戦争の後
城門は開かれ、中は大混乱を起こしていた。
門兵が守る門前に、突如市民達が反乱を起こしたのだ。
「外にいる子供を返せ」
「あそこで待つ旦那を返せ」
女性や老人達がそう口々にしながら、鍬や斧を手に持ちやってきたのだ。
あまりの数に門兵達では止めることなど出来ず、一瞬にして
打ち破られ門を開けられたのだ。
「静まれッ!!!!!」
ここの城主を任されている可満将軍。
腕も頭も弱く、なんの取り柄もないがコネでここまで昇ってきた男。
「貴様ら市民風情が何をしたのか分かっているのか?!
あ奴らを退けたら、貴様らも即刻処刑してやる!
さっさと門を閉めろ馬鹿ども!!!」
この城は恐怖政治によって統治されている。
先程までは子供の事で頭がいっぱいだったが、再び可満が現れたことによって目が覚める。
彼が統治している限り勝手は許されない。
静かになった市民を他所に門兵達が再び門を閉じようとする。
「ぐああぁッ!!!」
が、閉じようとした瞬間、彼等の体を槍が貫く。
その光景を見て恐怖する可満は、門を見つめると、一頭の馬に跨る一人の男の姿が。
「貴様がここの主か。 ここまで市民を怯えさせるとはな。
我等が主とは正反対だ。 これ以上の殺生は蝶姫の心にも
響く。 お前の首を取って終わりにするか。 無魂、殺れ」
「はっ」
突如建物の上から飛び出す無魂。
可満の背後を完全に取っていた。
「ひっ、ひぃーーーッ!!! だ、誰か私を守れッ!!!」
それが最後の言葉となり、誰も彼の言う事を聞くものはいなかった。
無魂の剣が可満の大きく開かれた口へと刺さる。
それと同時に湧き上がる歓声。
彼等はやっと恐怖政治から解放された事に歓喜していた。
蝶姫の噂はここまで広まっており、彼女を支持したいと皆が思っていたのだ。
確かに家族は殺されたが、それは蝶姫達のせいでは無い。
無能な将軍の判断によって死んだのだと、皆が理解していた。
城の住民達の反乱は無いと判断した雷火が手下に蝶姫を呼ぶよう伝える。
そして、蝶姫が門を潜り城内へと入ると驚くべき光景が目の前に広がっていた。
住民全員が膝を着き頭を伏せているのだ。
そんな光景に蝶姫は呆然とする。
中に入れば罵声が飛び交うだろう。
何せ、自分が皆の家族を殺した元凶なのだからと。
そう思って覚悟して入ったのだ。
それなのに、目の前の光景はまさかの真逆の行為。
そんな皆の姿を見て、蝶姫の目からは自然と涙が落ちる。
家族を殺した相手に頭を下げなければいけない。
憎い相手に平伏さなければいけない。
遺族の気持ちを思うと胸が締め付けられ、自然と涙が流れるのだ。
本来なら泣きたいのは遺族のはず。
我慢しなければいけないのはわかっている。
それに、最後まで走り抜けると決めたのだから。
だが、いざ目の当たりにすると涙を止めることが出来なかった。
覚悟が全然足りなかったのだ。
戦争だけじゃない。
戦後処理も辛いのだと。
とうとう顔を伏せてしまった蝶姫に、雷火が歩み寄る。
「いきなり慣れろと言う方が無茶な話だ。 お前も分かっていたはず。 戦争の時だけでは無い。 その後もこういった状況は着いて回る。 それも含めて戦争だ。 そして、この悲しい光景を無くす為にお前は立ち上がった。 皆にお前の声を聞かせてやれ」
雷火の言葉に泣きながら頷く。
深呼吸をして、遺族達の方へと顔を向ける。
「皆さん、体を起こし顔をあげてください!
私は元蝶国の国王が娘、蝶姫と申します!
兄と私の身内争いにあなた方の大切な家族を巻き込んでしまい申し訳ございません。 私が兄に歯向かわなければ、今日もあなた方は家族団欒で過ごせたはずです。 本当に申し訳ございません。
ですが、私は兄の暴挙を許す事が出来ませんでした。
父を殺し、国を乗っ取り好き勝手にしている兄が許せませんでした!
私の夢は戦争のない平和な世界です!
そのために、私は立ち上がり、皆に協力してもらい、ここまで
やってきました!
そして、これ以上この悲惨な光景を見なくて済むように、私は
兄を殺し国を一つにします!!!
だから、お願いです、、、あなた方の家族を奪った私を、今はお許しください・・・・・・国を取り戻し、一つにするまで許してください。
本当に、、、申し訳ありませんでした、、、」
蝶姫は馬を降りて、自分自らも頭を下げた。
こんな光景はありえない。
姫がただの一般市民に頭を下げるなど聞いたことがない。
周りにいた兵士達が止めようとするも、それを雷火が止めた。
(これでいい。 蝶姫のありのままの姿を見て、皆の気持ちも変わるはず・・・・・・蝶姫がどれだけ辛い思いをしながらも前に進んでいるか、、、まだこんなにも若い女がこうして苦しい思いをしているかッ!)
雷火は握っていた拳に力が入り、手から血が滴る。
連れてこなければ良かった。
そう思いたくなるほどに、今の蝶姫を見るのが辛かった。
上に居るだけで責任は全て上の者へとなる。
だが、蝶姫は誰よりも人を殺すのを嫌っている。
先程の馬鳴平原でも、敵の大将へ戦争を辞めるよう何度も大声で懇願していたのだ。
こんなにも優しい女の子が戦争に立ち、平民の為に涙を流し、頭を下げている。
雷火にはそれがとても辛かった。
いや、竜土や鳳金も同じだ。
二人も苦渋の顔で眺めていた。
蝶姫が話終わり、暫くの静寂が訪れる。
だが、蝶姫は頭をあげない。
想いが届くまで、頭を上げる気がないのだ。
すると、想いがようやく届いたのか、、、
「姫様ッ!!! 頭を上げてください!!! 姫様は何にも悪くねぇ!!! 悪いのは狼徳王子についた俺らだ!!!」
「そうです!!! 私達は蝶姫様の善政を良く耳にしていました! ですが、狼徳王子の方が勢力が大きいからって保身に走ったのです!」
「息子を殺したのは姫様じゃないです! ここの領主であり、
私達なんです! 死んだ家族をわざわざここまで運んで頂きありがとうございます!」
次々と聞こえてくる感謝の言葉。謝罪の言葉。
またしても、蝶姫の予想の逆となる返答が返ってきたのだ。
「皆、、、ごめんね、、、ありがとう」
蝶姫が両手で涙を拭う。
すると、
「お姉ちゃん、、、泣かないで?」
小さな女の子が手にハンカチを持ち、蝶姫の袖を引っ張っていた。
「あっ! こらッ! 凛々!!! 姫様に無礼よ!!!」
母親と思われるものが叱責しながら駆け寄ろうとするも、それを
雷火が止める。
「うぅ、、、ごめんね、、、あなたも辛いはずなのに、、、
本当にごめんなさい」
蝶姫は女の子を泣きながら抱き締める。
これが、戦争の辛さなのだと改めて実感するのであった。
「面白いな、続きが読みたいなと思ったらブックマーク、高評価をお願いします。そして誤字脱字や意見などあったら是非コメントしてください。」




