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緋水の怒り

緋水は僅かな手勢を引き連れどんどん上へと上がって行く。


途中途中で敵兵も現れるが緋水の敵ではない。

その槍裁きは、若いながらも世界屈指の力を持っており、蝶国随一だ。



なんなら、緋水を目にするや否や逃げる敵兵まで現れた。



そんな中、ようやく目的地へと着く。



緋水がつい最近まで過ごしていた場所だ。

この扉でさえも懐かしい。



「さぁて、返してもらおうか」



緋水の言葉で配下が扉を開ける。



そして、目の前に写った光景。

思わず緋水も目を見開く。

それは反吐が出るような光景であった。





鎖に繋がれた多数の女性。

拷問されたような跡が多数あり、中には死んでいる者までいた。



緋水が戻って来たにも関わらず、皆生気を失ったかのように虚ろな目をしており反応すらしていない。


それほど酷い目に遭ったのだろう。

心も身体も。



緋水の拳は無意識に握り締められ血が滴る。



これ程怒りを覚えたことはあっただろうか?

緋水は自他ともに認める楽天家であり、怒るということはまずない。


その為、配下からは、尊敬はされているが接しやすい先輩の様な感覚で接してきていた。



だが、今は違う。周りの配下達でさえ自分の主に恐れを覚えている。

彼の目を見ただけで失神してしまう。

彼の殺気に触れただけで死ぬかもしれない。



そう思えるほどに、敵味方問わず恐慌していたのだ。

唯一敵の総大将だけは普段と変わらないといった様子でコチラを睨みつけている。



この殺気に気付けないのは赤ん坊か、もしくは武に対して全く関心のない相手だけだ。



つまり相手は後者だ。



「なんだえ? まだ朝日も登っておらんというのにワシの邪魔をしおって! んー??? お前は緋水かぁ? 丁度いい。 ワシの配下になるならばこの中から一人くれてやろう。

もちろんワシの使い古しだがな! アッハッハッハッハッ!!!」



両腕を上げ下品な笑い声を部屋中に響かせる。




いや、それは直ぐに悲鳴へと変わった。



「ぎゃ、ぎゃああああッ!!! 痛い!!! 痛い!!! 痛いぞ!!!!!?」



上げた手の平に二本の槍が突き刺さっていた。

緋水が一瞬の間に投げたのだ。



槍の勢いのまま腕は持っていかれ壁へと磔にされる。


初めて知る痛みにいつまでも断末魔の様に声を張り上げていた。



周りの兵士に助けを求めるも、緋水に適うはずがないと分かっているため動くことは無い。


そもそも、誰もこの領主に忠誠などなかったのだ。


女性を慰めものにするどころか、拷問までして死にいたしめる。

そんな男を主と認められるはずがなかった。



そんな中、緋水はゆっくりと磔にされた敵領主へと歩く。



「よぉ豚、お前も相手にやってきたんだ。 同じ事をされる覚悟はもちろんあるんだよな? 俺の大切な城で、俺の大切な女で、、、結構なことしてくれたじゃねぇか。 覚悟しておけ。

生きては絶対に帰さないが楽に死なせもしねぇからな」



普段の緋水からは見られない鋭い眼光。

ようやく敵領主も、誰を敵に回してしまったのか理解した様子。


とは言っても、既に時遅し。

これから始まる地獄をまだ理解出来ていなかった。



「おい、しっかりしろ。 もう大丈夫だ」



先程とは打って変わって優しく女性達に話しかける。

手錠や足枷は既に敵兵に外させた。


だが、未だに虚ろな目をしており、焦点が定まっていない。


心ここに在らず、、、といった感じだ。



「お前達が元気になる方法を教えてやろう。

お前達であの醜い豚を殺せ。 殺すのが無理でも心臓以外に

槍を突き刺せる。 簡単に殺しちゃダメだぞ」



あまりにも恐ろしい発想に周りの兵士達が驚く。

緋水が拷問をする事も勧めることも見たことがないから。



とはいえ、これは一種の荒治療なのかもしれない。

あいつにやられて来た事はずっと頭から離れないだろう。


だから、自分の手で相手を懲らしめ、死にいたしめる。

これをする事によって悪夢を見なくなるだろうとの考えであった。



ようやく、皆の目に光が灯したのか、緋水を見つめると、皆で頷き

槍を手に取る。


10人近くの女性達が槍を持ち立ち並ぶ。



「な、何をする気だ?!!れ わ、ワシはここの城主だぞ!!!

逆らえばどうなるか分かってるんだろうな?!!! ぐぎゃああああッ!!!!!」



話している途中であるにも関わらず、一人の女性が肩へと槍を突き刺した。




「う、うるさいッ!!! お前なんか城主じゃない!!!

ここの城主は緋水様だけ!!! よくもやってくたれな!!!

殺してやるッ!!!」



刺した槍に更に力を入れる。



そして、最初に刺した女性に続くかのように次々と皆も刺していく。



死なないように、致命傷は避けて。


こうして、彼は生き地獄を味わうことになるから。



どのくらい経っただろうか。

最早、そいつは声も枯れ、虫の息となっていた。


だが、まだ生きてはいる。



「うぅ、、、わ、わし、、、は、、、偉い、、、お、まえら

し、、、死刑、、、」



未だにそんな事をほざく敵総大将に、緋水も呆れ返っていた。



「バカは死なないと治らないって言うが、コイツの場合は死んでも治らねぇな。 んじゃあソイツの治療頼んだぞお前達」



そういうと狼徳軍の兵士達は頷き、敵総大将の治療を始めた。

止血し、傷を縫う。


これで死ぬ事は無いだろう。



だが、その光景を女性達は困惑しながら見ていた。


何故こんな事をするのか。

どうして助けてしまうのか。



捕まっていた女性達は困惑と同時に緋水へ怒りを覚えていた。



「ど、どうして生かすのですか?!!! コイツがいる限り私達は永遠に悪夢を見るのですよ!!!」



涙ながらにそう叫ぶ女性達。

だが、緋水の考えは違った。



「なに言ってるんだよ。 こいつに殺すよりももっと地獄を見せるって言っただろう? 何も辛かったのはお前達だけじゃねぇだろ? お前達の帰りを待つ家族だって辛かったはずだ。

次はお前達の家族に切り刻んでもらおうと思ってな!

って事で後日また集まってもらうぜ!

今日の所は風呂に入って綺麗にして家に帰れ。

もちろん道中は俺の兵士達に守らせるからよ」



緋水の言葉に開いた口が塞がらない。


確かに家族も怒っているはず。

だが、城主であるが為に何も出来ず歯がゆい思いをしていたのだ。



生かすためではなかった。

傷を治したのも皆の気持ちを発散させるためだったのだ。


発想は恐ろしいが、間違いなくこれで皆の心も晴れるだろう。



女性達は大きく返事をすると、皆で風呂場へ向かうのであった。



「よ、よろしいのですか? このような行為、、、野蛮的ではないでしょうか?」



一人の兵士が勇気を振り絞りそう話すも、緋水は笑っていた。


よかった。 いつも通りの緋水だ。



「ハッハッハッ! ならお前の家族が同じ目にあったら指を加えて黙って見てるのか? 違うよな? 辛いのは本人はもちろんだが

家族も同じなんだよ。 だからこれでいい。

奴には未来へ進むための糧になってもらう」



兵士は何も言えなかった。

緋水の言う通りだからだ。



兎にも角にもこうして、蝶華城は奪還したのであった。

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