開戦の号令
陸前率いる狼徳軍と対峙する蝶姫軍。
互いに横陣が敷かれており、蝶姫軍1万5千。
狼徳軍2万5千。
相手の方が一万多いため数的不利がある。
その為、質で勝ちたいところだが相手はあの猛将陸前だ。
豪覇並に強く、兵の統率力も高い。
そして、豪覇と比べて容赦が無いため尚更悪い。
つまり、質もほとんど同格だと思われる。
ちなみにこちらの陣形は中央を竜土軍、右翼に雷火。
左翼に鳯金の隊が配置されている。
それぞれに手勢である5千人が配備された。
そして、蝶姫は守りの天才である竜土の傍に控えている。
彼がいる限り蝶姫が殺されることはないだろう。
「大丈夫だよ。 僕が守るから。 蝶姫はそこでどっと構えてて」
「竜土が守るんだからないとは思うが、お前も油断するな」
「では、皆さん作戦通りお願いしますね。蝶姫様」
「うん。 皆ッ!!!・・・・・・絶対死なないでね、、、」
3人が頷く。
皆背負っている感じはなく、落ち着いている。
むしろ蝶姫が一番緊張しているかもしれない。
先程から手の震えが止まらない。
頭もクラクラする。
これが本当の戦争なのだと。
目の前に広がる人間の大軍。
皆が武器を持ち、自分達の命を狙ってくる。
考えただけで吐き気がしてきた。
「大丈夫だからね蝶姫。 僕が必ず守る。 そして、誰も死なせない」
いつもはやる気のない竜土。
常に眠そうな顔をしている竜土。
そんな彼の目つきもいつもと違う。
頼りなさそうな彼も戦場になると、とても頼もしく思える。
何より、女性への抗体がない彼が、今は蝶姫の腕に触れているのだ。
それ程に集中しているのだろう。
「ありがとう竜土。私が不安になっていると皆も心配しちゃうよね! しっかり見届けるよ!」
「うん。 大丈夫。 相手の攻撃は僕達が守り、相手の守りは雷火が打ち砕く。 全ての戦は鳯金の策の中だよ」
小さい頃はただの遊び仲間だった彼等。
そんな彼等も今では将軍となり、五行将軍として列国にその名を轟かせている。
そんな彼等が居るのだから負けるはずがない。
蝶姫は頼もしい仲間のおかげでその不安も取り除かれた。
手の震えも消え、顔の緊張も解けた。
戦場全体を見渡し、戦争の空気を肌で感じとる。
これが本当の戦争。
大人数でぶつかり合い殺し合う。
当然仲間の兵士も何人かは死ぬだろう。
だが目を背けてはならない。
彼等は自分の為に、国の為に頑張ってくれるのだ。
蝶姫の目はしっかりと全体を見据えていた。
「よかった。 これなら大丈夫そうだね。 それじゃあ蝶姫お願いね」
突然のお願いに首を傾げる。
一体何がお願いなのか。
「ん? お願いって何?」
「ん? なんだっけ? ・・・・・あっ、合戦の号令だよ。 雷火が言ってた。 蝶姫が大丈夫そうなら蝶姫にやらせろってさ。
大きな声で言えば大丈夫だよ」
「ええぇぇぇぇーーーーッ!!!!! 私なんか出来ないよ!
雷火にやってもらってよ!」
突然の大役に驚き断る。
合戦の号令というのは、かなり重要だ。
号令をかける文言、そして声量によって味方の士気にも影響する。
つまり話す人によって、戦う兵士達のやる気に直結すると言ってもいい。
だから、蝶姫もそんな大役を買うことは出来ないと断ったのだ。
だが、雷火や竜土達は違った。
「蝶姫。 僕達は蝶姫がいるから頑張れる。 それは全ての兵士達も同じ気持ちだよ。 守る者に、そして姫に話しかけられれば皆もやる気になると思うよ。 すくなくとも僕らはなる。 だから、皆の為にも、この戦いに勝つためにもお願いだよ」
ここまで言われれば流石に断るのも不粋というもの。
蝶姫は頷き竜土軍の前に立つ。そして、雷火軍や鳯金軍も同じく蝶姫を見つめる。
1万5千人が蝶姫を見つめる。
緊張する中、大きく息を吸い込む。
ここで背負うようでは、総大将なんか務まらない。
これからの戦争に足も運べない。
吸い込んだ息を吐くと蝶姫は大きく口を開いた。
「皆ッ!!! 私は死ぬのが怖い! 皆が死ぬのも怖い!
だけど、退けない戦いが目の前にある。 私は国を取り返す為、
世界を平穏にする為、戦乱の姫になる!!!
だからお願い、、、皆、力を貸して!!! 私に! 蝶国に力を貸して!!!」
静まり返る現場。
蝶姫は目をつぶっていた。
だが、言いたいことは全て言った。
恐る恐る細目で目を開く。
『うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!』
地響きがする。
空気が揺れる。
全員の士気が最高潮となっていた。
あまりの迫力に蝶姫は鳥肌が立ち、目には涙が浮かんでいる。
「み、皆、、、ありがとう」
「ねっ? わかったでしょ? 皆蝶姫が好きなんだよ。
だから次は号令をよろしくね」
大きく頷く蝶姫。
「うん!!! 雷火軍!!! 突撃ッ!!!!!」
蝶姫の号令で雷火軍が突撃する。
こうして、蝶姫の号令の元、馬鳴平原の戦いが始まるのであった。
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