兄の想い
なんだか騒がしい。
うるさい。
まだ眠いんだからゆっくり寝させてよー。
そう思いながらも重い瞼を開く。
何やら外の様子がおかしい。
深夜だと言うのに怒声が響き渡る。
それに鉄と鉄がぶつかり合う音も。
断末魔も・・・・・・。
「何が起きてるの? もしかして・・・・・・」
流石の蝶姫もこの異常な空気に不安を募らす。
そんな時、急に部屋の扉が開かれた。
「きゃあッ!!!!!」
いきなりの事に驚く蝶姫。
勢いよく部屋に入ってきたのはなんと、
「ちょ、蝶姫様ッ!!!!! 急いでここを出ます! 早く来てください!」
血相を変えた表情で迫る李凛。
そして、背後には数名の兵士が。
中には見覚えのある者もいた。
そして、皆が緊迫した表情を浮かべている。
ただ事ではない。
流石の蝶姫も気付いた。
「わ、わかった! すぐ着替える!」
「そんな時間ありませんッ! 早くッ!!!!!」
着替えようとするも李凛が蝶姫の手を無理矢理引っ張る。
何が何だかわからない。
だが、あれだけは持って行かなければと思い切り手を伸ばしある物だけは手に取った。
訳もわからぬまま廊下を走るとそこら中に死体が転がっていた。
皆蝶国の兵士だ。
何故だか蝶国同士の兵士が戦っている。
(どういう事? 何が起きてるの?)
理解できなかった。
何故、自国の兵が同士討ちをしているのか
それもそのはず。
普段から何にも関心がなかったのだから、皆の心の変化にも気付けるはずがなかった。
兄である狼徳の変化に気付けるはずがなかった。
「反乱ですッ!!!!!」
その言葉に唖然とする。
思わず頭が真っ白に、
空いた口が塞がらない。
「う、嘘だよ そんなハズない、、、 嘘つかないでよ!!!」
珍しく声を張り上げる。
普段物静かな分、彼女の怒声には少し圧倒されるものがあった。
だが、今は緊急事態。
「嘘じゃありません!!! 蝶姫様の兄上の狼徳様が、いえ狼徳が! 謀反を起こしました!!!」
もうだめだ。
これ以上はのみ込めない。
頭がパンクしてしまう。
ふらつく足取りの中、急に立ち止まる。
「嘘だよ・・・・・・兄上とお風呂でお話したもん。
その時に・・・・・・その時に・・・・・・ッ!?」
思い出した。
全ての会話を思い出した。
変わりたくない父と変わりたい兄。
常日頃からその話で言い争いをしていた。
関心のなかった自分は我関せずを貫いていた。
そうだ。
自分がお風呂の時に兄を説得出来ていればこんなことにはならなかったんだ。
ちゃんと、人の話を親身に聞いていればこんな事にはならなかったんだ。
ようやく気付いた。
だが、気付くには遅すぎた。
「ち、父上と獅徳は?!」
その時、蝶姫は思った。
初めて弟の名前を呼んだと。
一度も呼んだことの無い大切な弟の名を。
「わ、わかりません、、、で、ですか、あの二人は
蝶姫様以上に側近の者が多いから無事のハズです!
それよりも早くここを出ましょう!」
その言葉を聞いて多少の安堵はあったが心配は消えない。
だが、自分も逃げないと殺されてしまう。
周りの兵士に守ってもらいながら廊下を走り抜ける一行。
その中には朝に会った李凛の幼なじみの瞬冷の姿もあった。
瞬冷の剣技は凄まじく、目の前を塞ぐ反乱軍を尽く斬り裂いていった。
走りながらも瞬冷が殺した兵士を見る。
(この人達も本当は同じ国の仲間なのに、、、
そこまでしなきゃいけないことなの⁇兄上ッ?!!!)
自国で殺し合う光景に絶句する。
走る事を緩める事なく、ようやく外に出ると既に馬を携えた宰相である呉怜の姿が。
「蝶姫様、よくぞご無事で! ささっ! 早くこの馬に乗ってお逃げくだされ!」
「父上と獅徳はッ?!!!」
その返事に驚きながらも微笑む呉怜。
呉怜もまた二人を心配する蝶姫に感心していたのだ。
この様な窮地でなければ涙が出ていたかもしれない。
それ程、蝶姫が人に関心を向けるのは稀であった。
「大丈夫です。 必ずや私が二人を助けます。
さぁ早く!」
「私達は数が少ないのです! 早く行きましょう!」
渋々ではあるが二人の言葉に頷く。
(どうか二人ともご無事で!)
蝶姫は心の中でそう思いながらも馬に跨りその場を後にする。
「国王陛下、貴方のご息女は変われます。必ずや貴女の良き後継となりましょう」
蝶姫の行く末を見つめる宰相。
そんな蝶姫の姿に余韻を浸るも、敵は待ってくれない。
すぐ後ろからは狼徳派閥の軍勢が蝶姫を捕えようと流れ込んでくる。
宰相である呉怜は腰の剣を携え僅かばかりの兵士と共に敵と相対す。
(約束を守れずすみません。どうか蝶姫様に御加護を)
宰相は心の中でそう呟き、反乱軍に飲み込まれていくのであった。
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