烏合の衆
中央より迫り来る5千人もの陸前軍。
対するはこちらも5千の竜土軍。
「庄亀、相手は君も知っている通り、陸前将軍だよ。
確か前に一緒に戦ったよね? あの時は仲間だったけど今は違う。 でも、おかげで彼の戦い方も理解した。
大盾隊を前にし、長槍で備えようか。 長槍の角度は30で。 大盾の後ろから支えもよろしくね」
「はっ!!!」
庄亀は竜土の指示の元、素早く行動に移す。
対する陸前は5千の兵を率いて馬を走らせる。
「陸前将軍! 右翼はやられ、左翼もやられております!」
左右の状況を説明する兵士に笑みを浮かべる陸前。
「はん、だから俺の配下を連れて行かせろと言ったんだ。
あんな役立たず共で適う相手じゃねぇってな。
何せ相手はあの五行将軍の三人だ。 あれから数年も経ってる。 強さも桁違いに変わっているようだ。
俺もそれを肌で感じてるとするか」
豪覇将軍が50台なのに対して、陸前は30台にも見えるその見た目。
目はぎらついており、髪は天に逆立っていて白髪である。
その手には方天戟が握られており、歴戦の猛者を漂わせる風格があった。
「さぁ、お手並み拝見といくか」
不敵な笑みを浮かべると方天戟を空高く掲げた。
敵の姿がよく見えるところまで馬を走らせると、何やら陸前は
違和感を覚える。
(あん? なんだあの構え、、、ッ?!)
「ちっ!!! お前等止まれッ!!! このまま行ったら死ぬぞ!!! 一度体勢を立て直す!!!」
「何を言われます!? 右翼、左翼が負けている今、我ら中央が勝たなければ士気は下がる一方です! このまま行きましょう! 我等の士気も十分に高いッ!!!」
「ならてめぇらで勝手に死ね。 だから、俺の配下でやらせろって言ったんだクソが」
陸前は馬を止めるも、この隊の副官を務めるものは止めることを拒否した。
陸前の側近や配下達はこの場に誰もいない。
心配症である狼徳の指示によって。
もし、彼が配下共々蝶姫へと裏切ったらそれこそ勝ちの目が薄くなる。
よって、今回の戦いで自分への忠誠を示させるために、全く関係のない軍を陸前に率いさせたのだ。
当然、勝手の知らない軍を陸前が操れるはずもなく、頼れるはずもなかった。
そして、陸前の静止を聞かなかった彼等は勢いのまま突っ込んで行く。
「あれ? 陸前将軍だけ止まった? なんか変だね。
まぁいっか。 来る時だけやればね」
敵の騎兵が目前まで迫るも、それ以上進むことは無かった。
長槍が斜めから伸びており、馬の胸へと刺さっていたのだ。
何故事前に馬を止めなかったのか。
それは竜土の指示した槍の角度のせいだった。
横から見れば槍が縦から突き出してるのは一目瞭然。
だが、向こうからは見えないのだ。
黒く塗られた盾。そして、黒く塗られた槍先。
それが向こうからは点となってしか見えていない。
だから、気付かずにそのまま突っ込んでしまった。
そして、馬がそのまま槍を掻い潜り盾兵に突っ込むものも居たが
速度が落ちた馬に抜ける程、竜土の盾兵は弱くは無い。
更に大盾は人間の力と木の杭の力により、倒れないよう配置されている。
後は一方的な蹂躙である。
「馬はなるべく傷付けないようにお願いね。 鳯金が馬が不足しているって言ってたからさ」
馬は殺さず敵兵だけを殺す。
難題かに思えたが竜土兵は容易くそれをやってのける。
騎兵をいなすのはお手の物であり、何度も跳ね返してきた。
鉄壁の守りは伊達じゃない。
「せっかく陸前将軍とやれると思ったのにな。
今回は僕の出番はなさそうだね。 庄亀でも余裕そう」
後ろで戦場の様子を見守る蝶姫と竜土。
確かに竜土の言う通り、鉄壁な守りであり、敵が抜ける気配は無い。
まさに一分の隙もない守りだ。
しかし、竜土は戦場を見ていると言うよりはさらに先を見ているように蝶姫は感じた。
不思議に思い蝶姫もその見つめる先を見ると、奥にいるのは
馬に股がった一人の男。
陸前だ。
向こうもこちらを見ている。
いや、蝶姫を見ている。
すると、陸前は不敵な笑みを浮かべ何かを口ずさむ。
『また会おうぜ』
声は聞こえないが確かにそう口ずさんでいるように見えた。
そのまま陸前は手綱を引きその場を後にする。
そんな姿を2人はずっと見続ける。
「ねぇ、竜土? 陸前将軍ってそんなに悪い人なのかな?」
突然の事に目を見開く竜土。
「えっ? だってあの人はこの世の悪事を全て働いた人でしょ? 悪いに決まってるんじゃない? わからないけど」
「そうだよね。 でも、なんだか悪い人には見えなかった。
ごめんね! 急に変なこと言って」
首を傾げる竜土。
(まぁ、僕は陸前将軍と何度か戦ったけど一回も悪事は見たことないんだよね。 でも、やった事は事実となって載ってる訳だし、、、まぁいいや)
そして、再び戦場を見つめる。
突っ込んできた敵軍は竜土軍の守りを崩す事ができず、そのまま庄亀率いる戦斧隊によって次々と葬られていく。
これで全戦場にて、蝶姫軍が優勢となるのであった。
そんな中、一人馬を走らせ戦場を後にする陸前。
「ふっ、、、あの女が蝶姫か・・・・・・せめてアイツは親の血を引いてるといいんだがな」
どこか寂しげな表情を見せる。
陸前はこのまま蝶永城ではなく、王都へと戻って行く。
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