平民の心
雷火以下迅雷隊の活躍により、あっという間に古城を制圧した。
これで、残るはこの先にある蝶永城。
しかし、迅雷隊も今の戦争で少なからず体力を消耗した為
この古城にて休息をとる事とにした。
「お疲れ様雷火! それに朱抗に呂凱も!!!」
雷火率いる迅雷隊は、城内で野営地を作り、そこで休息をしていた。
そこへ、蝶姫が労いに来たのだ。
「私の名前まで覚えていて下さっているのですか?!
この朱抗! 感激しました!」
「姫様がわざわざ我等を労いに来て頂けるとは、、、我等
迅雷隊、この先も姫様の為に戦いましょう」
朱抗も呂凱も驚いた。
将軍でもない自分達の名前を姫様が覚えてくれているのだ。
それに話したことだってないのに。
ただ名前を呼ばれただけ。
だが、不思議と蝶姫に名前を呼ばれると力が漲る。
そう錯覚する程に、蝶姫の言葉には力があった。
「それよりも、お前は平気なのか? この城に入るまでに
たくさんの死体を見たはずだ」
この古城の周りには多数の敵の死体があった。
城内の敵は、迅雷隊が素早く外へ出してくれたが、外の敵を埋葬するのにはまだまだ時間がかかる。
だから、城内に入るには多数の屍を越えて入らなければならない。
つまり、嫌でも死体が目に入るのだ。
首を斬られ、内蔵が飛び出し、地面を真っ赤に染められたその場所を。
もちろん、鳳金は蝶姫に目を瞑っていていいと伝えた。
自分達が蝶姫を運ぶから見なくていいと。
しかし、蝶姫は断った。
自分が始めた戦争だからと。
ちゃんと目の前で起きたことは、自分の目で見るんだと。
本当は死体なんて見たくは無いし、気分も悪くなる。
だが、彼女は気丈に振る舞っていた。
自分が決めた事だから。
「平気って言ったら嘘になる、、、 だけど、私は蝶国の上に立とうとしてる。 死体から目を背けたら、それまでに頑張って戦った人達を拒絶する事になる! だから、私は目を背けたりしないよ。 ちゃんと皆の顔を見て、国の為に戦ってくれている事に感謝をしてお祈りするの」
雷火は目を見開いていた。
そして、朱抗は涙を流し、呂凱も感動していた。
まだ17歳の彼女がここまで考えているのだ。
姫とはいえ、この世界に彼女の様な思考を持つものがどれ程いるだろうか。
恐らくいないだろう。
姫が戦場に立つことはないし、重鎮以外の名前を覚える必要も無い。
だが、蝶姫は違う。
自分の目で見て、自分の口で話して、一兵士とも気軽に会話をしている。
安全な場所から指示だけを出し、贅沢な暮らしをしている奴らとは違う。
だから、蝶姫は皆から好かれるのだ。
「お前は本当に変わったな。 皆の為にも早くこの戦いを終わらせるぞ」
優しく微笑み蝶姫の頭を優しく撫でる。
「うんッ!!! だから、雷火には皆が死なないようにもっと
頑張ってもらうね!!!」
とびきりの笑顔で、そう揶揄うと、
「そんな口がきけるなら、心配する必要もなさそうだな。
とにかく、今日は早めに寝ろ。 明朝すぐ出立するぞ」
雷火とのやり取りで、多少は心に余裕が出来た。
蝶姫は頷くとその場を後にし、自身の部屋へと向かった。
「なるほど、確かに鬼の雷火将軍が惚れるだけの御方だ。
恐らく、蝶姫様を嫌いな人などいないでしょうな」
「私も初めてお目にかかりましたが、姫様には不思議な力がある様です。 姫様の為なら死も厭わない。 そう思えるのです」
朱抗と呂凱がそう話すと、雷火は朱抗の頭を拳骨する。
「いたッ!!!?」
「馬鹿を言っていないで、お前達も飯を食べて早く寝ろ。
本番は明日だ。 無魂の報告では蝶永城に兵力を集めている様子。 激しい戦いになるぞ」
雷火の言葉に二人は頷くと、再び盃を乾杯し酒を飲んだ。
「鳳金、竜土! 一緒にご飯食べよう!」
卓上で蝶永城攻略の策を練っていた二人。
「あれ? 雷火は来ないの?」
「うん! 雷火は朱抗達と食べるってさ! それに敵が来ても直ぐ対応出来るようにって!」
「まぁ、ここは城であって城ではありませんからね」
「僕が守るんだから心配ないのに。 既にこの城の守りは完璧だよ。 まぁ、僕が居るんだから落ちるはずはないけどね」
「うん! 期待してるよ竜土! だから三人でご飯にしよ?
今日のご飯もすごく美味しそうだよ!」
興奮している蝶姫。
彼女は何よりも食べることが大好きだ。
そして、机の上に並ぶ食事を見て目を輝かせている。
出先なのだから、王族が食べるような豪華な食事では無い。
むしろ、一般人が食べるような質素な料理だったり、肉の丸焼きだ。
だが、蝶姫は喜んでいた。
心の底から喜んでいるのだ。
そんな彼女を見て、鳳金と竜土は関心していた。
「蝶姫って不思議だよね。 姫様ならもっとワガママ言うもんだと思うけど、こんな食事でも文句言わないんだもん。 っていうか
むしろ喜んでる? 本当に不思議だよね鳳金」
目の前で次々と食事に手をつける蝶姫を見て、何にも関心のない竜土でさえ、目が離せなかった。
「そうですね。 だから、皆も蝶姫様の事が好きで、接しやすいのでしょう。 そして、彼女を守りたくなるのでしょう。
蝶姫様は聞けば昔から姫という肩書きに固執してなどいなかったようです。 よく城をぬけては私達と、平民の子達で遊んでいました。 だから、蝶姫様には平民の心がよくわかるのでしょう。
そうして、自然と皆の心を掴んでいるのです。
蝶姫様が上に立てば皆が幸せな暮らしを手にすることが出来る。
竜土もそう思いませんか?」
食べ続ける蝶姫を見て、何かを思う竜土。
今目の前にいるのは姫ではなく、ただの女の子---そう思える。
「うん。 そうだね。 彼女は姫であって姫じゃない。
だから、いいんだろうね」
「さっきから何を話してるの? 早く食べないと全部食べちゃうよ?」
そんな彼女を見て二人は微笑み、共に食事をする。
こうして、蝶姫の人徳に皆が驚きながらも、次なる戦に備えるのであった。
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