台を立てる音と、遠くから聞こえる運動部の声だけが響いている。


私はフルートケースを開けながら、ちらっと前を見る。

結月先輩が椅子に座って譜面に書き込みをしていた。


「結月先輩、ここって……」


思い切って声をかけると、

先輩はすぐ顔を上げて、にこっと笑った。


「うん、そこは息の流れを意識するといいよ」


その横に、いつの間にか蒼真先輩が立っている。

何も言わないけど、結月先輩の譜面を一緒に覗き込んでいた。


――あれ?

この二人、よくこの距離にいる気がする。


「白石さん、ここは焦らなくていいからね」


結月先輩の声に頷きながら、

私は心の中で首をかしげた。


放課後の合奏前。

結月先輩の譜面台が少しぐらついているのを見つけた蒼真先輩が、

何も言わずに直していた。


「ありがとう」


結月先輩がそう言うと、

蒼真先輩は「ん」と短く返す。


会話はそれだけ。

なのに、なんだか……通じ合ってる感じがする。


隣にいた同級生に、小声で聞いてみた。


「ねえ、あの二人ってさ……仲、良いよね?」


「え?普通じゃない?」

あっさり返されてしまったけど、

私は納得できなかった。


片付けの時間。

結月先輩が少し疲れた顔で肩を回していると、

蒼真先輩が小さな声で言った。


「無理すんなよ」


「うん、大丈夫」


結月先輩はそう言って笑ったけど、

その笑顔が、他の先輩に向けるものと少し違う気がした。


――これはもう、気のせいじゃない。


帰り道、私は友達にぽつりと漏らした。


「結月先輩と蒼真先輩って……

付き合ってるかどうかは分からないけどさ」


「分からないけど?」


「すごく、いい先輩たちだと思う」


音楽のことも、人のことも、

ちゃんと大切にしている感じがして。

もし本当に恋人同士だったとしても、

なんだか納得できてしまう。


合奏が始まると、

前の方で結月先輩と蒼真先輩の音が重なる。


安定していて、優しくて、

全体を支えている音。


私はフルートを構えながら、思った。


――ああ、私もいつか、

あんな先輩になれたらいいな。

結月先輩と蒼真先輩は、何も語らない。

けれど、周りはちゃんと見ている。


言葉にしなくても伝わる距離感。

音楽を通して育った信頼。

それが、部活全体の空気を少しだけ温かくしている。


後輩の私にできるのは、

その背中を見て、真似をして、

一歩ずつ前に進むことだけ。


恋も、音楽も、青春も。

きっと全部、同じ場所で続いていく。

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