第27章:迫る衝突、点火する狙い
特異点の入口が淡い輝きを増し、RainLilacは唇を引き結んだ。
眼前には、宙に浮かぶ透き通った歪みがあり、それが扉のような役割を果たしているのだろう。先へ進むには、その不安定な領域を突破しなければならない。
だが、空気が再び張り詰めた。その兆候を感じた瞬間、上空から微かな振動が降り注ぎ、宇宙少女が再度姿を見せる。さっきまで観察的だった彼女は、今度は明確な干渉を躊躇わないとでも言わんばかりに、念波を集中させる。
「ここで本当のところを示してもらうわ。あなたたちが生もうとしている奇跡とやらが、どれほどの価値を持つか確かめたい。」
宇宙少女は淡々と言い放ち、その指先が動くたびに、周囲の残骸が渦を巻いてRainLilacたちに迫る。
以前よりも圧力が大きく、あからさまに特異点への前進を阻む意志が感じられた。
伊吹はARデバイスを叩き、眉間に皺を寄せて叫ぶ。「なんて悪質な介入だ……特異点直前でこんな強度の力を使うなんて、明らかに俺たちを試している!」
彼は焦りながらも、ARで場の認識を微妙に揺らめかせ、落下物の軌道を読み取り、わずかに逸らす技術を磨いている。まだ完璧ではないが、少しずつコツを掴んでいるようだ。
ノクターンは裏側法則をさらに微調整する。
空間の密度や方向性を捻じ曲げ、来襲する破片や圧力を軽減する試みを続けている。かつて冷淡だった彼が、今や自ら危険を冒してでも支えようとしている姿には、静かな成長が感じられた。
アリーゼ(AI生命体)は数列を凝縮し、微小な粒子流を生み出して再度衝撃を和らげる。非論理的な行為が前提となるこの場で、彼女は自身の解析と創意工夫で状況を好転させようとしていた。
「計算では不可能な領域に踏み込んでいるが、あなたたちが示す行動が新たなモデルを構築できるかもしれない。」
その声は興味と焦りが入り交じっている。
その時、半透明な揺らめきがRainLilacたちの視界に割り込む。
紀久子が不明瞭な輪郭で現れた。明確な実体はないが、声ははっきりと響く。
「今、あなたたちが成そうとしている奇跡は、ただ世界を崩壊から救うだけではない。その後の歴史、秩序、未来さえ左右する可能性がある。その点を理解しているかしら?」
RainLilacは息を詰める。(やはり紀久子は未来を狙っている。再生後の世界をどう構築するか、水面下での合意が必要と言った。私は単純な善行で終わりにはできない。再生後、誰が何を得るか、調停が求められるのかもしれない。)
宇宙少女が念波を強め、廃材が鋭い斬撃のように迫るが、RainLilacは胸中でファンや仲間たちのことを思い、さらなる防護現象を引き出そうと試みる。
その瞬間、昨日よりも明確な透明な膜が周囲に膨らみ、一部の攻撃を弾くことに成功した。まだ完璧ではないが、確実に力は強まっている。
翔はそんなRainLilacに目を合わせ、わずかな笑みを浮かべる。「あなたは前進しようとしている。俺たちもそれに合わせて工夫を凝らそう。」
言葉短くても、そこには揺るぎない信頼があり、RainLilacは心が安定するのを感じた。
紀久子は微笑んだまま、軽く肩をすくめる。「いずれあなたたちが特異点内部で再生の儀式を行う際、私も条件を提示させてもらうわ。未来をどう紡ぐか、あなたたちだけの善意で済むとは限らないからね。」
その言葉は消えゆく残響を残し、紀久子は再び姿を曖昧にして消える。
RainLilacは薄く唇を噛む。(つまり、特異点内部に入った後、私は世界再生を行うにあたって、何らかの選択を迫られるのだろう。愛を媒介に行う行為が、誰かの思惑に左右されないようにするには、どうすればいい?)
アリーゼは数列を震わせ、「あなたが行おうとしている方法には、調整の余地がある。非論理的な愛を根幹に置いても、様々な要素を統合すれば、再生後の世界に特定のバイアスをかけることも可能かもしれない。」
その提案は一種の取引の芽だ。アリーゼも自分の得分を考えている。
ノクターンは静かに周囲を見回す。「宇宙少女がこれほど妨害してくるのは、あなたたちが既に鍵を握っているからだ。突破すれば特異点内へ進めるはずだ。そこには、真に愛を媒介にした行為が安定化するための環境があるかもしれない。」
伊吹はARデバイスで攻撃の軌道を予測し、小さな回避ルートをRainLilacに示す。「ここを通れば、短い間だけ攻撃が薄くなる! 今がチャンスだ!」
RainLilacは指示通りに動き、楔を胸元で確かめる。環境がわずかに自分たちの側へ傾き始めているように感じた。
宙を舞う破片が微妙な方向転換を繰り返す中、RainLilacたちは以前よりも落ち着いて対応できている。
微弱な能力だったものが、少しずつ強まり、連携が深まる中で、ついに雨雲が切れるように攻撃の密度が緩む一瞬が訪れた。
RainLilacはその隙を逃さず、特異点らしき扉へ足を踏み出す。「行こう。たとえ誰かが利を得ようとしても、私たちが先に手を打てばいい。後で交渉も可能かもしれない。世界を救った上で、誰に独占させない均衡を構築できるかもしれない。」
翔や伊吹、ノクターン、アリーゼは言葉を交わさずともその思いを受け止め、足を揃えて前進する。宇宙少女は冷たい眼差しを向けているが、完全には止められない。
こうして、一瞬の交錯でRainLilacたちは特異点内部へ続くルートに手をかけた。
こうして第27章は幕を下ろす。
特異点入口での再交渉と圧力、紀久子の示唆する未来条件、宇宙少女の妨害、そして仲間たちの力が微かに増していく中、RainLilacはついに特異点内へ進み、世界再生への本格的な準備段階に踏み込もうとしている。




