事件
蝶永城を落として数日が経つ。
今では城内も落ち着き皆が活性を取り戻していた。
息子や家族を失ったのに、みなが元気な理由。
それは、、、
「蝶姫様!!! この果物新しく仕入れたんだけど食べて行きなよ!」
「蝶姫様ァ! 確か弓も練習してるよな? 俺の作ったコイツは新作だッ!」
「バカ言うんじゃないよ! 蝶姫様にそんな危ないもん持たせるんじゃないわよ! ほら蝶姫様、この髪飾り蝶姫様に似合うと思うんだけどどうかしら?」
次々に駆け付ける住民達。
それは、まるで我が子を可愛がるかのように皆がお節介をしている。
何もこの光景は今日が特別なのでは無い。
毎日こうなのだ。
何故、こうなったのか。
その理由は陥落させた日にある。
遺族を想い、だけど立ち止まることも出来ない。
そんな葛藤から涙を流し、更に小さな女の子が無礼をはたらいても
涙を流しながら謝るその姿。
そんな蝶姫に皆も涙を流し感服したのだ。
そうして、気付けば皆が蝶姫を娘、はたまた家族の様に接して
可愛がっているのだった。
蝶姫の護衛兵は、常に荷物持ち状態となっている。
もちろん、全員が全員こうではない。
「おっとうを返せッ!!!」
皆に話しかけられている無防備な蝶姫へと、石を投げつける少年。
そして、それは運悪く蝶姫の額へと当たってしまった。
蝶姫の額からは血が流れる。
当の本人たる少年もまさか当たるとは思いもしなかったのだろう。
顔は青ざめており、後悔していた。
それもそのはず。
姫に石を投げるなど、不敬罪で即刻処刑なのだから。
それも、王族の血を流したとあらば蝶国で一番重い罪である
『牛裂きの刑』が課かせられる。
そんなの子供でもわかる事だ。
悔しさのあまりついついやってしまったこと。
だが、それで許される程、法は甘くない。
「蝶姫様ッ!!! おのれ小僧ッ!!! 自分が何をしたかわかっているのかッ!!!? 即刻連れ帰って牛裂きの刑だ!!! 捕らえろ!!!」
衛兵が怒号の如く吠える。
少年は自分のしでかしてしまった大いなる過ちをようやく理解した様子で、どんどん顔は青白くなり、体は震えていた。
そして、その子の母親であろう者も必死に泣きながら謝ってはいるが衛兵達は聞く耳を持たない。
姫に血を流したのだから当然と言えば当然だ。
現に周りの住民達も、同じ境遇の遺族とはいえ、今の行為を庇おうとは思わなかった。
それが法だから。
何より蝶姫が悪いとは思っていないから。
だが、子供にはわからない。
攻めてきた相手の大将が悪い。
そう思ってしまうのだ。
そして、二人の衛兵が怯える少年を捕縛しようとしたその時、
「待って!!! この石、、、私がその子に探してって言ったの! 見て!!! 星みたいで綺麗でしょ? 見つけたら投げてって私が言ったのに、私ったらドジだから取れなかったの! ごめんね!
その子を離してあげて」
突然の訳も分からない説明に困惑する衛兵。
いや、少年や周りの住民達でさえ困惑している。
そして、そんな話嘘だと皆が理解していた。
「ち、蝶姫様? そのような事嘘に違いありません!
少年を庇いたい気持ちもわかります。 ですが、法をここで破っては法の意味が無くなります! 皆がしていいのだと勘違いしてしまうのです!」
衛兵の言う事は最もだ。
それは蝶姫も理解している。
姫自ら法を破れば、蝶姫の立つ瀬がない。
王族が作った法を王族が破るのだから。
だが、蝶姫の考えは違った。
「皆も私が雷火に訓練してもらってるのは知ってるよね?
その時も雷火に怪我させられてるよ?
それなら雷火も処刑するの?
しないよね? だって私からお願いしてるんだもん。
この子も一緒だよ。 私がこの星型の石を取ってきてってお願いしたの! ちょっと勢いよく投げちゃってたまたま私が怪我をした。 そんな理由で小さな子を処刑したとあってはそれこそ私の悪名が広まってしまうわ。だから離してあげて」
まさかの蝶姫の返しに口篭る衛兵達。
あの脳天気な姫からまさかこの様な言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「で、ですが、、、」
「何度も言わせないで。 離して」
初めて見る蝶姫の鋭い眼光。
あまりの迫力に思わず衛兵達も男の子を手放した。
「し、失礼しました蝶姫様。 では城へ戻り手当を致しましょう」
未だに蝶姫の額からは血が垂れている。
「ちょっと待ってね」
だが、蝶姫は衛兵を待たせ血を流したまま男の子の元へと歩いた。
そして、目の前に着くとその場へしゃがみこみ、男の子と同じ視線へと腰を下ろす。
「ごめんね。 貴方の大好きなお父さんは私が始めた戦争で亡くなってしまったんだよね。 本当にごめんなさい。 貴方のお父さんの為にも、貴方がこれ以上悲しまない為にも、私は必ずこの戦争を終わらせるから。 戦争が終わったら今度遊んでくれるかな?」
蝶姫の優しさに男の子はもちろん、周りの住民達も皆が涙を流していた。
父親は蝶姫が殺したわけじゃない。
それくらい男の子にもわかる。
だが、他にあたるところが無かったのだ。
そして、自分の仕出かした大きな過ちを悔いる。
男の子は泣きながらも大きな声で「うん」と返事をすると
蝶姫が男の子を抱き締めた。
蝶姫の胸の中で赤ちゃんの様に泣き叫ぶ男の子。
いや、全員がまるで子供に戻ったかのように泣き叫んでいたのだ。
そんな様子を陰ながら見守る雷火。
「お前のその優しすぎる想いがいつか、自身の身を滅ぼさなければいいが」
意味深な言葉を述べる。
そして、今回の事件で蝶永城の住民はより一層蝶姫へと忠誠を誓うのであった。
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