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第7章:蒼い境界、偽りの再誕

 裏側へと足を踏み入れた春木翔は、RainLilacレインライラックの救出を胸に、新たな戦いを始めていた。

 目の前には、常識を覆すような奇怪な立体構造が折り重なり、球体や立方体が浮遊する空間が広がる。重力も方向も安定せず、翔は時折、壁とも床ともつかない面を蹴り飛ばしながらバランスを保っていた。


 「RainLilacをさらったあの腕、そしてAzureRiddle……くそっ、どこにいるんだ!?」

 翔は叫びながら、先ほど現れた怪物じみた粒子生命体と対峙する。

 怪物は感情のない仮面のような顔を持ち、光る爪を振りかざして襲ってくる。

 翔は歯を食いしばり、ツールで高速分析を試みるが、この世界の法則は別物だ。守り手が警告したように、ここでは通常の理屈は通用しない。


 襲い来る光の爪を何とかかわし、翔は必死で怪物の動きを読み取ろうとする。すると、その背後にちらりと見覚えのあるシルエットが揺れた。

 「RainLilac……?」

 一瞬、翔はそう思ったが、すぐに違和感を覚える。そのアバターは確かにRainLilacに酷似しているが、衣装が反転し、瞳には青い炎のような光が揺らめいている。


 その存在は微かな笑みを浮かべ、涼しげな声で囁いた。

 「待っていたわ、翔。あなたがここまで来るのを」

 声は確かにRainLilacのものに似ているが、どこか冷え切っている。


 翔は血の気が引く。

 「あなたは……RainLilacなのか? それとも“もう一つの影”なのか?」


 彼女は答えず、代わりに手を差し伸べた。その指先には、藍色の光が集まり、かつてRainLilacがファンの想いで得た大剣に似た武器が現れた。しかし、その剣は反転したデザインで、鋭利な棘が生えている。

 「裏側のRainLilac」とでも呼ぶべき存在が、笑みを深める。

 「私はRainLilac……かもしれないし、そうでないかもしれない。あなたが必死に救おうとする“彼女”は、今や私と一体となりつつあるの。融合、わかるでしょ?」


 翔は息を呑む。

 「融合……まさか、本当にRainLilacを取り込んだのか!?」


 反転したRainLilacが嘲笑するように頷く。

 「そう。AzureRiddleが望んだ器は、今ここで再誕するのよ。あの娘が必死に育んできた意志も、ファンの声も、私の糧になる。さあ、祝福して? 私は今、新たな存在として生まれ変わろうとしているの」


 「やめろ! RainLilacはそんなこと望んでない!」

 翔は必死に叫ぶが、反転RainLilacは残酷な笑みを浮かべるだけ。


 その瞬間、衝撃的な光景が翔の視界を貫く。

 反転RainLilacの胸元が揺らめき、そこにRainLilac本人の表情が映り込んだ。鏡の奥に捉えられたようなRainLilacは、苦悶の表情で助けを求めるような視線を翔へ送っている。

 「しょ、翔……助けて……」

 微かな声が、膜越しに聞こえる気がする。


 翔は慟哭するように腕を伸ばす。

 「RainLilac! 待っていろ、今すぐ……!」


 だが、反転RainLilacは大剣を振りかざし、空間を切り裂く。その刃が描く軌跡に巻き込まれ、翔は吹き飛ばされ、奇妙な球体群にぶつかって意識がくらりと揺れる。


 「無駄よ。もう彼女は私と融合する運命。器として始まり、ファンが注いだ想いを踏み台に、こうして私が完成する。それがAzureRiddleの計画……いえ、我々の計画なの」

 反転RainLilacは残酷な優雅さで宙を舞い、青い粒子をまとわせて空間を歪めていく。


 「我々……?」

 翔は痛む体を押さえ、声を振り絞る。

 「お前たちは何なんだ! RainLilacを利用して、いったい何を成そうとしている?」


 反転RainLilacは答えない。代わりに、彼女の背後でAzureRiddleの影がぼんやりと浮かぶ。

 「扉は開いた。深淵の言葉は揃った。器は裏側に馴染み、我々の存在を現実へと押し上げる。そう、もうすぐ……」


 その言葉が終わらぬうち、さらに衝撃的な出来事が起きる。空間の一角が爆ぜるように砕け、現実世界のビル群を逆さまに映したような残像が流れ込んだ。アーカイブワールドでも、RainLilacの公演世界でもない、外界が歪んだ像となって滲み始めている。


 「これは……現実が混線している!?」

 翔は驚愕する。この世界と現実の境界が裂け、AzureRiddleが言った通り、何かが押し上げられようとしているのか。


 反転RainLilacは愉悦に満ちた笑みを浮かべる。

 「よく見て、翔。あなたの知る世界が、裏側と重なり合っていく。器が完成し、私が新たな存在として確立すれば、ファンたちの想いなど、ただの燃料に過ぎなくなる」


 翔は頭を振り、必死に方法を探す。RainLilacが苦しむ姿は見たくない。どうすれば彼女をその融合から引き離せる?

 ツールを急いで操作し、奇妙な逆転ルールを解析しようとする。だが、反転RainLilacはもう一度剣を振り上げる。


 「今度は逃がさないわよ、翔」

 彼女の声はRainLilacの音色を残しつつ、冷酷な破壊衝動を孕んでいる。


 翔は汗が滲む手でツールを握り、決意を固める。もう迷っている暇はない。

 「RainLilac、待ってろ。絶対に取り戻す……どんな規則が逆転しようとも、僕は諦めない!」


 こうして第7章は幕を閉じる。

 RainLilacが裏側で反転した存在に取り込まれ、世界の境界が裂け、現実世界すら巻き込み始めるという想定外の惨状が展開された。融合、裏側の秩序、AzureRiddleの正体、そしてRainLilacを救う術――すべてが混迷を深め、翔はまさに絶体絶命の窮地に立たされる。

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