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第4章:揺らめく原点、記憶の守り手

 アーカイブワールドの深層に佇むRainLilacレインライラックと春木翔。

 それまで混沌とした記憶と感情が溢れていた回廊から抜け出すと、二人の前に広がるのは不思議な静寂を湛えたホールだった。蒼く淡い光がそこかしこに揺れ、初期公演を映す断片的な映像やファンの応援の声が、微粒子となって宙を漂っている。


 「ここ、落ち着いているようで、何かが潜んでいる気がするわ」

 RainLilacは息を整え、警戒の視線を巡らせる。

 「これまでみたいな干渉体は見えないけれど、空気が張り詰めてる」


 翔はツールを起動し、周囲を探るが、異常な反応はない。むしろ静かすぎる程だ。

 「ええ、何かがこの空間を見守っているような気がします」

 言葉を交わすと、二人は自然と肩を寄せ合う。


 その時、ホール中央に淡い光が集まった。優しい光の収束点から、中性的で華奢なアバターが浮かび上がる。外套をまとったその存在は、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 「ようこそ、RainLilac、春木翔。このアーカイブワールドを見守る守り手と呼ばれる者です」


 RainLilacは驚きに瞳を見開く。

 「見守る者…? あなたはAzureRiddleと関係があるの?」


 守り手は静かに首を振る。

 「AzureRiddleとは立場が違う。私はファンが紡いだ記憶と想いが、この空間に意思を与えた結果現れた存在。君たちが求める深淵の言葉と裏側への扉のことも知っているよ」


 翔は眉を寄せる。

 「裏側…そこにある秘密を知るために、深淵の言葉を探しているんです。AzureRiddleはRainLilacが初めから裏側と繋がるための‘器’だったと言いました。本当なのでしょうか?」


 守り手は少し悲しげな表情を浮かべ、壁面を指し示す。

 その指先に呼応するように、壁の一部が膜を剥がすように変化し、不明瞭な映像が揺らめく。そこには初公演前らしき光景が映し出されていた。薄暗いスタジオ、VR機器を弄る少女の後ろ姿、そして彼女に囁く青い影……音声はほとんどノイズで消えているが、何かしらの“契約”や“仕組み”があったことを仄めかしている。


 RainLilacは目を背けたくなる衝動をこらえ、苦渋の表情を浮かべる。

 「こんな映像、知らないわ……私、ファンの力でここまで来たと思っていたのに。初めから裏側へ至るための仕込みがあったなんて」


 翔は彼女の肩に手を置く。

 「それでも、あなたが努力し、ファンが真心で応援し、共に紡いだ世界が嘘になるわけではありません。あなたが自分の意思で歩んできた事実は変わりません」


 守り手は淡い笑みを浮かべる。その笑顔には優しさと期待が滲んでいるようだった。

 「君が求める深淵の言葉までもう少し。だが、注意して。裏側には君と繋がる何かが待っている。AzureRiddleはそれを“もう一つの影”と呼んだようだ。君が裏側へ至る時、その影が眠りから醒めるだろう」


 「もう一つの影……私と表裏一体の存在が裏側にいるというの?」

 RainLilacは震える声で問う。これまで裏側は曖昧な概念だったが、ここで初めて“もう一つの影”という存在が示唆された。確定した事実ではないが、その可能性は避けられない。


 翔は不安げなRainLilacを見つめ、決意を固めるように頷く。

 「たとえもう一つの影がいようと、あなたが今まで歩んできた道は誰にも否定できません。僕たちは深淵の言葉を完成させて、扉を開き、その謎を確かめましょう」


 RainLilacは力強く拳を握る。

 「そうね。たとえ初めが仕組まれたものだったとしても、私がファンと共に育んできた世界は本物。裏側でどんな存在が待とうと、負けないわ」


 守り手は静かに目を伏せ、次の通路を示唆するように光の粒子を流す。そこでさらに強力な干渉や謎が待ち受けているに違いないが、RainLilacも翔も後戻りしない。


 こうして第4章は幕を閉じる。

 RainLilacの起源に隠された不穏な真実、そして“もう一つの影”が裏側に潜む可能性が示唆され、アーカイブワールドの守り手は二人にさらなる探索を促した。

 迷いや不安を抱えつつも、RainLilacは自分の意思で未来を切り拓くことを誓い、翔もまた彼女を支えるべく歩みを進める。

 この先、どんな驚異と真相が待ち受けているのか、彼らは迷路を突き進む。

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