目指す未来
明朝、古城より出陣。
目指すは蝶永城。
雷火を先陣とし、鳳金と蝶姫を中陣、竜土を後陣とし突き進む。
更に言うと、雷火の先には無魂率いる偵察隊が先導している。
彼?彼女?の率いる偵察隊がいる限り、奇襲を受けることはまず有り得ないが、それでも絶対は無い為、注意して進む。
何より、辺りは森に視線が遮られており、奇襲するにはピッタリの場所なのだ。
とはいえ、逆もまた然り。
この鬱蒼と生えた森のおかげで敵に察知されることも難しいはず。
何より、無魂率いる偵察隊が敵の偵察隊を森に隠れながら殺して行ってくれているのだ。
むしろ、森はこちらに有利に働いている。
そうして、敵を葬りながら進んでいくと、森の奥に平原が見えてきた。
あの平原が見えるという事は蝶永城まで残り僅かの距離。
そう鳳金が話していた。
馬鳴平原(バナ平原)
その名の通り、障害物や遮蔽物もなく馬が走り回れるような
広大な草原である。
つまり、これより先は偵察は出来ない。
隠れる場所が無いため敵にすぐ見つかってしまうからだ。
いや、そもそもこれ以上偵察する必要は無いのかもしれない。
何故ならば、
「奴ら、城から打って出てきただと? 直ぐに戻って雷火将軍に伝える。 森を抜けたら直ぐにバレてしまうからな。
いや、そもそも布陣しているところを見ると既に我等の行動がバレているのだろう」
無魂は配下に指示を出すと急いで引き返した。
相手は城に篭っていれば安全だというのに何故か打って来たのだ。
その意図が読めず、困惑するが一先ず雷火達に伝えるのが先決。
しばらく森を走り抜けると先陣である雷火軍を見つけた。
「雷火将軍。 この森を抜けた馬鳴平原にて敵を発見。
その数2万以上かと。 我等はこれより迂回して蝶永城を探ろうと思いますがよろしいでしょうか?」
このまま進んでも敵に見つかる為、大きく迂回して蝶永城へと目指す。
そうすれば、馬鳴平原を突破した雷火達と丁度よく会えると思ったからだ。
「あぁ、引き続きお前達は偵察を頼む。 直ぐに突破するから待っていろ」
雷火の言葉に頷くと、そのまま森へと消える。
「しかし、何故奴らは城から出たのでしょうか?
敵の方が数も多い上に守ればいいだけ。 相手には打って出るほどの強い猛将がいるのでしょうか?」
朱抗も敵の意図が読めず困惑している様子。
「もしくは連戦連敗の為、打って出て士気を上げたいだけかもしれぬな。 とにかく、目の前に居るのなら倒すのみ。 森の手前まで進んだら後陣を待つ」
雷火の指示の元、雷火軍は再びその足を進める。
「確かに不思議ですね。 彼等が打って出る必要は全くの皆無。
悪手もいいところです。 あの軍の総大将が誰か分かりますか?」
合流した鳳金にも分からなかった。
「はっ! なんと、敵総大将の名は『陸前将軍』です!!!」
「ッ?!!!」
その名に驚く鳳金と雷火。
しかし、蝶姫と竜土は首を傾げていた。
「・・・・・・えっと、、、誰? だっけ?」
考えても答えは出ない。
蝶姫は直ぐに二人に聞いた。
「お前は本当に何も分からないんだな。 陸前将軍は、昔、豪覇
将軍と並んで蝶国最強と言われた男だ。 二人は何度か模擬戦を
したそうだが、全て互角に終わっているようだ。 つまり、豪覇
将軍と戦うようなものだな 」
その言葉に驚く。
だって、そんなのおかしい。
「でも変だよね? 私は豪覇将軍の名前は流石に知っていたよ?
その豪覇将軍と同じくらい強い人なら私だって知ってるはずだもん!」
それほど有名ならば、いくら引きこもりの蝶姫だって知っているはずだ。
それなのに知らないということは、何か理由があるはず。
「不思議に思わないか? 昔は豪覇将軍と並んで最強と言われていたのに、今では豪覇将軍一人で蝶国を救ったと言われている。
つまり、訳ありって事だ。 陸前将軍はな、前線に出てなんでもした。 過剰な殺戮、強姦、強盗、捕虜の殺害、味方の殺害。
この世の犯罪全てを犯したんじゃないかという程、悪に手を染めていたんだ。 最終的には、仲間の将軍を殺し、捕まったって訳だ。 しかし、牢獄から出すとは余程狼徳王子も焦っているようだな」
あまりの情報量に開いた口が塞がらない蝶姫は、しばらく固まっていた。
「・・・・・・。 どうしてそんな悪い人を将軍にしたの?
そんなにたくさん悪い事をする前にもっと早く捕まえればよかったじゃん!」
蝶姫の言葉は最もである。
だが、それが出来ない理由が他にあった、
「言っただろ。 昔は豪覇将軍と並んで最強と言われていた男が
陸前将軍だって。 あの人が居なければ今頃蝶国はもっと小さな国になっていただろうな。 あの二人の双璧によってこの国は守られていたんだ。 つまり、悪事に目を瞑ってでも陸前将軍の力が必要だったって訳だ。 戦争は綺麗事では済まされない。 使えるものは全て使う。 それが戦争だ」
雷火の言葉に渋々ながらも口を噤む。
雷火の言っていることもわかるし、陸前将軍の凄さもわかった。
だが、それでもそんな人を起用するのはよくないと思う。
敵の兵士だけならまだしも、女性や子供、味方さえも手に掛ける男だ。
ある意味敵よりも危ないのだから。
そして、この思考自体が甘い考えというのも理解している。
戦争で綺麗事は通用しないと、
だから何も言えずに腹が立っているのだ。
「ぽんっ」
俯いている蝶姫の頭に手を置く雷火。
「過去の悪事を咎めることは出来ない。 だが、これからは違う。 お前がそういう国を、そして世界を作ってやればいい。
そうだろ? だから、俯くな。 苛まれるな。 お前は前を見て
自分の作りたい国を見続けろ。 邪魔するものは俺達が穿つ」
雷火の後ろで微笑む竜土と鳳金。
そうだ。
これから変えていけばいい。
そのために自分は立ち上がったんだ。
未来を変える。
蝶姫は新たに闘志を燃やし、その瞳はしっかりと前を見るのであった。
「面白いな、続きが読みたいなと思ったらブックマーク、高評価をお願いします。そして誤字脱字や意見などあったら是非コメントしてください。」




